238章 エマエマ登場
エマエマの見た目は細いけど、体はがっしりとしていた。散歩、筋トレなどの体力トレーニングをしているように感じられた。
肌の色からすると、食事管理も徹底していると思われる。プロになるためには、食事、運動は欠かせないようだ。
「みなさん、はじめまして。エマエマといいます。夜の歌を担当しますので、お楽しみください」
「エマエマさんの歌を聴けるんですか?」
シノブの質問に、エマエマは笑顔で答える。
「はい。みなさまの前で、歌わせていただきます。未発表の曲なので、一般向けには初披露目です」
曲を聴けるだけですごいのに、未発表の曲を発表するなんて。先ほどまで落ち着きを見せていた、心拍数は一気に高まることとなった。1分間あたりで、150を超えているかもしれない。
シノブは頭の中で、今夜の状況を整理する。
「タウダルヒカさん、エマエマさんのラインナップは豪華です。ホテルはすさまじい金額を払ったと思われます」
タウダルヒカ、エマエマの2組を呼ぶと、2000万ペソ以上は必要。高級ホテルであっても、簡単に準備できる金額ではない。
「ミサキさんに会うために、こちらからリクエストしました。料金については、1ペソもいただいておりません」
「無料出演するんですか?」
「そうです。こちらからリクエストしたのに、料金を払うのはおかしいでしょう」
「リクエストでない場合は、どれくらいの金額で引き受けるんですか?」
エマエマは首を横に振った。
「私は多忙なので、リクエストを受ける余裕はありません。どんなにお金を積まれたとしても、
Noと回答してきました」
エマエマは世界を飛び回っている。テレビ出演をスケジュールに組み込む猶予はない。
「マネージャーに調整をお願いして、2日間だけスケジュールをあけました。明後日からはタイ
ゴクに旅立ちます」
タイコクは飛行機で12時間かかる。電車移動などを入れると、一日のすべてがつぶれる。
「ミサキさんと会えて、心から喜びを感じています。一度でいいから、お会いしたいと思っていました」
エマエマはテレビでも見せないくらいの、満面の笑みを浮かべる。画面の向こう側に映っていたのは、愛想笑いだったのかなと思った。
「写真、画面で見ていたよりも、ずっとずっといいですね」
エマエマは別の温泉を指さす。
「ミサキさん、あちらのお風呂に入りませんか」
別々のお風呂に入ることで、二人きりの状況を作ろうとしているのかな。真意については、わかりかねる部分があった。
社員間の絆を深めるために、社員旅行にやってきた。単独行動ばかりとっていると、関係に溝を生じさせることになりかねない。焼きそば店で働き続けたい女性にとって、状況はいいとはいえなかった。
シノブは悩んでいる女性の、背中を優しく押す。
「ミサキさん、エマエマさんの希望をかなえてあげてください」
「シノブちゃん・・・・・・」
マイも笑顔を作った。
「ミサキちゃん、チャンスを逃す手はないよ」
ユタカはこくりと頷いた。
「貴重な体験、もったいない」
みんなに応援してもらったことで、気分は少しだけ楽になった。
「エマエマさん、お願いします」
「ありがとうございます。あちらのお風呂に入りましょう」
エマエマの後方からついていく。凛々とした体は、光を放っているように感じられた。