195章 ピンチヒッター
4時間の仕事を終え、2度目の休憩を取っていた。
「ミサキさん、いろいろな焼きそばを作るんですね」
「うん。いろいろな焼きそばを作りたくなった」
「海鮮焼きそばはとってもおいしそうでした。私も作れるようになりたいですね」
3時のおやつとして、おにぎり50個を準備する。おやつというよりは、大食い大会のメニューに近かった。
「マイちゃんはどこに行ったの?」
一時間前くらいに、どこかに行ってしまった。焼きそばの売れ行きを見て、食料の調達にいっていると思われる。
「マイさんは猫アレルギーを発症したので、早退しました。症状がおさまるまでは、出社できないと思われます」
マイは猫アレルギー。猫の毛、唾液、おしっこなどによって、発症する病気。苦しみの程度は、人それぞれである。
「食べ物を扱う仕事なので、咳は悪いイメージを与えます。完治させるまでは、ゆっくりと療養してもらいます」
食べ物を運んでいる人が、ゴホゴホと咳をするのはいただけない。それを見ただけで、食欲は下がることとなる。
「マイさんには、料理専門でやってもらいます。お客様の前に出るのは、難しいように感じました」
陽気、ポジティブな性格なので、接客で能力を生かせるタイプ。料理をしていたら、本来の良さを生かせない。
「シノブちゃん、2人だけでやっていけるの?」
ミサキの声と同時に、従業員用の扉をあけられた。
「ミサキちゃん、ヤッホー」
「ホノカちゃん、どうしたの」
「2時間だけ、ピンチヒッターをつとめることになったよ」
ピンチヒッターは退職した従業員。大いなる違和感を持つことになった。
シノブは深く頭を下げる。
「ホノカさん、ごめんなさい。他の従業員に連絡を取ったけど、電話に出ませんでした」
「シノブちゃん、気にしなくてもいいよ。ミサキちゃんと二人きりと知ったら、テンション最高潮だよ」
ホノカは壁に触った。
「退職したときと、何も変わっていないね」
店内を懐かしんでいる女性に、シノブは声をかけた。
「ホノカさん、もう一度仕事しませんか?」
ホノカは静かに首を振った。
「パンの優しい香り、ほのかな匂い、ふんわりとしているところが大好き。パンに囲まれる職場で働き続けたい」
パン屋で働いていた女性は、とってもイキイキとしていた。心の底から、パンを愛しているのを感じた。
ミサキは大きな欠伸をする。
「ミサキちゃん、休憩室でしっかりと休もう」
「うん。そうする」
「ミサキちゃん、膝枕をしたい」
ミサキはしばらく考えたあと、
「ホノカちゃん、お願いします」
といった。直後、ホノカの瞳はとっても輝いていた。