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第3章の第41話 目覚めよホープ! 白い鳥よ、夢と希望を乗せて


【スバルの精神世界】
スバルは師匠の下で剣術の稽古を続けていた。
ガキィン、ガキィン、ガキィン
と組み合う。
「……」
「……」
両者、グググッと組み合う。
(――ここだ!)
スバルはワザと力押しで押し負けて、相手の力をこちら側に向ける。
「!」
(身が小さいことを活かすんだ!)
僕は低身長差を活かし、相手の懐に入り込み、剣を振り抜く。
「でやあ!!」
気勢いっぱい。
僕は剣を振り抜いた姿勢で、師匠の後ろにいた。
――だが、このとき先生が、「――あっ」とその口を零す。
それはしまった感だった。
攻撃に成功したはずのスバルの剣からバリッと雷伝が走り、それがスバルの全身に伝わりバリリリリリッと次いで、雷伝爆発をドォーンと引き起こすのだった。
爆炎が上がり、バリッと電流が駆ける中、
先に落ちてきたのが一振りの剣、次いで遅れて落ちてきたのがスバルだった。
――ドシャンと音を立てて落ちる。
「――あぐっ……」
「フンッ、惜しかったな……」
「しっ、痺れびれ……」
全身が雷に打たようで、まるで痺れて動けない……ッ。
「まっこんなもんでしょうね。短期間の修行じゃ」
「……フンッ」
先生がそう話しかけ。
師匠が剣を鞘にスゥ――ッと納めていき――カシンッと音が鳴るのだった。
「だが、今のは良かったぞ!」
「!」
褒めてくれた。
「相手の力より劣るお前は、ワザと力の駆け引きで負けて、その低身長差を活かし、相手の懐に入るしかない……ッ」
「……」
痺れが、だんだん弱まってくる。
「俺がお前に今回教えた奥義を活かせば、どんな局面でも対応できるだろう」
「……」
「……どれ? 痺れが納まってきただろう」
「!」
「立て」
「……ッ」
僕は、グググッと立ち上がる。
立ち上がった僕は、少しよろけてしまう。
「……クッ」
「フッ」
その様を見た師匠(俺)は、まだ若いと鼻を鳴らした。
「……剣術家同士の戦いでは、逆境に立たされた時、だいだい3パターンに分かれる……!」
「3パターン……」
「1つは、未熟なお前と同じように、手当たり次第に切りつけてこようとする奴……!」
「あっ……」
見に覚えがあるスバル。
「アハハハハッ」
これには笑って誤魔化すしかない。
「……」
それをか細い視線で見詰める師匠。
そこで、僕の代わりに先生が、口を零す。
「で、他の2つは……!?」
「……ああ、技だ」
(やっぱり……!)
「1つは、突進系の大技で相手の出方を封じ込める戦術! 最後のもう1つは、背水の陣に追い詰められたとき、放たれる『居合切り』だ!」
「居合切りか……」
「構えろスバル! お前の居合切りを……!!」
「……」
師匠に命じられた僕は、
その技を使う。
僕は前傾姿勢を取り、居合切りの構えを取る。
「違う!! それでは形だけだ!!」
「!?」
「よく見ていろ!! ――身は前傾姿勢を取り、やや身を小さくする感じだ」
「……」
僕は、習うように師匠と同じ真似をした。
「この時、鞘が斜め上に上がり、鯉口が下になる。で、鞘が左の腰にあるなら、右足が前に出るようして、踏み出す」
「えーと……」
僕は、師匠と同じ真似をする。
これを見ていた師匠は、「フンッ、まだまだだな……」と鼻を鳴らす。
「次のポイントは、わずかに鞘に納めた柄に手を添えるのではなく、一拍の間を開かす」
「一拍の間……?」
「これは全神経を集中した時、立ち向かってくる相手に対して、ギリギリの緊張感を持たせるうえで必要な事だ! この緊迫感がこの技の完成度を高める!!」
「緊張感か……かなり際どいな……」
「命懸けのやり取りなんだ! ……その生死の境目がこの技の出来・不出来を決める!!」
「……」
「ここからのポイントは、左手の親指で、鯉口を少し開き、鞘走りができるようにしておく」
「こ……鯉口? ってなに?」
「はぁ……見ろ、――このように鞘から剣を少し、親指の力でワザと少し開く行為だ」
師匠は僕が見えやすいよう、体の向きを変えて、見えやすくしてくれた。
これには一定の理解が得られた。
「な、なるほど……これが恋口?」
「字が違う」
「え?」
「はぁ……もう、何でもいい、やってみろ!」
「……」
あせあせと僕は師匠の真似をする。

【俺の弟子は、剣術の才は乏しかった……】
【だが時々、師である俺を驚かせることもあるのだから、こいつはよくわからん……】

「――よし、形だけはできてるようだな!」
「……」
「……」
「……」
それは緊張感、緊迫した現場だった。
「『ゆっくり長生き呼吸法』もついでに教えてやる!」
「!?」
ゆっくり長生き呼吸法。
「人は誰しも、追い詰められたとき、浅く速く行うものだ。……だがこれは悪い例えで、自律神経を乱し、集中力が落ちる……!!」
「……」
「魔力を覚えたお前なら、なんとなくわかるはずだ」
「……」
僕は小さく頷き得る。
「1日1分が目安だ。
やり方は、おへその下のところにある丹田に、意識を集中しながら、全身に魔力を均等に広げる感じだ。……浸透性……」
「………………」
周りの音が静かになっていく。
「次に口呼吸との対話のバランス。
やり方は、口から6秒間、肺の中に溜まった不活性ガスを吐き出し、鼻から3秒間、新鮮な空気を吸う。
口から吐いて6秒間、鼻から新鮮な空気を吸って3秒間。
これを3セットずつ繰り返し――」
「ハァ――……スゥ……ハァ――……スゥ……ハァ――……スゥ……」
「そこで止める!!」
「……」
ピタッと僕は、『ゆっくり長生き呼吸法』を止めた。
「全身に広がった魔力とさっき取り込んだ空気を、均等に……全身に行き渡らせながら、集中し、肌、肉、骨、血、内臓、神経に至るまで、全神経を集中させるんだ!!」
「……」
「……」
「……」
「……神経が研ぎ澄ませられてくるだろ?」
「……」
コクッ……と僕は小さく頷いた。
「だが、実際の死闘では、相手は待ってくれない」
「ハァ……」
僕は溜め込んでいた空気を吐き出した。
「……」
「……」
吐き出したなスバル。しょうのないやつだ。
師匠、長話過ぎるんだよ。
「……」
「……」
どっちもどっちである。
だから師が口を開く。
「生きるか死ぬかの死合いの多くは、いつも行っている『ルーティン』が、大きく生死のラインを決める!!」
「ルーティン……?」
「例えば、ゲーム好きのお前が気に入ったゲームであれば、毎日やり込んでいれば、必然的に強くなるだろ?」
「うっうん」
「同じ作業、同じ動作、いつも決まった流れを繰り返していれば、自ずと無駄な動きは省かれていき、その精度が増していく……!!
それは命懸けの死合いのとき、勝つためのイメージが強いやつが勝つ……!!」
「……勝つためのイメージ……!!」
「そうだ! 今のお前は、俺から見ても、無駄が多い!!」
「……」
「本気でどんな仕事にも取り組めば、そんな無駄は減り、作業の効率性が増してくる!! それは強いイメージを持った、ゆっくり長生き呼吸法で、心に喝を刻み込むんだ!!」
「………………」
スッと僕は居合切りの構えを取った。
そして、ゆっくり長生き呼吸法を経て、勝つためのイメージを考える。
「……フッ、それでいい」
認める師匠。
「……」
「……」
スバルの顔、
師の顔。
「……」
「……」
鞘から鯉口を切るスバル、
師の指。
「これからお前に教えるのは、『居合切り』と『その封じ方』だ!」
「……」
「俺から、『奪っていけ』!!」
「……」
技を教える師匠。
僕はその師匠から技を盗むために、小さく頷き得る。
「「………………」」
真上から見た構図。
「「………………」」
横から見た構図。
緊迫した緊張感が流れ、2人を中心に、場の空気がゆっくり回転する。
「……」
「……」
「「………………」」
回転する、回転する。
「……」
「……」
スバルの頬から脂汗が流れ。
師の足が床についたまま、ジリッと進む。
「……行くぞッ!!」
「!」
攻撃を仕掛ける師匠がワザと宣言する。
僕はその緊張の瞬間に備える。
師は、ダンッと床石を一足で蹴り砕き、凄まじい速さで突っ込んでくる。

