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第二十八話 石の巨兵

 五人は宿営地に戻り陣屋に集まった。

 ラインハルトはケニーから詳細な報告を受ける。

「街には負傷者が溢れていて、メオス王国のポクリオン王があの街に居るのか」

「うん」

「判った。お疲れ様。ゆっくり休んでくれ」

「ラインさんもね」

 ケニーはそう言うと、ラインハルトの居る陣屋を出て、自分が寝床にしている陣屋へ向かった。

「クリシュナ。何か防御陣地を破壊できそうなものは召喚できるかい?」

「ん~。ゴーレムなんか、どうかしら?」

「一番強そうで、デカい奴が良いな」

「ストーンゴーレムかな?」

「それで良い。詳細は明日、全員集まってから話そう。皆、今日はもう休んでくれ。お疲れ様」

「おやすみなさい」

 クリシュナ、ティナ、ナナイの三人はそう言うと陣屋を出て、自分たちの陣屋へ向かった。





--翌朝、革命軍宿営地

 朝食を終えたユニコーン小隊のメンバーは、ラインハルトの陣屋に集まった。

 ラインハルトは作戦会議を開く。

 昨夜、ケニーから受けた報告と偵察してきた状況を皆に話すと、作戦案について話す。

「まず、クリシュナにゴーレムを召喚して貰って、ゴーレムで敵の防御陣地を叩く。そして、ヴァンガーハーフェンが丸裸になったところで、開城勧告をしようと思う」

 ハリッシュが聞き返す。

「開城勧告ですか?」

「そうだ。『王国軍の撤退を認める。代わりにヴァンガーハーフェンを明け渡せ』とね。うまく行けば、可能な限り、無用な流血は避けられる」

「なるほど」

「こちら側の力を見せつけて敵の戦意を潰す必要がある。敵が開城を拒否したら、ゴーレムと魔法の使用も、やむを得ない」

 ティナが異議を唱える。

「街の人を巻き込むのは止めてね」

「できる限り街の人は巻き込まないようにするよ。敵側には国王が居るんだ。国境の街に立て籠もって国王ごと玉砕する気は無いだろう」

「そうね。王国軍は国王だけは何としても逃がそうとするでしょうね」

 ナナイの同意で作戦は決まった。

 ユニコーン小隊は馬に乗り、昨日占領した野戦陣地へ向かう。

 野戦陣地の司令官に作戦の概要を話し協力を取り付け、自分達は先行する旨を伝える。

 小隊は更に国境の街ヴァンガーハーフェンへ進路を向ける。

 ラインハルト達、馬に乗るユニコーン小隊がヴァンガーハーフェン手前に着いたのは、昼過ぎであった。

 徒歩の革命軍がこの街に到着するのは、夕刻から薄暮に掛けての予定であった。

 小隊は馬から降りて、遠くに見えるヴァンガーハーフェンの街を眺める。

 街の正面には馬防柵と盛り土、いくつもの塹壕が掘られていた。

「一日でよく、ごちゃごちゃと作ったな」

 ジカイラが感想を口にすると、ハリッシュも自らの考察を述べた。

「普通、森の多いこの国で街道に行動が限定される騎兵は使いませんからね。先日の騎兵突撃に余程驚いたのでしょう」

「ハリッシュとヒナの魔法も警戒されているようね」 

 ナナイの意見も的を得ていた。細かい壕が随所に巡らされている。

「それじゃ、クリシュナ。そろそろ頼むよ」

 ラインハルトの声にクリシュナが答える。

「やっと私の出番ね! 任せて!!」

 そう言うと、クリシュナは懐から何やら文言が書かれた呪符を四枚、取り出して地面に置いた。
 
 クリシュナは地面に片膝を付いて、両手を地面に当て、魔法の詠唱を始める。

Я(ヤー・)  приказываю(プリカーズ・)  своему(ヴーズ・) слуге(ズィウス・)  по(ヴィー・)  контракту (コントラクト・)  с землей.(ズウィームリー)
(我、大地との契約に基づき、下僕に命じる!)

Уби(ウー・)райся!(ヴィリャシヤ!) Каменный(カーメレイ・) гигант! !(ギガント!!)
(出でよ! 石の巨兵!!)

 クリシュナの足元と四枚の呪符が置かれた地面に大きな魔法陣が現れ、クリシュナの頭上にも一定間隔で六つの魔法陣が現れる。

 クリシュナは立ち上がって両手を空に向けて上げ、天を仰いだ。

Скалы,(スカレー・)  камни.(カムニ)   Приди(プリズィー・)  из(イズ・)  мира(ミラ・)  призраков(プリズル・カ・)  и(フィ・) прими (プルミ・)  форму.(フォロモ) По (ポ・)  моей (マイ・ヴィー・)  воле.(ヴォーリャ)
(岩よ、石よ! 幽世より来たりて、形を成せ! 我が意のままに!)

 空中に浮き上がった呪符に地面から浮き出た石や岩が集まり、大きな人形を形作っていく。
 
 やがて集まった石や岩は巨大なストーンゴーレムとなった。

 出来上がった四体のストーンゴーレムは、魔法陣の中で片膝を付いて主であるクリシュナを注視していた。

 魔法陣の中でクリシュナは、ヴァンガーハーフェンの街を指差した。
 
 ストーンゴーレム達は一斉にクリシュナが指差す方向を向く。

 クリシュナはストーンゴーレム達に命令を下す。

Сокрушить(ソー・クラシーット・)  моих(モイ・)   врагов!(ヴィラゴフ!)  Сдирать,(ズィディライト・)  Stepping (スティッピング・)  давка!!(ダフカ!!)  Underway! (アンデロイ!)  Каменный(カーメネイ・)  гигант!!(ギガント!!)
(我が敵を粉砕せよ! 薙ぎ払い、踏みしだけ!! 進め!石の巨兵よ!!)

 クリシュナが魔法の詠唱を終えると、魔法陣は光の粉となって空中に消えていく。

 ストーンゴーレム達は、「承知した」と言わんばかりに両目を一度、大きく赤く輝かせると、隊伍を組んで歩調を合わせ、ヴァンガーハーフェンの街を目指して歩き出した。
 
 魔力を使い果たしたクリシュナは、その場にペタンと座り込み微笑む。

「どう? 凄いでしょ?? 私の魔法」

 ティナとヒナが呟く。

「「凄い・・・」」

 ハリッシュが座り込んだクリシュナに歩み寄る。

「凄いですね。ただし、戦場で魔力を使い切るのは、いけませんよ」
 
 そう言うと、ハリッシュはクリシュナを背負う。

 街に向かって歩いていくストーンゴーレムを見たジカイラがケニーに感想を述べた。

「アレって、攻城用のデカい奴だよな? 敵さんには悪夢だぜ」

「ああ」

 ケニーもジカイラに同意であった。

 ラインハルトはクリシュナに休むように指示する。

 魔力を使い果たして動けない状態で前線に連れて行くのは危険であった。

「凄いよ、クリシュナ。少し休んでいてくれ」

 ナナイが次の行動を提案する。

「ハリッシュはクリシュナと此処で休んでいて。私とラインハルトは、もう少し前でゴーレム達の戦いぶりを確認しましょう。ヴァンガーハーフェンが丸裸になったら、開城勧告をしましょう」

「そうだな」

 ラインハルトもナナイの意見に賛同であった。

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