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芸能人

一時間後

「はあー、疲れたあああ」

 いろんなサークルを見て回ったが、全てのサークルで勧誘されまくった。

 主に陽菜さんが。わたしはついでに勧誘されることが多かったような気がする。

(まあ、陽菜さん可愛いからな。やっぱり可愛い子が来てくれた方がうれしいもんね)

「確かに疲れましたね……」

「陽菜さんは何のサークルにするかもう決めました?」

「彩花さんと同じサークルにします。変な虫がついても困りますし」

「あ、あははは」

 陽菜さんと話しながら歩いていると、人だかりができているのが目についた。

(なんだろう?)

 立ち止まってよく見てみると、人だかりの中心にはひまちゃんがいた。

(え?ひまちゃん?)

 わたしが不思議そうに眺めていると、目の前の女の子二人がひまちゃんについて話しているのが聞こえた。


「え! あの子、《《加賀ひま》》じゃん! ここの大学入ったんだ!」

「え、まじ?ほんとだ!やばいじゃん!わたしたちも行こうよ!」


 二人はそういって人だかりの方へ走って行った。

 わたしはすぐにスマホで『加賀ひま』と検索した。

 どうやらひまちゃん最近流行った恋愛ドラマの主演を演じた女優らしい。

(し、知らんかった……)

 ドラマどころかテレビをほとんど見ないわたしは、ひまちゃんのことを全く知らなかった。

(ひまが芸名で向日葵が本名だったんだ)

「どうしたんですか?」

「教室でわたしの隣に座ってたさっきの女の子!なんかすごい有名な女優さんだったみたいです!」

 わたしは少し興奮気味に言う。

「へー、そうですか」

 陽菜さんはあまり興味のない様子だった。

「彩花ちゃーん!!!」

 陽菜さんと話していると、どこからかわたしを呼ぶ声が聞こえた。

「え?ひ、ひまちゃん!?」

 前を見るとひまちゃんが手を振りながら、こちらに向かって走って
 きていた。

「彩花ちゃん!!さっきぶり!!」

「そ、そうだね!」

 するとさっきの人だかりの視線が一気にわたしに向けられた。

(し、視線が痛い!! 誰だあいつみたいな目で見ないで!!)

「あ、あの、場所変えてもいいですか?」

 わたしは陽菜さんとひまちゃんの両方に聞いた。

「はい!」

 ひまちゃんは元気にそう答えた。

「……いいですよ」

 陽菜さんは少し不満そうだったが、了解してくれた。


 ーーーー

 わたしたちはあまり人がいなさそうな場所へ移動した。

「ここなら大丈夫そうかな……」

「どうしたの?彩花ちゃん」

「あ、いやちょっと視線が多いのになれてなくて……」

「そうだよね…… ごめんね」

「あっ、いやいや、全然大丈夫!」

「わたくしは迷惑でしたわ」

 陽菜さんの言葉はトゲトゲしていた。

「あ…… ごめんね、えっと……」

「桜羽陽菜です」

「陽菜ちゃん! ほんとごめんね……」

「もう大丈夫です」

 気まずい空気が流れたのでわたしは話題を変えてみた。

「そういえばひまちゃんって女優さんだったんだね!知らなかったよ!すごいね!」

「やっぱり知らなかったんだね!!」

「うん。テレビとかあんまり見なくて。ごめんね?」

「全然!!」

『知らなかった』などと失礼なことを言ってしまったかなと思ったが、ひまちゃんはなぜかうれしそうだった。

「改めてこれからよろしくね! あっ、もうこんな時間…… すぐに帰らなきゃ。じゃあまた明日ね!彩花ちゃん!」

 そう言うとひまちゃんは走って帰って行った。

「彩花さん」

「ん?どうしたんですか?」

「今日彩花さんの家に泊まってもいいですか?」

「いいですけど、どうしてですか?」

「別に……」

「うーん、まあいいですよ。それじゃあ帰りましょうか」

「はい」


 そう言って二人でわたしの家に向かうことになった。

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