真上から見た構図のアングル。
両者、鞘から刀身を抜き放ち、鞘走りで威力と高速化を図る。
そして、相手目がけて、『左逆袈裟切り』を『居合切り』でカウンターで応じる。

だが、この瞬間、師は、弟子が鞘から刀身から抜き放たられる角度と速さを注視していた。
瞬間的に、切りつけてくるポイントを掴んだ。

両者の繰り出した居合切りが、光の線となって煌めき、中央で剣戟となって組み合う。
すかさず師匠は、その組み合った姿勢のまま、体を滑り込ませ、スバルに『タックル』を決めた。
「!! ――ッ」
ドサッと虚をつかれた僕は倒れた。
この時、この一瞬、僕はやられたことを悟る。
僕の視線は、真上を向いていて、師匠はこの時飛んでいた。
ジャンプ攻撃だ。
その剣を突き立て、真下にいる僕に、トドメを刺す――ガシィン
「………………」
「………………」
「………………」
トドメの一撃。
静寂の間が流れ、真上から見た構図の視点。
横から見た構図の視点。
そして、師匠から見た構図の視線の3つ。
「………………」
そのトドメの一撃は、僕の顔、すれすれに繰り出されていた。
床に突き立った白刃の剣がギラリ☆と輝き、僕の横顔を映し出している。
「――プハァ……ハァッ、ハァッ」
(勝てなかった……)
「ハァッ、ハァッ」
(まさか、こんな封じ方をされるだなんて……。それにこのトドメの一撃……!!)
僕は学習した。
トドメの一撃を、そして、もう1つの技を。
師は、床石に突き刺していた剣を引き抜く。
「……これが」
「!」
「これが、『居合切り・封じ』と相手の息の根を止める『トドメ』だ」
「………………」
床に伏した僕は、その技の名前を心に刻む。
(居合切り・封じ』と『トドメ』か……。スゴイ技だ……)
僕は瞼を閉じて、心に収める。
その時、師から声を投げかけられて、目を開ける。
「……だが」
「?」
「どんな技にも、必ず付け入るスキがある……!!
例えば、居合切りの使い手には、遠くから魔法攻撃を仕掛けるのが一番だ!」
「ああ……」
これには僕もなんとなくわかる。
カウンタータイプには、遠距離攻撃から魔法攻撃が有効だ。
相手にしてみれば、待つだけ、デメリットでしかない。
「だが、一流の魔法剣士の場合は、自身の周りにバリアを張り、ほとんど下位の魔法を防ぐやつもいる!!」
「! ……もしかしてその人って……?」
「ああ、前に俺が倒した事があるやつだ……あれは、強かった……!」
「……」
気になる。
床に伏していた僕は、起き上がる。
「!」
その時、師が手を差し伸べてくれた。
僕はその手を掴み取り、立ち上がらせてくれた。
師の昔話が続く。
「……」
「……」
「あいつの必殺技は、居合切りで待ちを構えを取り、相手の魔法攻撃をバリアで防ぎつつ、その鞘にパワーを溜めていたものだ。
そこから抜きはなられた必殺技は、圧巻の一言……!
たった一振りで、10から100の命を奪った……!!
厚い金属の装甲を易々と断ち切ってな」
「――!!」
――僕はそれを聞いて衝撃を受けた。
一撃で100人の奪う、紛れもなく強者だ。
「対峙した俺は、正々堂々とサシの勝負を受けた……!
終盤に差し掛かった時、相手のバリアを切り裂きながら、相手の剣を封じる手が浮かんだんだ……!!」
「もしかしてそれが……」
「あぁ、今、お前に教えた『居合切り・封じ』だ!!」
俺は目を瞑り、当時のその光景を思い起こしていた――




☆彡
――師匠の回想。
【――相手はバリアを張ったまま、待ちの構えを取る魔法剣士】
【その鞘にパワーを溜め込んでいくタイプだ】
【時間が経つにつれ、その必殺の一撃の威力が増していく】
【最高まで高まった必殺の一撃は、驚嘆ものだ……!!】
【対して俺は、バリアは使えず、使えるのはいくつかの魔法と剣術だけだ】

「勝負――!!」

【果敢にも俺は、大地を蹴り、攻め込んだ】
【その瞬間――】
【バリアの中から、刀陣が襲ってきた】
【刀陣……?!】
【ああ……それは長年のルーティンによって、身につく能力だ!!】
【長年のルーティンによって研ぎ澄まさられたそれは、強く、鋭く、速く、何より勝つために、イメージされた幾多もの白刃のきらめきだった】
【相手は魔法剣士】
【一流の剣術家から放たられるそれは、ただのイメージであり、幻覚程度だが……】
【こいつは違う――】

スパッ、ビシッ、ビシッ、ビシッ、ビシュッ

【俺は、我が身を傷つけながらも、前進を続けた】
【この程度では、魔力を張った俺を殺せないと、今までのやり取りの中で、それを知っていたからだ】
【俺は、相手の鯉口を注意してみた】
【相手は、鯉口が開き、白刃が鞘から解き放たられる、その一瞬――】

「――終わりだ!! 『爆華・居合切り』!!!」

【それは解き放たれる瞬間、爆発魔法の爆発的な推進力も合わせた必殺の居合切りだった】
【この刹那の瞬間、俺は――】

「『火雷』ファイアサンダー(ピュールケラヴノス)!!」
カッと天が光った。それは雷光だった。
【――その刹那、目も眩むような真っ白な閃光が俺達を襲った】
【この相手に、無傷な戦い方を選べば、俺はそこで死んでいたからだ……】
刹那の時間。
火雷が爆発魔法とバリアを相殺。
鞘から俺の剣が解き放たれていて、相手の剣戟が重なり合い。
刹那の時間が終わり、瞬間の時間が流れる。
――ドォオオオオオオン
と。
【火雷と爆発魔法が力比べしながら、俺達の繰り出した力が、技が、まるで拮抗しながら、その両雄の光のドームの中】
【俺は、相手の剣戟を封じたまま、身を滑り込ませ、『胴切り』を繰り出していた……】

両雄の光のドームが、大きく周囲に広がりながら、轟音を立てて、爆ぜたのだった――

【――そして】
【青い火花が、降り注ぐ中、俺はギリギリのところで、立っていた……】
【俺の身は、激しく傷つきつも……】

俺の目線の下には、胴切りした、魔法剣士の遺体があった。
呼吸を思い出した俺は、呟く。
「……ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……強かった……!」
俺は向こうを向いた。
「勝つぞ、この戦……!!」

