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128章 空腹地獄

 CM撮影の日がやってきた。

 天気は雲一つない快晴。ミサキ、アヤメの競演を祝福しているかのようだった。

 雲はかかっていないにもかかわらず、心はどんよりとしていた。朝から何も食べていないので、心の栄養は完全に不足していた。

「ミサキさん、アヤメさん、よろしくお願いします」

 ミサキは小さく頷く。極限の空腹ゆえに、声を出す余裕はなかった。

 アヤメはやる気にみなぎっているのか、はりきった声で答えていた。彼女の声を聴いていると、小学生の運動会の応援を思い浮かべる。

 ミサキ、アヤメの前にアイスクリームを出される。ミサキの10個に対し、アヤメは1個にとどまっていた。事業所とのやり取りで、1個までという話になったと推測される。無添加といっても、食べ過ぎは厳禁だ。

 サイトウは2人に指示を送った。

「OKを出したら、同時に食べ進めてください。ミサキさんは勢いよく、アヤメさんはゆっくりでお願いします」

 早く食べたい、早く食べたい、早く食べたい。ミサキはあまりの空腹で、完全に気がおかしくなっている。

 アヤメは仕事モードに突入する。プロとしての意識を感じさせた。

「撮影をスタートします。ミサキさん、アヤメさん、食べてください」

 ミサキは空腹を解消するために、アイスクリームを次々と食べ進めていく。体を守るためには、なりふり構っていられなかった。

 あまりのおいしさに対して、感動の涙がこぼれる。涙は頬を伝って、地面に落下した。

 10分ほどで、10個のハーゲンダッツを食べ終える。となりを確認すると、こちらも完食していた。

 ミサキ、アヤメは食べ終わったあと、自然な笑顔を作る。おいしいものというのは、食べている人を幸せにする。

「ミサキさん、アヤメさん、OKです。ありがとうございました」

 前回に続いて、今回も一度で終わった。取り直しはしないスタイルなのかもしれない。

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