バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第二十三話 翌朝

--翌朝

 ヘーゲル工房の朝は早い。

 フローラとティナは賄いの朝食の準備して、起きて来た者から順番に朝食を取り、職場である工房に向かう。

 オットーとハリッシュはいつも通りであったが、酔い潰されたケニーとジカイラは遅い時間であった。

 ハリッシュは朝食をとると「出発まで時間があるから」と社員寮の部屋に戻って読書していた。

 クリシュナとヒナは朝食を済ませたら、ティナとフローラの手伝いで洗い物をしていた。

「ふぁー。頭痛ぇ。ま~だ酒が残ってる」

 起きたばかりのジカイラはそう言いながら、朝食を取り始める。

 ケニーも今朝は辛そうにしている。

「親父さん、タフだね」

「ああ。流石、ラインハルトの親父だけにタフだわ」

 二人はそう言いながら食事していた。

 ティナが二人に尋ねる。

「ねー。お兄ちゃんは? ナナイは?」

 朝食を食べている途中のジカイラは、素っ気なく答える。

「まだ寝てるんじゃねぇの?」

「私、お兄ちゃん起こしてくる!」

 ティナはそう言うとラインハルトの部屋へ向かった。

「ナナイが朝、遅いなんて珍しいわ。私も行ってくる」

「私も」

 クリシュナとヒナもナナイを起こしに向かう。

 クリシュナがティナとヒナに尋ねる。

「ねぇ。ナナイって、どこの部屋だっけ?」

「知らない」

「私も知らない」

「えー。それじゃ、探さなきゃ」

 そう言いつつ、三人はラインハルトの部屋に行った。

 ティナがラインハルトの部屋のドアを開けて中に入る。

「お兄ちゃん、起きて! 片付かないからって・・・ええっ!?」

 ティナに続いてクリシュナとヒナもラインハルトの部屋に入る。

「「ええっ!?」」

 三人は絶句して固まる。






 三人が部屋に入り目にしたのは、シングルベッドでラインハルトとナナイが裸で抱きあって寝ている姿であった。

 ラインハルトの隣からナナイが起き上がる。

「あら? みんな早いのね」

 何事も無かったかのようにナナイはそう言うと、自分の乱れた髪を掻き揚げ、眠っているラインハルトの額にキスする。

 そして、ナナイは全裸のまま、傍らで眠っているラインハルトを起こさないようにベッドから出ると、ラインハルトの男物の白いシャツを袖を通して羽織り、鏡の前で身支度を始める。

 
挿絵



 ナナイは乱れた髪をとかしながら、唖然と絶句している三人に言う。

()、明け方まで起きていたから、もう少し寝かせてあげて。食事は私が用意するから」

 引きつった顔でティナが答える。

「わ、判ったわ」

 ショックを隠せないヒナがナナイに尋ねる。

「こ、これから戦地に行くのに、どうするの? その・・・赤ちゃん、出来ちゃったら??」

 ナナイはサラっと答えた。

「出来たら、産むわよ」

 身支度を終えたナナイは、未だに固まっている三人に近づいて言う。

「静かにしてね。()、まだ寝てるから。それと、私が()の部屋に泊まった事は、私達だけの秘密よ」

 そう言うと口の前に人差し指を立てて、片目を瞑って見せた。

 クリシュナが動揺しながら答える。

「わ、判ったわ。二人が大人の階段を登った事は、私達、女だけの秘密よ」

 クリシュナからの返事を聞いたナナイは、ラインハルトの部屋を後にし、出発の準備に取り掛かった。

 





 実は、ナナイは朝寝坊したのではなく、朝寝坊を装っていた。

 それには幾つかの理由があった。

 一つは「ラインハルトと同じベッドで寝ている余韻に浸っていたかったこと」がある。

 二つ目は「小隊内でラインハルトを巡る力関係をハッキリさせる必要があったため」。

 小隊の男性たちは、いわゆる「鈍感系」ではない。

 皆、色々と細かいところまで気が利き、神経を使うタイプであった。

 しかし、男では気が付かないが、女なら気が付くことがある。

 ティナは、ラインハルトに対して、兄妹以上の感情があること。

 ヒナは、ラインハルトに対して、上司に対する尊敬以上の感情があること。

 言葉にすると()()()()ため、ナナイは行動で示してみせたのであった。







 結局、ラインハルトが起きて来たのは昼の少し前であった。

 ナナイが用意した朝と昼とが一緒の食事に取り、出発の準備に取り掛かった。

しおり