【勝利を飾った俺は、その場を後にしたのだった……――】

師匠の回想終了――


☆彡
師匠は弟子に、過去の実戦経験を告げた。
「この『居合切り・封じ』は、そうした実戦経験の中で、偶然生まれた技だ……!」
「実戦経験の中で……。………………」
僕は素直に凄いと思った。
「これはどんな流派! どんな技にも言える事だが、古式とは本来、そうした実戦経験の中で培われた技術なんだ!
師は弟子に教える際、その技を叩きつけ、その痛みを覚えさせる!
そして、過去にあった出来事を話せば、自ずと理解が深まるだろう――」
「………………」
師から弟子へ、それが継承される。
僕は素直に頷いた。
「俺も、まだ若い時、師からそうやって教わった」
「……師匠も……!?」
「ああ。その教訓は今も生きている。……俺たちは、とうの昔に死んでしまった人間だが、引き継いでくれるなら、……何も言う事はない」
「その流派の名前は?」
「すでにお前に教えた、没落した名だが……。……『怨魔流』という」
「……」
――僕は、再びその名を胸に刻み込む。
(――『怨魔流』……)
と。
「だが、お前達世代で、その名を語れば忌嫌われるだろう」
「ハハハ……」
「だから、お前が新しく名付けろ!!」
「えっ!? 僕がッ!?」
「あぁ、そうだ!」
「弱ったな~……」
「……」
僕は師匠の前で、困った感じで後ろ頭をかいていた。
師は、説明を続ける。
決めるのはお前だ、スバル。
「……既に怨魔流は没落した名だ……! 過去の亡霊をいつまでも引きずってどうなる!? ……それに印象も悪いしな……改名したいと思ってた……!」
「……なるほど……改名か……」
これには僕も、頭を捻りながら「う~ん……」塾孝す。
「まぁ、時間はあるんだ!」
「!」
「お前が弟子を持った時、怨魔流の話をして、それとなく改名していけばいい」
「……いいんですか?」
「……」
「……ホントに?」
「……」
「……」
「……」
スバルの顔、何も言わない師の顔。
「「……」」
そして。
「……わかりました。では僕の判断に任せてください」
「……フッ」
この時、師(俺)はほくそ笑んだ。お前なら、任せてもいいと。
「……確かに、弟子か……。……う~ん……戦力がいた方が後々便利だしなぁ……」
「そしてもう1つ! 条件がある!」
「!」
「奥義を継承をするとき、次の代を担うものは……」
「……」
それは僕のことだった。
「新技を編み出す事!」
「新技……」
「ああ、そうだ……! 時代や、場や状況により、そうした事態は様々と様変わりする……!」
「……」
「まるで生き物のように……! お前がプロトニアになる以上、各宇宙、各惑星におもむき、そうした環境の中でもまれることで、お前だけの新技の輪郭が見えてくるはずだ……!」
「……」
「それを編み出した時こそ! お前が次の代を担え! いや、新しい流派を創るんだ!!」
「新しい流派を創る……」
「……」
コクリと頷き得る師匠。
「全球凍結した地球を復興させるなら……。新しい流派が生まれても……」
師は背中を向いて、背中で語る。
「――いいんじゃないのか……?」
「……」
僕は師の背中を見詰め。
「……」
「……」
その背中に一礼を取ったんだんだ。
師はそのまま、「フッ」と笑みを浮かべる。
そして――


「――もういいかしら?」
「!」
「!」
それは魔法の先生からの問いかけだった。
先生が歩み寄ってくる。
その時、師が。
「そうだな。……では最後に1つだけ注意しておこう! 大事な事だ」
「!」
「!」
こっこいつ……いい話で終わればいいのに……ッ。
「ハァ……」
あたしは頭を悩ませながら、どうぞとその手で促した。
「……」
頷き得た師匠は語る。
「よく覚えておけスバル」
「!」
「実践じゃとにかく、いろいろなやつがいる。戦士タイプや魔法使い、トラップを仕掛けるタイプもいる。
人間だけとは限らない。
お前がこれから先、プロトニアとして活動する以上、相対するやつは、まだ見た事ない宇宙人や、魔物や怪物なんかも考えられる……!」
「……」
「洞察眼を養え!!
人の体格や身長体重、手の大きさや長さ、4本腕や8本腕の多さ。翼が生えたやつまでいるはずだ!
そして、人は、扱う武器の種類や、刃渡りの長さによって、状況が様変わりしてくる……!
まるで生き物のように、
……その答えは、人の数だけある……!」
「……」
「忘れるな! どんな技にも、必ずつけ入るスキ・弱点が潜んでいる! その呼吸法の活きつきをつき、こちらから潰していけば、相手は何もできなくなる……!
どんな技でもだ!!
……この言葉、決して忘れるな……」
師は、そう言い残し、歩み去っていく――
「………………」
僕は静かに、その背中に向かって、小さく目を閉じて、頷いたんだった。
次に僕に近づいてきたのは、魔法の先生だ。
「――さあ、魔法の特訓を始めるわよ!」
「……」
コクッ……と僕は小さく頷き得る。
「よしっ! これから君には、『氷瀑』を納めてもらうわ!!」
「氷瀑!? ……えっ!? でも次は、大地の魔法なんじゃ!?」
「ノンノンノーン! それじゃあパワーが足りず、今回みたいなレグルスが相手なんじゃ、君が命を落とすわ!」
「……」
「命がいくつあっても足りない……! もはや、基本じゃ君の命を護れない……!! あたしはあの戦いを見ていて、そう痛感したわ!!」
「……だから氷瀑なんですね……!?」
「ええ、一足飛びで、初級から中級魔法の氷瀑を納めてもらうわ」
「……」
とこれを見ていた師匠は。
(おいおい待て待て! あ、あいつまた基本を疎かにして……ッ!? だ、大丈夫なのか……!?)
心配だと、その顔にありありと出ていた師匠なのであった……。
師匠の胸を締め付ける、心配の種は続く――


☆彡
【精神世界の古代のナイアガラの滝】
巨大な大滝が打ちつける様はまさに、大瀑布そのものだった。
渓谷には水飛沫が上がっており、虹が出ている。
二重虹。
そのナイアガラの滝を見渡せる大地の上に、突如、時空間の魔法の穴が開き、先生を初め、スバル、師匠と出てくる。
「!」
僕は、頬に打ちつける水飛沫を感じ、振り向いたら……。
巨大過ぎる大滝が轟音をたてて、打ちつけていた。
――ドドドドド
その流量は計り知れない……ッッ。
「な、何だここは……!?」
「ここは、あたし達が生きていた頃の、ナイアガラの滝よ!」
「ナイアガラ……? ……んっ!? 何かのTV番組で昔見たことあるような気が……」
「……」
「……」
「もしかして、世界最大級の大瀑布!!? 巨大な大滝!?」
「……」
先生はニコッと笑みを浮かべて。
「正解!」
「ハァ――……」
僕は開いた口が塞がらない。
「さて、スバル君、こっちにいらっしゃい」
僕は先生に促されるまま、その後ろについていった。


☆彡
――ドドドドドッ
ナイアガラの滝が轟音となって激しく打ちつけ、激しい水飛沫が上がっている。
――ドドドドド
その大瀑布の如き巨大な大滝が打ちつける場所の周辺にて。
「まあ、改めて、レグルスを打ち倒したことを褒めるわ。スバル君」
それは魔法の先生からの賛辞だ。
「はい!」
「途中、ヒヤッとする危うい場面はあったけど……それはもう注意したから良しとしましょう」
「ハハハ……」
そう、僕はあの後、散々師匠と先生からこっぴどく叱られて、注意を受けていたのだ。
その話は割愛とする。

