第二十一話 暗殺者ギルド
首都ハーヴェルベルクにある安酒場。
その酒場の片隅にある薄暗いボックス席に一組の男女が席に着いていた。
女は二十代半ば。真紅の東洋系の体の線が浮き出るドレスで脚を組んで座っている。
腰から開くスリットからは、美しい太腿が顕になっているが、女は気に留める様子もない。
東洋系の顔立ちでサラサラとした長い黒髪の、大人の色香を振り撒く妖艶な美女。
その女は、腰に二本のショート・エストックを下げていた。
男はオカッパ頭、
キャスパー男爵だ。
女はご機嫌斜めであった。
「貴方が、その女の子をモノにするために、私が
「そうだ」
「女は、そういう、コソコソした『裏工作』を最も嫌うのよ?」
「構わない」
「正々堂々と剣で勝負したら?
「私は
「貴方の言う『大人の手段』って、暗殺なのね。」
「そうだ」
「
「知らん」
テーブルの上に拳を握った両手を置き、俯きながらキャスパー男爵が呟いた。
「本来なら帝国貴族である、この私が侯爵令嬢を伴い革命軍の英雄になっていたはずだ。にもかかわらず、奴が居たために・・・奴さえ居なければ・・・くっ」
キャスパー男爵の呟きを聞いた女は、口元に手を当ててクスクスと笑う。
「ふーん」
そう言うと、女はテーブルに肘をついて左手の手の甲に顎を置いた。
横目でネズミのようなキャスパー男爵を見る。
明らかに軽蔑の眼差しであった。
「本当に情けない男ね」
「どうする? 依頼を受けるのか? 受けないのか?」
キャスパー男爵の問いに女は答えた。
「アスカニア
キャスパー男爵が大声を発する。
「何故だ!? 貴様ら
「私達、
革命政府は、
しかし、各ギルドは革命政府の命令に従わず、
秘密警察と暗闘する日々を送っていた。
女は続ける。
「それに貴方も革命軍の士官でしょう?」
そう言うと女は口元に手を当ててクスクスと笑う。
「それはそうだが・・・」
「軍人なんでしょ? 貴方も。努力するなり、武功を立てるなりして、相手を見返してやろうとか、思わないの? 仮に私が
女の言葉は正論だった。
「うるさい!! もう、お前らには頼まん!!」
キャスパー男爵は激昂して席を立つと帰ろうとした。
女はすぐにキャスパー男爵の右手首を捕まえる。
「ダメよ。ここのお勘定は貴方持ち」
「くっ・・・そうだったな」
キャスパー男爵は店員に勘定を払うと足早に帰っていった。
女はグラスに残っていた酒を一気に飲み干した。
(ネズミ顔のつまらない男。それより
女は一人で笑みを浮かべると、席を後にした。