239章 エマエマの心
エマエマは湯船に入る。ミサキはならうように、温泉に体をつける。
「とっても気持ちいいですね」
「はい、すごく気持ちいいです」
エマエマは大きな欠伸をする。
「すみません。見苦しいところを見せてしまいました」
「とっても疲れているんですね」
「はい。最近はとっても忙しく、年に20日くらいしか休みをもらえていません。過労の影響なのか、体は限界に近い状態です」
お金になるという理由だけで、人権を無視した労働を余儀なくされる。ミサキの頭の中に、奴隷の二文字が浮かんだ。
ミサキの休日は月に10日ほど。年間換算で、120日となる。社会人としては、平均的な休みといえる。エマエマのように、無理に働かされているわけではない。
労働を終えたら、部屋でゆったりとする。体のメンテナンスを、きっちりと行うことができる。
「体の疲れだけでなく、ストレスも抱えています」
体だけでなく、心も疲れている。エマエマにとって、ダブルパンチだ。
エマエマは思いもよらないことを口にする。
「心身に限界を感じたら、歌手を引退します。お金をたくさん得ることよりも、体、心を優先したいです」
エマエマは引退を考えるほど、追い詰められている。20を迎える前に、音楽業界からいなくなってしまうのだろうか。
「ミサキさん、手をつないでください」
「わかりました」
ミサキが手を差し出すと、エマエマはふんわりと握った。
「ふんわりとしていて、とっても柔らかいです」
「エマエマさんの手は、すごくあたたかいですね」
手をつないでいるだけで、心を温めてくれる。ミサキはとっても幸せな気分になれた。
「ミサキさん、サウナに入りませんか?」
「サウナは無理です」
「熱いところは苦手ですか?」
「熱いところは問題ないですけど・・・・・・」
「どこに問題があるんですか?」
「私は汗をかくと、すぐに痩せてしまいます。体重を維持できないという点で、サウナに入ることはできません」
通常の体の10倍以上のスピードで体重が落ちる。サウナに入ろうものなら、あっという間に骨と皮だけに成り下がる。
「ミサキさん、お湯を楽しみましょう」
「はい。ゆっくりとしましょう」
エマエマとゆったりとしたひとときを過ごす。一秒、一秒はとても贅沢な時間に感じられた。