『お前は自分の命を軽んじている』
『命は1つしかないのよ、少し軽視し過ぎよね? そんな事のために剣術と魔法を教えているわけじゃないんだからね!』

――と。
「子供相手に魔法を使ったことや、女の子の髪を掴んで、振り回して女子にぶつけたことも、不問とする」
「うっ……」
(またかよ……)
それは師匠からの注意だった。
そう、あれからネチネチと注意を受けているのだ。
かとなく僕の身が、ズキズキと痛んできた。
(やっぱり怒ってるかな……一般人まで手を挙げて……)
「……」
「……」
見下す師匠と先生の冷たい視線。
これには僕も汗々かいていた。
(もう勘弁して~……)
僕は心の底から思った。
「そうね。Lちゃんの忠告も聞かず、生身でほぼまだ室内といえど、宇宙空間に流れ出す、急激に失っていく酸素と著しい外気温の中、よくあれだけ歌えたものだわ」
「あい……」
もう反省会だった……ッ。
先生は鼻で「フンッ」とご機嫌斜めで、
師匠は「フゥ……」と溜息をついた。
ホントに先が思いやられる弟子を持って、教える方も相当苦慮しているのだ。
「――さて、魔法の授業をするわ」
「……」
顔を上げて、コクリと頷く僕。
「前にも言ったように、どうやらスバル君は、火よりも氷の扱いに長けている! この長所を主体に伸ばしましょう!」
「やっぱり氷雪系や氷結系か……」
僕は「フムゥ……」と考え、やはりかという感じだった。
そう、前々から、なんとなくそんな気がしてたんだ。
「氷魔法の初級は覚えてる?」
「はい。それぞれ、『冷気の球』、そして『氷柱』ですよね!? 僕なんかは、威力が強い『氷柱』を選んでますが……!」
「うん、その認識で問題ないわ!
だからあたしは、順番を無視してでも、先にあなたに『氷柱』を覚えさせた!
時間が足りず、即実践運用できる『氷柱』を捨取選択した!」
「……」
(そう、だから僕の魔法は、覚える順番を守らずに、基本を疎かにしている、キライがある……!! ……ホントに大丈夫なんだろうか?)
僕は今更ながら、不安に思えてくる。
(コントロールとか……)
それが一番の難題だった……。
「今回は、あの宇宙空間に逃げていく穴を塞ぐために、氷柱が役立ったことでしょう!?」
「うん……」
「……」
先生も鼻が高々だった。もう自慢気だ。
「でも、氷柱では例え条数が多くても、パワー不足感は否めない……」
「……」
これには僕も、まったく同意見で頷いた。
「氷柱のように、詠唱が短く、中級魔法程度の威力が求められる!
特に実践運用では、
詠唱が長い事で、間に合わない事や、失敗し暴発する危険性すら絡む。
また、敵の攻撃を受けて、手足を失う危険性や、命を落とすことだってあり得るからね!」
「……はい……」
僕は頷き得た。
そこで師匠が、心の中で問いかける。
(それは最悪への備えだ! しっかり聞いておくんだぞスバル……ッ!)
「……」
師匠は腕組をしながら、心の中で、僕のためを思ってそう思っていたのだった。
と先生が。
「!」
僕の見ている前で、大岩の方に歩み寄っていき。な、何をする気なんだろう。
「………………」
ソッとそれに手を触れる。
「つまり、実践運用では、長文詠唱よりも、短文詠唱の方が好まれる!」
「……」
「中でも、無詠唱クラスになってくれば、一番なのよ! ……だけどね、今の君にそれは無理な話……!」
「うん、できなくはないけど、暴発の危険があるからなぁ……」
それが心配の種だ。
無詠唱は、極論、今の僕でもできる。
「けど……コントロールがなぁ……」
そう、その壁が邪魔して、無詠唱をより難しくしていた。
先生が話を続ける。
「中級魔法程度で、詠唱が短く、氷魔法の中で威力が高い技……!」
「! ……」
「実践ではこれが求められる!! ……その名を『氷瀑』! よく見てなさい」
ドドドドドッ
向こうの方で、ナイアガラの滝が激しく打ちつけていた。
そして――

「――『氷瀑』フリージングエクスプロージョン(パゴマエクリシィ)!!!」

――ドォオオオオオン
僕の目の前で、先生がその魔法を行使すると、初めに閃光が起り、すぐに氷の爆発が起った。
僕の元に吹っ飛んできたのは、その大岩を形成していた岩の破片たちで、遅れて、ヒンヤリ流れ込んできたのは、凍てつく爆発後の冷気だった。
その大岩だったものが、石片となり、辺り一帯に散らばる。
場は、シ――ン……と静寂していた。
「……」
「……」
「……」
先生、僕、師匠とその様子を俯瞰する。
と先生が、その魔法を語る。
「今の業が氷瀑!! 『氷瀑』フリージングエクスプロージョン(パゴマエクリシィ)という技よ!
詠唱式は、『打ちつける大瀑布の如き滝よ、我が力強い腕に宿りて氷塵せよ』!! ――パゴマエクリシィ!!!」
続いて、何もないところで、氷の爆発が起こる。
――ドォオオオオオン
と凍てついた爆煙がやむと……そこへ流れ込むように風が吹き、煙をさらっていった。
その氷瀑の影響で、地面には、大きな凹みの跡(クレーター)ができていた。
「……」
僕は目を大きく開けて、ただただ驚いていた。
「この技は、接触していなくても、もちろん使える……!! あたしの得意技よ! 良かったわ! 君があたしと同じタイプで!」
「タイプ!?」
「おそらく、君の得意属性は水よりで決まりだと思う!」
「……」
どうやら僕は、先生と同じように水よりらしい。
「……」
先生は顔を上げて、語り出す。
「火炎魔法の『爆裂』! 氷結系の『氷瀑』と双璧をなしている業よ!」
「……氷瀑……!」
僕は、その魔法名を胸に刻み込む。
「……ついてきて」
先生はそう言うと、大岩のところから歩みだし、僕たちから見て、左手側に歩を進めていくのだった。
僕たちもそれに習って、先生の後ろ姿についていく――


