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第三十六話 再び北へ

 ユニコーン小隊の訓練期間が満了し、ラインハルトとナナイは革命軍司令部に任務完了を報告しに行った。

 小隊は再び東北戦線へ戻る事となった。

 宿舎から飛行場へ向かい、軍の大型輸送飛空艇に乗り込む。

 小隊を載せた飛空艇は北を目指して飛び上がった。

 飛空艇のキャビンで小隊メンバーは寛いでいた。

 ティナ、ヒナ、クリシュナ、ケニーの四人は、キャビンの眺めの良い席でパフェを食べたり、お茶を飲んだり、雑談しながら旅の一時を楽しく過ごしていた。

 ラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、ジカイラの四人も、席で小隊のこれからの任務について意見交換していた。

 ジカイラが三人にカスとの話を話し始める。

「首都の酒場で昔の知り合いから聞いたんだが、革命政府はメオスとの講和を蹴って、東南戦線から東北戦線へ新たに部隊を差し向けたようだ」

 ラインハルトが答える。

「そうか。上申書を革命政府に出したが、講和はダメだったようだ」

 ジカイラが補足する。

「それも犯罪者ばかりの部隊のようだ」

 ハリッシュが解説する。

「烈兵団ですね。悪名は知られています。性質(タチ)が悪い」

 ラインハルトが続ける。

「帝国本土を守るならともかく、メオス王国本土に攻め込むなんて、侵略戦争だろう?」

 ジカイラが答える。

「ああ。侵略さ」

 ハリッシュが革命政府の対応を批判する。

「戦禍が拡大し、憎悪の連鎖が広がるだけです」

「革命政府は、どれだけ血を流せば気が済むのかしら?」

 ナナイも批判的な意見だった。

「分からない」

 ラインハルトは一言、そう答えた。

 四人は、飛空艇のキャビンの大きな窓から遠くの景色を眺める。

『祖国防衛』

 戦争の大義は、既に失われていた。







 飛空艇は国境の街ヴァンガーハーフェン郊外の飛行場に到着した。

 市庁舎は未だに革命軍が司令部にしていたが、一部は解放され、一般の役人が出入りしていた。

 ラインハルトとナナイは、前線へ移動するために二台の幌馬車を手配した。

 他の小隊メンバーが荷物の積み込みを行う。

「なんだそれ?」

 ジカイラが驚きの声を上げる。

 ティナとクリシュナが見たことがない物を幌馬車の後ろに繋いでいた。

 ティナが自慢気に説明する。

「戦闘糧食研究会の秘密兵器よ!」

 幌が被せられ、車輪のついた、机のような物体。

 ジカイラは幌を捲って中を覗いた。

「台所か? これ??」

「そう! 野戦調理車よ!」

 ジカイラが苦笑いする。

「お前ら、いつの間に、こんなものを作っていたんだ?」

「士官学校にいた頃に基本設計していたの。訓練期間中に試作を軍に頼んで出来上がった、試作第一号よ!」

「まぁ、前線で旨い物を食えるなら、それに越したことはないな」

「でしょ?」

 自慢気に話すティナをそのままに、ジカイラは野戦調理車に被せられた幌を戻して荷物の積み込みに戻った。







 ユニコーン小隊は、ヴァンガーハーフェンで一泊。翌朝、二台の幌馬車に分乗してメオス王国領ソンドリオを目指して出発した。

 先頭の幌馬車にはラインハルト、ナナイ、ハリッシュ、クリシュナが乗り込み、二台目にはジカイラ、ティナ、ケニー、ヒナが乗っていた。

 小隊は街道を幌馬車で進む。

 昼近くなり、小隊は街道沿いにあった集落で小休止を取ることにした。

 集落は全て焼き払われ、無人の廃墟であった。

 ジカイラとケニーが周囲を探索する。

「人っ子一人いないな。無人だ」

 小隊は、無人となった集落の焼け跡で食事を取り休息した。

 ティナが疑問を口にする。

「この村の人達はどうしたのかな?」

 ティナの疑問にケニーが答えた。

「たぶん逃げたと思う。死体は無いし、街道を東に向かったたくさんの足跡と馬車の跡があったよ」

「そうだな。無人の空き家に火を付けたって感じだ。争った形跡も無い」

 ジカイラもケニーと同意見であった。

 食事と休息をとった小隊は、街道を東へ向かい、再びソンドリオを目指した。

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