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天国への扉

「ボイラー室への扉はあそこね」

高梨が給食室の端の方を指差す。
ヅラリーノを正面として、左側の端に扉が見えた。

「僕はここでヅラリーノを食い止めているから、二人は先にボイラー室へ行ってて」

「高梨、お前っ」

「必ず後から行く。
そう、ボイラー室に入ってそのまま真っ直ぐ行った先に地下道への入口があるから」

高梨は俺の言葉を遮った。
高梨の瞳にはさっきの青白い炎は無く、優しげな光を放っていた。
イケメンだが、どこか垢抜けない元の高梨だ。

「わかった。高梨、必ず来いよ」

「約束するよ。
それと銃は置いていってね」

「わかった」

俺とパリスは持っていた銃を高梨に渡すと弾幕が止まった。

「ヅラリーノは弾切れを起こしたみたいだよ、この隙に行って!」

「高梨っ!」

パリスが俺を乗せた手押し台車を押し、一目散にボイラー室へと突っ走る。
同時に高梨は流し台の影から飛び出し、リロードで隠れるヅラリーノに向かって
自動小銃を掃射する。

ものの数秒でボイラー室への扉前に着き、パリスが扉を開け、俺たちはボイラー室へと入る。
ボイラー室はわずかに設置された蛍光灯が灯る薄暗い空間に、なにやら大きな機械があるだけの部屋だ。
扉が閉まった今も絶え間なく銃撃音が聞こえる。
これは高梨のものか、ヅラリーノのものか…

高梨の言葉通り、デカい機械と機械の間を真っ直ぐ行った先に扉が見えた。
扉の上には非常口への誘導灯が灯り、今の俺にはその誘導灯が天国への入り口に見える。
やっとだ、どうにかこの地獄から脱出出来そうだ。

「地下道ってのは非常口だったのか。
パリス行くぞ」

「うん シロタン」

パリスが俺を乗せた手押し台車を小走りに押して行く。

誘導灯下の扉を開けて中に入ると、そこは灯りが数メートル先の非常口誘導灯だけの暗闇、ボイラー室よりも一段と暗く、しかも狭い通路だ。

ここで給食室からの銃撃音が止まった。
高梨がヅラリーノを射殺したのか?それとも…

「パリス、急いだ方がいいかもしれないな」

「そうだね」

背後の扉が大きな音を立てて閉まった。
不意の大きな物音に思わず身体が反応する。
その響きに不安を掻き立てられる思いがするのだが、俺たちはもう引き返せない。

パリスは小走りに手押し台車を押し始める。

距離感的にはすぐ出口のはずなのだが、進めど進めど出口が見えてこない。
数メートル先に見えた非常口誘導灯が徐々に遠ざかっていくようにさえ感じる。
一体これはどうしたことなのか。

「何なんだ、これは。
非常口が遠ざかっているのか?」

「シロタン、ここからちょっと下り坂になってるよ」

「高梨はそんなこと言ってなかったよな?」

「そうだよね」

「まぁ、さっきのあの状況からして、言い忘れたのかもしれないな」

それでも引き返す選択肢は無い。
しかし、進めば進むほど斜面が急になっていく。
背後のパリスが車椅子のブレーキをかけ、速度を落とし慎重に進んでいることがわかる。

「何なんだ、これは?」

「あぁっ!」

パリスのものと思われるその声の直後、手押し台車が速度を上げて斜面を下り始める。

「シロタンごめん!」

台車に掴まり振り返ると、パリスは倒れ台車を手放していた。
パリスの野郎、転んだのか?

「パリーースっ!」

闇の中、辛うじてパリスの薄ら笑い顔のみが見える。
台車の速度はさらに上がり続け、パリスの薄ら笑い顔さえも見る見るうちに小さくなっていく。

これは一体何なのだ⁉︎
俺たちは道を間違えたのか?
そんなはずは無い、地下道への入り口など他になかった。それならこれは何なのか?

俺を乗せた台車はさらに速度を上げ、急斜面を下り続ける。
俺は落ちていくのか?闇の中へ飲み込まれていくのか?

「ぬっ、

ぬっ、

ぬなーーーーっ」



「話はそれからだ…」と中年男は言った 完



風間詩郎は帰ってくる。

「話はそれからだ…」と中年男は言った シーズン2へ続く。

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