☆彡
――先生を先頭に、
僕と師匠と続いて、とあるつり橋を渡っていく。
つり橋はとても古いもので、複数の丸太と丈夫な麻紐で編まれたものだった。かなり古式だ。
目を向ければ、巨大な大滝が見えて、打ちつけるように大瀑布の音を轟かせていた。
白い煙が上がり、冷たい水飛沫がここまで届いてくる。
むしろ、打ちつけるようだ。
「………………」
先生がそのつり橋の中間辺りにきたとき、その足が止まる。
「……ここぐらいでいいでしょう!」
「……」
(いったい何が始まるんだ……!?)
わざわざ、こんなところまで連れてきて。
先生は、その顔を師匠に向けてこう言い放つ。
「……師匠! 先にこの子に火雷についての説明を!」
「!?」
「……」
コクリと頷く師匠。
僕は後ろにいる師匠を見やる。
「スバル、同じ、中級魔法の火雷と氷瀑とでは、その様式が違うのはわかるか……!?」
「様式が違う……?!」
――ドドドドド
と巨大な大滝が大瀑布の如く激しく打ちつける。
「――火雷の使用条件は、天空に雷雲があることだ!」
「雷雲……」
「雷雲があるときにだけ、使えると言っただろ!?」
「あっ……」
なんとなく察したスバル。
「中級魔法の落雷魔法には、大きく分けて2種類ある!
1つはさっきも言ったように、自然現象の雷雲から、直接、稲妻を打ちおろす様式だ!
お前が使ったが、まさにこれ!」
「……」
「また、火雷は、その練度を経れば、晴れの状態でも関わらず、稲妻を打ちおろす事だってできる!!
これは自然現象でも、晴れの時、起きている事だ!!
だが……今、お前にできるのは、せいぜい、雷雲があるときや雨雲がある時ぐらいだろう……」
「……」
そう、それが今の僕の限界だ。
今の僕の練度では、せいぜい、雷雲から火雷を落とせるのは当然として、あとはせいぜい雨雲から落とせる程度だ。
だが熟練度次第で、晴れの日でも火雷を落とせるというものだ。
師匠は話を続ける。
「そして、もう1つは、お前の魔力次第で、ここみたいな開けた空間ではなく、敵のアジトに潜入し、その屋内の空間でも落雷を落とせる技がある……!
「……そんな雷が……!」
「ああ、ある!!」
「……ッ」
それは凄い事だ。
基本、雷は屋外でその自然現象が起きている。
だが、もう1つの雷は、屋内でも同様に起こせる雷がある……というものだった。
これには僕も。
(……いいぞ! 直接雷雲から打ち下ろすだけじゃなく、晴れの時や! もしくは、自分の魔法で打ち下ろすタイプのものまであるなんて……!
「だが……!」
「!」
「こちらも時間が足りず、実力不足感が否めないお前には使えないと、勘ぐった!!
それは、こちら側で総合的に判断した結果だ!!
……今でも、その判断に誤りはなかったと思っている……!」
「……」
うん、おそらく事実だろう。
僕自身、実力不足感が否めないのだから……。
「事実、今のお前の魔力コントロールでは、暴発の危険性すらあった……!
仮にあの場で、使用していた場合、盛大に自滅していた事だろうしなッ!!」
「グッ……!!」
ニヤニヤと笑う師匠。
それだけ僕の魔法の扱いがヘタクソだったからだ。
あーもう悔しい。
そう言われては、申し開きようもなく、僕自身の実力不足感を認めざるを得ない。
「……グッ」
「だから、それ故に黙っていた……! お前がその事を知れば、頭の中にそれがチラつき、火雷だけに集中して覚えるのに時間がかかると踏んだからだ! 故に、黙秘を貫いていた……」
「な、なるほど……」
そんな考え方があったのか……。
僕は遅まきながら納得した。
(でも、なんか悔しいような……)
何だこれ。
確かに僕がその事を知れば、修行中に熱が入らず、時間を無駄に浪費していたかもしれない……。
師匠たちなりに僕のことを考えて、最短距離で習得させてくれたからだ。
ありがたい……のかなぁ。
「……」
頭を捻るスバル。
「……」
「……」
その様子を見るは、師匠と先生の2人だ。
「――だが、火雷にはもう1つにはない、特別感がある! ……何だと思う!?」
「う~ん……。あっ! もしかして……! 追加の呪文キーの『迸れ』!?」
「フッ」
「クスッ」
笑みを浮かべる師匠と先生。
どうやら当たりだったみたいだ。
「そうだ! これには追撃がある! 先生がお前に教え、師匠である俺が指導しただろ!? なんて言ったか覚えてるか!?」
「え~と……『火雷』には落雷の後、2つの追加の呪文キーがある! 追撃と言われて、それぞれ『迸れ』と『薙ぎ払え』の2種類!
『迸れ』は強敵用で、落雷を落とした後、追加の呪文キーで、全身に激しい雷撃が駆け巡る、いわば強敵用!
『薙ぎ払え』は雑魚敵用で、落雷を落とした後、外した場合でも、追加の呪文キーで、魔力を帯びた手動操作にて、ある程度は操作が可能! 雑魚殲滅で役立つだろう……と言ってました」
うんうんと頷き得る師匠。
「そこは覚えていたな、偉いぞスバル!」
「いやぁ~」
と照れくさいスバル(僕)。
そこは褒められてて悪い気がしなこない。
とここで先生が。
「――そこまでわかっていれば、氷瀑の輪郭にも自ずとわかってくるでしょう」
「……」
コクリと頷くスバル。
「氷瀑は、火雷と違って、自分の好きなタイミングで使用できる!! ここが大きなメリットね!」
「……」
僕は、なるほどなという思いで頷き得る。
「ただし、自然現象の火雷と違って、あなたの魔力に左右にされる氷瀑は、むしろあなた次第の力と言える!」
「……僕次第の力……!」
「……」
スバル(僕)は自分の掌を見て、グーに握りしめる。
それを認めた先生は、僕から視線を切り、この巨大な大滝を見据える。
「……時空間魔法でやってきた場所が、まさかここだなんてね。……何の偶然かしら?」
「?」
「……ここはあたしたちが修行した場所よ。生前ね」
「……先生がまだ生きていた頃?」
「ええ……」
それは巨大な大滝だった。打ちつける大瀑布が凄まじい。
「古式名は、『白き悪魔のるつぼ』! 現在では、『ナイアガラの滝』と総称されているわね」
「白き悪魔のるつぼ………………」
僕はその古式名を呟いた。
「落差56m。その幅が675mもあるわ。最大毎分16万8000立方メートル。平均毎分11万立方メートルの水量が流れてる。……この地球上でもっとも最大の大瀑布よ!」
「大瀑布……!」

――ドドドドドドドドドドッ

と巨大な大滝が激しく、大瀑布の如く打ちつけて、轟音となって響かせていた。
「よく見てなさい。氷瀑には、爆発だけじゃなく、凍てつく力があるから」
「え……」
フワリと浮き上がる先生。
えっ、浮いた。
ゆっくり空中浮遊しながら、その大瀑布の如き巨大な大滝に近寄っていく。
僕はその様を見て。
「と、飛べるの……!?」
とこれには師匠も。
「あぁ、あれは風魔法の応用だ!」
「えっ……!?」
「あいつは風魔法が使える!! 風の気流を全身に纏う事で、空中戦もできるんだ!」
「……」
僕は、ポカ――ンと口を開けて驚いていた。
すごい、魔法を納めれば空も飛べるなんて。
何と先生は、風魔法の使い手で、その気になれば空中戦もこなせるスゴイ魔法使いだった。
「……」
とその先生の細い腕が、巨大な大滝に伸ばされる。

「『打ちつける大瀑布の如き滝よ、我が力強い腕に宿りて氷塵せよ』!! ――『氷瀑』フリージングエクスプロージョン(パゴマエクリシィ)!!!」

その先生の手元から目が眩むほどの閃光が走り。
激流の如く降り注ぐ巨大な大滝を、瞬く間に凍てつかせていく。
――パキパキ
と。
そして、完全に氷漬けにさせるのだった。
――パキィン
と凍てついた氷の結晶片が、頭上から降ってくる。
僕は、この驚愕の事象に、呆気にとられ、声を上げることをさえ忘れていた……。
「………………」
振り返る魔法の先生。
「これがもう1つの氷瀑よスバル!! ……さあ、あなたの修行を始めるわよ!!」
「……」
驚いていた顔のスバル(僕)。
そこへ凍った水飛沫の代わりに、細かい氷の細氷が、僕の頬を打ち、ひんやりさせた。
僕の腕には、数多の水飛沫の跡があり、その上から、細氷が落ちてくる。
僕は、拳を握りしめて。
「……はい!! お願いします、先生!!
「クスッ、吐いた血反吐は飲み込めないわよ!」
【――そうして、僕はこの魔法を習得するのだった――】


☆彡
【アンドロメダ王女の宇宙船 治療室】
ポコッ、ポコッ、ポコッ
とセラピアマシーンの回復液の中で、スバルは呼吸器も付けずに寝ていた。
「………………
………………
………………」

