第十一話 木漏れ日の元で
--休日の朝
晴天の木漏れ日の下、寮の中庭でクリシュナは鼻歌を歌いながら洗濯物を干していた。
物干し竿に洗濯物を掛けていく。クリシュナは干している洗濯物の中に、ほつれている服を見つける。
「あら。繕っておかないと」
クリシュナは、ほつれた服をよけると、目立たない場所に下着類を干した。
(誰か下着を盗む人がいるとは思わないけどね。念のため)
下着を物干し竿に掛け終えたクリシュナは、樹の側の芝生の上に座り、ほつれた服を繕い始めた。
洗濯物から滴る水滴が芝生の上で一ヶ所に集まり、握りこぶし大の大きさになる。
それは小さな女の子の形になると、クリシュナのほうへ歩いていった。
クリシュナの目の前まで来た水滴の女の子は、手を振って挨拶する。
「まぁ。お洗濯を手伝ってくれるの? ありがとう」
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すると、洗濯物から次から次へと無数の水滴が同じ所へと舞い上がり、霧のように砕け散る。
やがて、その霧はゆっくりと降りてきて木漏れ日に当たり、虹を描いた。
「綺麗ね」
クリシュナは精霊達が作り出した虹を見て微笑む。
図書館から寮へ帰ってきたハリッシュが中庭に通り掛かり、クリシュナと精霊達の作り出した光景を目の当たりにする。
「ほう。これは・・・」
ハリッシュは中指で眼鏡を上げる仕草をした後、クリシュナを見つめる。
虹の掛かる木漏れ日の元で精霊達の祝福を受け、芝生に座って繕いものをするクリシュナ。
宗教画の聖女ような光景であった。
クリシュナは自分を見つめるハリッシュに気が付いた。
「ハリッシュ。また図書館通い?」
「ええ。魔法の深淵を学ぶには、どれだけ時間があっても足りませんからね」
そう答えると再びクリシュナを見つめる。
ハリッシュは想う。
(クリシュナ。私は貴女が好きです。銀色の髪も琥珀色の瞳も。貴女と貴女との日常を守りたいと思います。)
「どうしたの、ハリッシュ? ボーッとして」
不思議そうに尋ねてくるクリシュナにハリッシュはため息を吐き、中指で眼鏡を上げる仕草をした後、答えた。
「何でもありませんよ。クリシュナ」
そう告げると、ハリッシュは寮の自室へ向かった。
(貴女のその鈍感なところ、天然なところも含めてです)