216章 写真撮影の依頼
「アヤメちゃん、うどんの仕事はできるの?」
うどんを喉に通せなければ、かなりのイメージダウンになりかねない。最悪の場合、損害賠償を請求されるリスクもある。
「うん。それまでには体調を回復させる」
「アヤメちゃん、無理をする必要はないよ」
「うどんの仕事は、起死回生の一手になるかもしれない。依頼を断るわけにはいかないよ」
どん底まで落ちた女性にとって、這い上がる絶好のチャンスを迎えている。好機を逃すという選択肢はありえない。
「アヤメちゃん」
アヤメと話をしていると、玄関のベルが鳴らされた。
「ミサキちゃん、お客様だよ」
「わかった。私が応対する」
扉を開けると、20歳前後の女性が立っていた。
「こんにちは」
女性は名刺を取り出す。
「私はこういうものです」
名刺には、「ミツバフタバ」と書かれていた。
「フタバさん、どういったご用件でしょうか?」
フタバは急いでいるのか、まくしたてるように話をする。
「ミサキさんの水着写真集を発売したいと思っています。協力していただけないでしょうか?」
写真集発売として、顔は真っ赤に染まった。
「私の写真集を発売するんですか?」
フタバは先ほどよりも、話のスピードをあげる。
「アヤメさんにお願いしようと思っていたのですが、解散したために枠を埋める必要に迫られま
した。緊急社内会議で検討したところ、認知度の高い、プロモーションのいい、人気のある女性
を起用しようということになりました」
「私はそんな女性ではありません。どこにでもいる一般人です」
フタバは視線を、ある女性に向けた。
「アヤメさんですか?」
「はい、そうです」
「アヤメさん、撮影をお願いします」
アヤメは一礼する。
「ありがとうございます。写真集の撮影に協力させていただきます」
女性の視線は、こちらに向けられた。
「ミサキさんはどうしますか?」
「わかりました。写真撮影をさせていただきます」
フタバはハンカチで汗をぬぐった。
「急で申し訳ないのですが、すぐに来ていただけないでしょうか。出版のことを考えると、今日中に撮影しなくてはなりません」
すぐに仕事をすると知ったことで、裏返った声を出してしまった。
「これから仕事するんですか?」
「はい。すぐに出発しようと思います」
「食事をしていないので、おなかもちません・・・・・・」
「ミサキさんのための食料は、たっぷりと用意しています。空腹になったときは。遠慮なくいってくださいね」
写真撮影に協力することで、ものごとは進んでしまっている。フタバにとっては、どんなことがあっても、ミサキを連れてくる必要がある。
「ミサキさん、アヤメさん、すぐに出発しましょう」
ミサキ、アヤメ、フタバの3人はすぐに車に乗り込んだ。