【――そして、目覚めの時、『希望』ホープ(エイピゾー)が目を覚まそうとしていた】
【新たな力を携えて】
うっすらとその重たい瞼を開けていく。
(……ここは…………どこだ……?)
そこは見覚えある場所だった。
今、僕は回復液の中に浸かっているのか……。
「………………」
顔を動かし、左右の様子を伺う。
ここから見える景色は、それは金属質的な作りで、床も壁も天井も、同じものだった。何かの機械があって。見慣れない文字群や星座めいた点印などがある。
やはり、見覚えがある場所だ。
(――そうか……! ここはアンドロメダ王女様の宇宙船か……! という事はここは……)
僕は、セラピアマシーンで治療を受けている最中である事を理解した。
僕は手を目線の高さまであげて、掌と手の甲を交互に見てみる。
(治ってる……そうか、体を回復しててくれたのか……)
「……」
僕は小さく頷き得る。
そして、前を見据えて。
(いた……! ここの監視員たちだ!)
僕の目線の先には、モニター前の画面に座り、お茶をしている2人を見た。今はお休み中のようだ。
(……向こうも休憩中か……呼び出すのもなんか悪いな……)
僕はふとそんな事を考えて。自分の力で、ここから出られないか考える。
(確か……デネボラさんたちの話じゃ、中から衝撃を与える事でも、セラピアマシーンを強制終了させる事ができると……言ってたな……)
よしっ。と顔を上げる僕。
僕は試しに、ここの窓ガラスをドンッドンッドンッと叩いてみた。
するとセラピアマシーンが反応し、回復液が段々と下がってきた。
やったぞ、水位が下がっていく。
「……」
「……」
休憩中の2人は、モニター画面の前で寝息を立てていた。
手元には飲み干したコップが置かれていた。
スバルの視点からしたら、死角になっている位置関係なので、お茶をして休憩中だろうと、勝手に勘ぐっていた。
もちろん、2人は今、お眠の世界である。
セラピアマシーンの回復溶液の水位が下がっていく。
頭から肩、胸から足とドンドン、水位が下がっていき――
――ウィーーン
と硬質ガラスが自動で開いたのだった。
僕は足を伸ばし、そこから出てきた。
「………………! これは……」
それは見覚えのある衣類ケースだった。
「……」
見た感じ、さっき(?)まで着ていた僕の着衣が見られない。
洗いにでも出しているのか。
僕は「フゥ……」と溜息をついた。
「仕方がない……」
僕は再び、アンドロメダ王女様たちが貸し出してくれた、黄丹色の浴衣着に袖を通すのだった。
「う~ん……やっぱり肌触りがいいな」
それはとても肌触りがいいもので、とても高級品なのがわかる。
「でも……僕には似合わないって言うか……一般庶民だからな……。ハハハハッ……」
苦笑いを零すしかない。ホント、僕には似合わないな……うん……。
黄丹色は日本で言えば禁色(きんじき)に当たり、皇太子様達みたいな高位の人達が着用を許されている服装だ。
ただし、アンドロメダ星では、おもてなしの色であり、他所の星からお越しになった位の高い方々が着用している色だ。
これはどちらかと言えば曙(あけぼの)の太陽のイメージがあり、ひとまず新興をおこうという隠された旨がある。
「まさか、またこれに袖を通す日がくるとは……」
もう苦笑いだ。
(やっぱり似合わないな……)
と再三思うのだった……。
着替えを済ませた僕は、歩を進め、この部屋を後にした――シュイーン
「ZZZ……」
「グー……グー……」
ここの監視員2人は、絶賛お眠の世界で眠っていた……。


☆彡
【宇宙船内】
僕は、宇宙船内の渡り廊下を歩いていく。
「………………」
と小さな窓を発見して。僕は「んっ」と呟いた。
「……」
ちょっと覗いてみるか。それは知的好奇心からくるものだった。
「ワオー! ……今、宇宙にいるのか……!」
そこから見える景色は、雄大で、どこまでも広がる宇宙空間だった。星々の煌めきがなんとも美しい。
「………………」
見終わった僕は、そこから目線を離し。
再び、歩を進めるのだった……。


☆彡
【指令室前】
指令室前にて。
いくつかのソファーがあり、後ろ手にはモニター画面があり、雄大な宇宙空間が映し出されていた。
そのソファーに座っているのは、アユミちゃん、クコンさん、クリスティさんの3人で、なぜか3人とも意気消沈していた……。
えっ、なぜ?
「……」
「……」
「……」
ズ~~ン……と何かがあったのか酷く落ち込んでいた……。
「あれ? アユミちゃん」
「……やぁ……」
「……」
「……ハァ……」
「うわっ暗っ!! いったい何があったんだぁ!!?」
(こんなのいつものアユミちゃんじゃないッ!! いったい何が……!?)
とそこへ畳み掛けるように、次にクコンさんが。
「やぁ……起きたね……」
「クコンさん……、……いったい……?」
「あぁ……いろいろとだよ……寝てた人……ハァ……」
「……」
クコンさんもメチャクチャ暗かった。
そして、グラビアアイドル顔負けのクリスティさんが。
「ねぇ……」
「……」
とだけ零す。いやいやクリスティさん、メチャクチャ暗いですよ……ッ、一体何があったんだ……ッ。
この3人の様子、ただ事じゃない。
「……」
「……」
「……」
「さ、三人ともどうしたの!? ってかもう顔見知りなんだね……!? 自己紹介とかいろいろ終わったの……!?」
しどろもどろに口数を並べるスバル。もう気が動転していた。
無理もない、今さっき目覚めたばかりなのだから。
「あぁ……スバル君……」
「……」
「遅い……遅い、お目覚めで」
「……?」
「指令室にいけばわかるよ……」
「「「……ハァ……」」」
再三再び重い溜息をつく3人。この花のような3人が、ここまでの事態に落ち込むなんて、一体全体何があったんだ。
「……指令室か……」
僕は3人から視線を切り、指令室前にいる衛兵さん2人を見た。
「……」
「……」
心なし、2人の衛兵さんも元気がなかった……。
歩み寄ってきた僕は、そのあからさまな姿を見て。
「……え……」
「入って良し……」
「むしろすぐに入れ……」
「………………」
(これは聞いちゃマズいやつかな……?!)
さすがの僕でもそんな事を考えてしまうほど、2人は気疲れしていた……いったい何があったのだろうか……。
その後僕は、自動扉の前に立ち。
シュイーンとドアロック機構が解除されて、星座を模した機械室的な扉が左右に開き、上下にも開き、その奥の間の空間が開かれたのだった。
僕はそこに足を伸ばし、歩を進めていく。
僕が通った後、その背後で、自動ドアが再びロックされていくのだった。


☆彡
【指令室】
そこで待っていたのは、アンドロメダ王女様を始めとした皆さんだった。
「――目覚めたかスバル! 大変だったな……!」
「……」
心持ち加減、あのアンドロメダ王女様も元気がない……。
「いったい何があったんですか……!?」
「……『氷結への脈動』トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)じゃよ」
「氷結への脈動って……それは昨日まではそうだったんじゃ!?」
「『ナ・パゴシィ・パイモース』中であることは確かじゃ!」
「それなら……」
「その最終段階に入った」
「!?」
「人が暮らせるような環境下ではないのじゃよ……! 今は世界平均で、氷点下20度を下回る極寒の世界じゃ……!」


ゴォオオオオオ
猛吹雪を超える超猛吹雪が吹き荒び、
バリバリ
と厚い黒雲の下で雷光が駆け巡る。
ビュオオオオオ
荒れ果てた都市部は、そのライフラインをすべて失い、廃墟然と化していた。
至るところから、水道、汚水管、下水道などの汚物まみれの汚水漏れ。
さらに破壊されたガス管、空を飛ぶ車、各種公共交通機関、アンドロイドのエネルギー炉から燃料が漏れ、それが火に引火し、激しく燃え続けていた。
そこへ畳み掛けるように、気温の温度差が生じ、竜巻がいくつも発生して、ビルの外壁を崩しながら、石片やガラス片などを巻き上げていく。
その様はまさに、破壊の嵐。
それはビルの外壁を崩しながら、水面の水を巻き上げ、波となってビルの外壁等を音を立てて叩きつける。
上空から見た都市部。
激しい猛吹雪の中、いくつもの竜巻が起こり、都市部の雨水がビルの外壁などのアスファルトをゆっくりと時間をかけて浸食し、亀裂を広げながら、その建物を音を立てて倒壊させていく。
都市部に溜まった雨水を捨てる循環機能はもう廃れ、火の手を上げて、壊れ果てたアンドロイドが通り過ぎていく。子供のおもちゃなども見受けられた……。
まさしく、都市部の終末を暗示させた。

ドォオオオオオン
ダムの決壊。
溢れんばかりの水流が山肌を削りながら、街中に突っ込んでいく。
それは途中で、土砂崩れと濁流を起こしながら、迫る勢いだった。
巻き込んだのは、大量の土砂と大木と道路上にあった廃棄された空を飛ぶ車等々。
そして、轟音の唸り声を立てて、街中に決壊する勢いで迫り、
そこにあった民家やビル、工場などを破壊しつくしながら、飲み込んでいくのだった。
後に残るのは、土砂に飲み込まれた荒れ果てた街並み……。

