279章 エマエマの過去とフユコの熱意
エマエマの歌は終了する。ユタカ、マイ、ホノカ、シラセ、フユコはあふれんばかりの拍手を送っていた。
ホノカは5人の中で、拍手は一番大きかった。エマエマの曲を聴けたことによる、感動は大きかったのかもしれない。ミサキの仮説を裏付けるように、瞳をキラキラとさせている。彼氏とデートする前の100倍、200倍は輝いているように見えた。彼氏はパートナー、エマエマは憧れであることを匂わせた。
「ホノカちゃん、感動したんだね」
「うん。言葉で言い表せないほどすごかったよ。生きているうちに、生演奏を聴けて本当によかったよ」
エマエマは天性の歌声を持っている。誰もまねできない、世界に一つだけの歌声である。
フユコは鞄の中から、一枚のCDを取り出す。とっても大切に保管されており、愛着を持っているのを感じさせた。
「エマエマさんは素晴らしい歌手なのだ。フユコはデビューしたときから、CDを購入しているのだ」
フユコの取り出したCDを見ると、エマエマは大粒の涙を流す。ミサキは何を意味しているのか、さっぱりわからなかった。
「5枚しか存在しない、CDを持っていらっしゃるんですね」
CDを1億枚売り上げた女性であっても、順風満帆な歌手人生ではなかった。苦労の時代を経て、一流の階段を上がっていった。
「はい。エマエマさんを新人時代から応援しています。フユコにとっては、永遠の憧れであり、ヒーローです。誰から見向きされなかったとしても、フユコだけは応援すると決めていました」
エマエマは目頭が熱くなったのか、瞳をぬぐっていた。
「CDにサインをしましょうか?」
フユコのアホ毛は、ピンと立つこととなった。サインをもらえることに対して、最高の喜びを感じている。
「エマエマさんのサインをいただけるんですか?」
「最近のCDを持っているファンの方はたくさんいますけど、新人時代の曲を所持しているファンは初めてです。フユコさんの心意気に対して、サインを差し上げます」
フユコのアホ毛は、うねうねしている。感動している中に、信じられない思いも含まれている。
「フユコは嬉しいのだ。心の底から感動しているのだ」
エマエマはくすっと笑った。
「私も最高のファンに会えて、とっても嬉しいですよ。旅館に宿泊して、本当によかったです」
フユコの持っているCDに、エマエマはサインする。
「フユコさん、これからもよろしくお願いします」
「エマエマさん、本当にありがとうございます」
フユコはCDを受け取ると、厳重ケースの中にしまう。誰にも触らせたくない、誰にも触れてほしくないという強い意志を感じる。うかつに手を出そうものなら、生命の危機に陥っても不思議
はない。
エマエマは室内に飾ってある、サインを眺める。
「ミサキさんも大切に飾ってくれています。大切にされるのは、とっても嬉しいです」
ルヒカ、エマエマ、ズービトルのサインは、五重ケースにしまってある。100年後、200年後になっても、そのままであってほしいと切に願っている。
エマエマから予想もしない、サプライズプレゼントが発表された。
「みなさんのために、握手会を開催します。時間は無制限ですので、好きなだけ握ってもらっていいですよ」
シノブ、マイ、ユタカ、ホノカ、シラセ、フユコは握手会に対して、瞳をキラキラとさせていた。
「エマエマさんと握手できるんですか?」
「はい。特別プレゼントです」
シノブ、マイ、ユタカ、ホノカ、シラセ、フユコの六人は、譲り合うことはなかった。自分が一番に手を握りたいと思っている。エマエマは子供じみた様子に、苦笑いを浮かべていた。
「順番を決めてくださいね」
六人は話し合ったのち、じゃんけんで順番を決めることになった。シンプルでありながら、簡単に決着をつけられる。
じゃんけんをした結果、勝利を収めたのはシノブ。彼女は最初に握手できることに、幸福を感じているようだった。
「シノブちゃん、エマエマさんを独占しないでね」
シノブは反応しなかった。ミサキはこれを見て、エマエマを独占するつもりでいるのかなと思った。