185章 睡眠
「ミサキ、シノブさんのバンジージャンプは、永久保存版にします」
ミサキ、シノブは恥ずかしいのか、耳たぶが赤く染まった。
「テレビで使用しないなら、すぐに消去してください。みんなの笑いものにされてしまいます」
「笑いものにするのではなく、生きた教訓として使用します」
「教訓?」
「危ないところを見せることによって、無理に進めないという方針を徹底させます。死亡事故を起こしたら、遊園地は一秒で認可を取り消されます」
ミサキ、シノブは命を落としてもおかしくなかった。無事に生還できたのは、運による部分が大きい。
「顔写真については、モザイクをしっかりとかけます。誰なのかはわからない状態で、画像を流すことにします」
「でも・・・・・・」
女性は拳を握りしめた。
「お客様の命を守るのは、遊園地関係者の義務です。これを怠るものについては、仕事をする資格はありません」
車は順調に進む。このペースで行けば、10時くらいには家につくことができそうだ。
「ミサキさんに、尖ったところは見られません。仕事を依頼する側としては、とってもありがた
い存在です」
大食いをのぞく能力は、いたって普通である。特筆すべき長所は持ち合わせていない。
「いろいろな人と仕事しましたけど、過去一でスムーズに行きました。本当にありがとうござい
ます」
ミサキは褒められたことで、照れ笑いをしてしまった。
「そうですか?」
女性は小さく頷いた。
「一線で活躍している人たちは、変人ばかりです。ちょっとの話についても、神経をすり減らしていました。一日接しただけで、躁鬱になるスタッフもいましたね」
トップ=変人のイメージは強い。超一流と呼ばれる人間で、一般に近い感性を持っている人間を見る機会は少ない。
「ミサキさんのように接しやすく、人気も集められる女性は貴重です。これからはもっと重宝されていくのではないでしょうか」
ミサキは体力消耗が激しいのか、体は左右に揺れることとなった。
「ミサキちゃん、おつかれみたいだね」
「腹ペコ少女に、長時間移動、長時間仕事はこたえるよ」
移動時間を含めると、14時間以上を費やした。体力のない女性にとっては、かなり厳しい仕事である。
「睡眠をとる前にしっかりとご飯を食べようね」
一時間前に食べたものの、十分な量とはいえない。おなかを満たすためには、大量の食料を必要とする。
「うん。ありがとう」
シノブはカバンから、おにぎりを取り出す。
「ミサキちゃん、たくさんのおにぎりがあるよ」
「シノブちゃん、ありがとう・・・・・・」
エネルギーを消耗したからか、体に次々とおにぎりが入っていく。マイはその様子を笑顔で見つめていた。
「ミサキちゃん一人で、おにぎり店は繁盛しそうだね」
「そうかもしれないね・・・・・・」
50個のおにぎりを完食した直後、強い睡魔に襲われた。
「ミサキちゃん、横になっていいよ」
「マイちゃん、ありがとう」
ミサキは体を横にする。車の中ということもあって、寝心地はあまりよくなかった。
「3人は同僚とは思えないほど、親しい関係ですね。仕事仲間というよりは、親友みたいに感じます」
シノブは小さく頷いた。
「プライベートではそうかもしれませんね」
「仕事のときも和気あいあいにやっているんですか?」
「それはないですよ。仕事をするときは、必要なこと以外は話しません。オンオフの切り替えはきっちりとやっています」
「そうなんですね・・・・・・」
ミサキは目を瞑る。疲労がたまっているのか、すぐに眠りについた。