ドォオオオオオン
火力発電所が、水力発電所が、風力発電所が、原子力発電所が、そして核融合炉発電所が、局所的大爆発を起こす。
その原因は、それを扱う電子機器類一斉に壊れたことで、その機能を失い。人の手を離れた事。
使用済み核燃料プールの水がすべて蒸発し、その核燃料棒が剥き出しになっていた事だ。
冷却機能を失い、人の手を離れたことで、その安全機能を失い、やがて局所的大爆発を引き起こしていた。
周辺地域にいた人は、その最悪の現場からとうに逃げ出していた。
その後、施設は大爆発を起こし、周辺地域一帯に、放射性化学物質を撒き散らし、黒煙を上げながら激しく燃え盛っていた……。

ゴォオオオオオ
海上の石油生産プラントが、
辺境の大地の石油精製プラントが、石油化学プラントが、石油・天然ガスプラントが、石油化学コンビナートから、火の手が上がっていた。
それは汲み上げている原油や天然ガス、備蓄されていた石油燃料や、蓄えられていた天然ガス等に引火し、その施設内部から燃え広がっている。
備蓄されていた燃料により、上下推移するが、それは統計で約1か月間ほど燃え続ける。
地球の限りある資源が燃えていく……無くなっていく……。
痛恨の極みである。
そこへ海上の石油生産プラントに迫るのは、轟音の唸り声を立てて、迫りくる巨大な大津波だった。
仮にもしもぶつかれば、それは燃え広がっているエリアを破壊し、海中に没するだろう……。

ドドドドドドドドドドッ
頻発する大地震が続き、人の生きていた文明を奪い去っていく。
半壊同然だった都市部が、その首都直下型地震に耐え切れず、窓ガラス等を割りながら、道路上に散乱していく様は、
まさに天から降り注ぐ、数多の凶器だ。
その舞い散る様はギラギラと美しく、路上に音を立てて落ち、既に息を引き取った人の肉に突き刺さるものもあった。
ガラガラ、ガシャ――ン、ドゴゴゴゴゴンッ、と耐え切れなくなった建物が、音を立てて倒壊し、大爆風と粉塵が襲いかかる。
全壊した建物が崩れ落ち、舞い上がるは粉塵と爆風と衝撃。
それはアスファルトの地面に、数多の亀裂を生じさせ、路上の亀裂な隙間から噴き出すのは、壊れた水道管の水と、ガス管から勢いよく噴き出す高圧ガスだった。
瞬く間にそれ等が火に引火し、爆炎となって燃え広がる。
それが都市部の各所でドォン、ドォン、ドォン、ドォンと起こるので、恐怖心を増幅させる。
逃げきれないと、恐怖に蹲る人々は打ち震え上がっていた。
ゴォウゴォウと音を立てて、燃え広がっていく都市部。
炎上する都市。
炎の舌が、ビルの外壁を伝い、焼き焦がしながら溶かしていく。
建物の中で壊れたアンドロイドが横たわり、その劫火の炎で焼かれ、ジュルと人口の皮膚が焼け溶け、醜くも機械部分が露出してしまう。
その眼光に映るのは、燃え広がる壊れた跡の外壁と窓があった場所。
そのずっと先にあるのは――罅割れていく自由の女神像。
その後ろから、轟音となって迫りくるのは、超巨大な大津波だ。
その超巨大な大津波が、濁流となって、自由の女神像を飲み込みながら破壊していく。
バラバラに砕かれた自由の女神像のパーツたち、バラバラに砕かれたビルの外壁。
アメリカの都市部ニューヨークは、見るも無残な光景に変わり果てて、海の底に没していた……。

ビュゴォオオオオオ
雪上。
激しい超猛吹雪が吹き荒ぶ中、凍りついたままの人の姿勢が手を伸ばした状態で、時を止めていた。
その周辺にいるのは、同じく氷漬けとなった動物達で、既に息絶えていた。
山間の道路から外れた森の奥。
人が、多くの人が、この凍えるような寒さの中、1人、また1人と膝を折りながら、崩れ落ちていく、そのまま冷たい雑草と冷気に抱かれながら、息を静かに引き取っていく……。
人は郊外に逃げていた。
それはなぜか。
それはどんな施設にいても同じで、
地下鉄は水中に没し。
都市の路上は水浸しで。
例え、ビルや商業施設の中に逃げ込んだとしても、冷気の舌が伸びてきて、窓ガラスが次々と割れていき、度重なる地震により外壁が壊れ、極寒の冷気が吹き込んでくるからだ。
逃げ場などなかった。
待っているのは、死だけ。
ならば、がむしゃらにでも動くしかない。
そこに逃げ込んでしまった人達は、その身が凍えるような、寒さの中、
何度も呼び掛け、決して眠らないようにしていたが、その重い瞼が閉じられていき……、……最後に氷に抱きしめられるのだった。
氷像と化す。
都市がダメなら、郊外の辺境の大地に逃げるしかない。
人は大急ぎで、動物達の巣穴にでも逃げ込んだ。
そこしか、ほとんどの場合、逃げ込む先がないからだ。
だが、そこに待ち受けていたのは、2通りの道。
弱り果てた小動物か、腹をすかせた猛獣かのどちらかだ。
方や喜び食料にありつけるが。
もう片方は、絶叫を上げながら逃げ惑い、外は超猛吹雪であるため、逃げ場などない。
笑う、嗤う、哂う、背後から迫るは、爪と牙、腹をすかせた猛獣たち。
死して、猛獣たちの血肉とならん。
ムシャムシャ、ムシャムシャと、猛獣たちにたかられて、その者達の性は、別の者に委ねられていく、それが自然の理、弱肉強食。
赤き鮮血が洞窟に流れ、赤き血の湖となる。
だが、食料にありついた方も、もっと悲惨だ。
なぜなら、食料の数が少なく、たったこれぽっちしかない。
これでは飢えを凌げない。
当然、待ち受けるのは、分配ではなく横取りだ。
後ろから迫る手は、横取りの手だ。
それは奪い合うように、仲間達の間で起こり、凄惨な殺し合い現場が始まる。
喰うか、喰われるか。
洞窟に流れるのは、赤き鮮血の湖だった。
人が、動物が弱り果て、その手を伸ばし、今日を生きようとしていた。
そうでなければ、長期の島民しか手はない。
やがて、その姿勢で氷漬けとなって、静かに息絶えていく様は、まるでこの世の白き悪夢だ。
都市が、街が、建物が、人が、動物が、すべて、氷漬けの世界に閉ざされていく。
白き悪夢が、氷の舌を伸ばし、次の獲物に忍び寄る。
それは、日本、アメリカ、カナダ、モス国、スイスなど幅広く、どこにも生命の息遣いが感じられなくなるまで……。
極寒の氷の世界が広がっていくのだった――……

