127章 アヤメと仕事の競演?
16時のご飯を食べていると、ドアをノックされる音がした。
扉を開けると、思いがけない女性が立っていた。
「ミサキさん、こんにちは」
「サイトウさん、こんにちは」
「家の中に入ってください」
「ありがとうございます」
サイトウは靴を脱ぐと、白い靴下が出現する。雪見大福とそっくりな色をしていた。
「席はこちらです」
シノブ、マイは空気を察したのか、距離をとろうとしていた。
「お集まりしているところ、大変すみません」
サイトウは席に座った。かなりの距離を移動したのか、息切れを起こしていた。
「水分補給をするので、しばらくお待ちください」
サイトウが水分補給をしているうちに、エネルギーを補給したい。ミサキはおにぎりを、口にすることにした。
サイトウは水分補給を終えると、口元をていねいに拭いた。セールスをする人として、口元の汚れは許されないのかもしれない。
「話の本題に入りたいと思います。この前はCMに出演していただき、本当にありがとうございました。ミサキさんの人気によって、雪見大福はあっという間に消えてしまいました。2年分の在庫を放出したのですが、こちらもなくなりました。生産体制を5倍にして、雪見大福の供給をしている状況です」
2年分の在庫が一瞬でなくなる。ミサキの住んでいる街は、「雪見大福フィーバー」を巻き起こした。
「雪見大福の大好評を受けて、第2弾をお願いすることになりました。今回はハーゲンダッツを食べていただきます」
雪見大福の次はハーゲンダッツか。サイトウはアイスクリーム路線で、攻め続ける方針のようだ。
「出演はいつくらいになりますか?」
「1週間後を予定しています。ミサキさん、スケジュールに問題はありませんか?」
「えっと、その・・・・・・」
7日後は焼きそば店の仕事がある。労働契約をしている者として、CMを優先するのは難しい。
ミサキはアイラインで、シノブに確認を取った。シノブは無言の状態で、〇を作っている。CM出演はOKのようだ。店長から承認を得られたことで、CM出演の障壁は取り除かれた。
「スケジュールはOKです。出演させてください」
前回はNGといっていたのに、今回はやる気に満ち溢れている。CMに出演したことで、吹っ切れてしまったのかな。本音の部分については、当人にもわからなかった。
今回は食べてもいいのかなと思っていると、厳しい現実を突き付けられることとなった。
「ありがとうございます。前回と同じく、食事を抜いた状態でお願いしたいです」
空腹地獄をもう一度味わう。CM出演に対する、モチベーションは大きく低下することとなった。
アヤメはトイレから出てきた。すっきりとしたのか、機嫌はとってもよさそうだった。
サイトウを友達だと思っているのか、アヤメはこちらに近づいてきた。
「ミサキちゃん、この女性は誰なの?」
「CM出演を依頼した、サイトウさんだよ」
サイトウは目の前にいる、女性の正体に気づいた。
「トップアイドルのクドウアヤメさんですか?」
「トップアイドルかはわからないけど、名前はその通りです」
サイトウは目の前に現れた女性にも、ハーゲンダッツを食べるオファーを出す。
「ミサキさんといっしょに、ハーゲンダッツを食べていただきたいです。完全無添加なので、いけるのではないでしょうか」
アヤメは突然の依頼に、困惑した表情を浮かべている。仕事を依頼されたことよりも、アイスクリームを食べることに問題がありそうだ。アヤメはアイドルを開始してから、健康食だけを食
べ続けてきた。
「私個人で決めることはできません。プロデューサー、マネージャーにラインで確認させていただきます」
アヤメはスマートフォンを取り出すと、手を素早く動かしていた。機会の扱いに慣れているのを感じた。
「返事をもらえるまで、お待ちいただけますか?」
「わかりました。お待ちさせていただきます」
アヤメのスマートフォンが鳴った。彼女は返事を確認する。
「ハーゲンダッツの成分を、送ってほしいみたいです。成分に問題なければ、OKを出してもいいみたいです」
アヤメの話を聞いていると、食事の自由はないように感じられた。売れっ子アイドルについては、徹底した管理をなされている。
ミサキは率直な疑問をぶつける。
「アヤメちゃんもOKとなった場合、二人でCMに出演するんですか?」
「そういうことになりますね。大人気美少女&トップアイドルの競演です」
アヤメと一緒に仕事をすることになるとは。一秒前まで、一ミリも考えたことはなかった。
「ミサキちゃんと共演できるの。早く仕事を引き受けたい」
アヤメは一緒に仕事をすると知って、瞳をギラギラとさせていた。彼女の瞳を見ているだけで、楽しみにしているのが伝わってきた。
話はまとまったあと、おなかは空腹のサインを発する。空腹を解消するために、おにぎりを胃袋の中に押し込む。