地下の研究施設、または核シェルター。
だが、そんな中でも懸命に生きている人達がいたのも、また事実だ。
だが、電気や水道やガスなどのインフララインがなく、室内は暗い……。
あの日から今日まで、一部区画で限定して、自家発電という蓄えられていた電力量も底がつき、完全にお手上げだった。
だから、そうなる前に方法を模索していた。
今、手元にあるのは、『懐中電灯』と『家庭用発電機』と『業務用の発電機』ぐらいだ。
懐中電灯は電池、発電機は主にガソリンやカセットガスなどを燃料として使っている。
なぜ手回し発電機がないのか。
ただただ絶望を覚える人々。
人という生き物は、楽をしたがる生き物なので、また販売店側の人間としての目的、心理的要素もあり、利益を得なければならない。
だから、手回し発電機というものは、このご時世売られていなく。
別途、電池なり、バッテリーなり、ガソリン、カセットガスなどを購入する必要があるからだ。
だから、そんな中でも、人々は懸命に生き残るために、ない頭を捻らせて、その発電機を分解し、なんとか手回し発電機を作れないかと、自作していた。
生き残るためには、奮起するしかない。
不可能でも、やるしかない。
今ある機材を分解して、ありもので代用するしかない。
だが、そんな事ができるのはほんの一部の職人だけ。
頭と腕と部品を取り揃えている人は、ほんのわずかで、手回し発電機なり、足踏み式発電機を完成させていた。
輝石の物語だ。
だが、どんなものでも消耗品である為、いつまで持ち堪えられるかわからない。
摩耗するのが先か、壊れるのが先か、自分達の精と魂が尽き、諦めるのが先か。
いや、それよりもまず先に、食糧難の危機にあい、仲間内同士で醜い争いを繰り返し、自滅するのが先か……。
それは、そこにいる人達次第である――……


☆彡
――王女様達から事象を聞いた僕は。
「――そんな昨日(?)までとまったく違うじゃないですかッ!!」
「昨日……か……ハハハッ、ハァ……」
僕の言葉を聞いて、笑うアンドロメダ王女様。
だが、それは虚勢であり、すぐに首を垂れるのだった……。
これには僕も、不審に思う。
「……?」
「スバル君!」
「!」
「君が寝てから、1日が経過して、今日は2日目に当たるのよ」
僕に言葉を投げかけてきたのは、シャルロットさん。
そして。
「えっ? という事は……丸1日寝てたの……」
「「「……」」」
シャルロットさん、王女様、ヒースさんと頷き得る。
これには。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「?」
アンドロメダ王女様、ヒースさん、シャルロットさん、デネボラさん、L、そして多くの兵士さんの誰もが頭を抱えていた。
僕には何があったのかわからない。
それだけ悩んでいるんだ。いったい、裏で何があったんだ。
「……」
(実質、、昨日までが、地球人が暮らせる最後の日だったってことか………………)
僕はそう認める。
とここで、デネボラさんが言の葉を零す。
「今も気温は下がり続けているわ……」
「!」
「……」
デネボラさんは、その顔を上げて語り出す。
「今、地球時間で1時間経過するごとに氷点下が1度から2度、3度と急激に下がり続けているの……。……この意味がわからない君じゃ……ないわよね?」
「――……ッッ」
僕はこの日1番の最大級の衝撃を受けた。
1時間で3度下がる。それがどんだけすごい事か。
わからない僕じゃない。
小学生のバカでもわかる。
例えばこーゆう事だ。
平均点で氷点下2度下がるとして、
それは24時間で、2×24=48となる。
つまり、氷点下48度まで急激に下がるという事だ。
もちろん、そんな単純計算なんてないが……。
現実はそれに近い勢いで、冷え込んでいるのだろう。
とても駄目だ、人なんてそんな環境下で暮らせない、厳し過ぎるよ。

「それだけじゃないのれすよ!」

「――シャルロットさん!」
僕が振り向いた先にいたのは、シャルロットさんだった。
その彼女が語り出す。
「アクアリウスファミリア、アンドロメダファミリア、そしてソーテリア星から派遣した宇宙船の数は、全部で90機ほど。
さらにプレアデス星からの応援の船を加えて、
約4500人越えの人を乗船できる!!
……けどね……!!
1機当たり乗務員数は50人までで、つまり90機以上派遣にどうにか間に合ったことになるのれすよ!」
「えーと……つまり……」
「約4500人越え、という事よスバル君」
「4500人!? そ、そんなに少ないんですか!?」
「ええ……」
「な、なぜ……」
「……」
これにはあたしも考えてしまう。言い淀んでしまう。
だから、わかりやすく説明して上げる。
「結論としては、タイムリーだったの。
普通に考えてみて、あたし達ファミリアの人間は、プロトニアとして活動している」
「……」
「そちらに宇宙船が使われていて、残っている宇宙船を派遣に回したの。
極秘ミッションが発令されてね」
「……」
それでも、派遣された宇宙船に乗船できる最大乗員数が予め決まっていて、
みんな、ない頭を捻らせながら考えたの……。
どうすればいいか、どうすれば納得がいくのか……ね。
……でも、それでも……どうしようもないぐらい、時間と人材と宇宙船の数が足りなかったの……、……許して……」
「――ッ!!」

【――僕はショックを受ける】
【どうしようもないぐらい大きな問題だった】
【シャルロットさんは、それぐらいの現実と事実を突きつけられて、何とかしようと頭を抱えていたんだった】
【工面しようと、調整しようと、彼女たちなりの、最良手段を講じていたはずだ】

「………………ッ」

【セラピアマシーンでのんきに寝ていた僕からすれば、シャルロットさんは、いや、ここにいるみんなは、ホントに良くやってくれていた……】

「………………」
そしてヒースさんが。
「問題はそれだけじゃないよ」
「ヒースさん!」
「各惑星に呼びかけたのは、あくまで昨日だ。それだけの人数を収容できる難民施設の数が足りない……。いいや、ないといった方がしっくりくるか……」
「4500人ですよね? それなら3等分にすれば……!?」
「君は無知だから何も知らないのだよ……。ハァ……。……例えばソーテリアー星を例に出そうか?」
「……」
「あそこの特定のスポットには、君達地球人類が暮らせるような環境スポットがある。
だから僕達は、そこに難民達の住居スペースを設ける気でいたんだが……。
だけど、今回ばかりはどうにもならない……ッ」
「え……」
「なぜなら、現在、開発工事の打ち合わせ中……だという事だったからだよ……」
「――ッッ」
「……最初から、土台、無理があったんだ……ッ!! タイムリーだよ……ッ」
「……」

【僕の目の前で、頭を悩ませるヒースさん……】
【この人のこんな姿を見るなんて、初めてだ……ッ!!】
「……」
「「「「「……」」」」」
【……いや違う、みんながそうなんだ……ッ!!】
「「「「「……」」」」」」
「………………」
【ここに、この指令室にいるみんなが、酷く落ち込んでいた……】
「……」
【内情を知らない、僕だけを除いて……――】

ヒースさんは、さらに語り続ける。
「だから、僕達は、ソーテリアー星への難民移住計画を断念し、中止にしたんだ……ッ!! 次に、それならばと! 僕等の星とアンドロメダ星に切り替えたんだけど……」
「アンドロメダ星は、わらわ達王族の一存でどうにか収容できるが、なにぶん重力が重い……ッ。対してシャルロットたちの星は……」
「ええ、あたしとヒースの一存だけでは決められず、重力は軽くていいけど……。……それでも地球よりは重くて、ガニュメデス様が検討中との事で、『待て!』……だったの……」
「つまり今は……!?」
「「「『待て!』の状態じゃ(だよ(よ))!」」
アンドロメダ王女様とヒースさんとシャルロットさん、3人の声がハモるのだった。
――とそこへ、ふよふよと浮きながら近づいてくる人が。
「……後の問題はね」
「――L! 無事だったか……!」
――振り返る僕。そこにいたのは、僕の頼れる相棒、オーパーツのLだ。
人の見た目的には、小さな小動物みたいであり、孔雀狐のようだ。
「うん……」
これにはLもしょんぼりし、元気がないようだった……。
「……こうなる前に、ふるいをかけたんだよ……。……悲惨な非運だったよ……」
「悲惨……」
「……」
「悲運……」
「……」
きっとそれだけの事があったんだった……。僕が知らないだけで……。みんな、みんな、大きな責任とプレッシャーに吞まれていた……。
責任と重圧だ。
多くの人をわかっていて、見殺しにするしかなかったのかもしれない。
その自責の念に苛まていた。

【そこからLは、みんなは、今まであった出来事を、僕に説明するのだった――】


TO BE CONTIUND……


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