初めて
「おじゃまします」
わたしたちはアパートに到着した。
外で夜ご飯を食べてきたので帰るのが思ったよりも遅くなってしまった。
「はあー、疲れた。あ!陽菜さんはここ座ってください!」
わたしは陽菜さんを座椅子に座らせた。
わたしは他に座る場所がなかったのでとりあえずベッドに腰をかけた。
するとすぐに陽菜さんが話しかけてきた。
「彩花さん」
「はい?」
「ひまちゃんさんとあんまり仲良くしすぎないでください」
「へ?」
(な、なぜ?)
「なんででもです」
(心読まれた!?)
「ま、まあ……善処します……」
(あんまり善処する気はないけど……)
「わかってないですね」
そういうと陽菜さんは立ち上がってわたしをベッドに押しつけてきた。
(え?え?ええ!?)
「彩花さんはわたしと仮とはいえ結婚の約束をしてるんですよ?」
「はい…… そうですね……」
「本当に…… わかってないですね」
そう言うと陽菜さんはわたしに顔を近づけてきた。
なんとなく陽菜さんがこれからしようとしていることは予想がついたが、わたしは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていて、近づいてくる顔をよけることはできなかった。
「ん……」
気がつくと陽菜さんの長いまつげが目の前にあった。
柔らかな唇がわたしに触れる。
そう、わたしは陽菜さんにキスをされていたのだった。
そして陽菜さんの唇がわたしの唇から離れる。
「な、な、な、なあ!?!?」
わたしは初めてのキスに動揺していた。
(唇柔らか…… ってそうじゃなくて! わたしき、キスされた!? え!? )
「ふふっ、可愛いですね。わたしたちは結婚するんですから、これくらい普通ですよ? もちろん、この先も……」
そう言って陽菜さんはわたしの唇に人差し指を当てた。
(こ、この先!? わたし何されるの!?)
わたしはなんだか身の危険を感じてすぐに話題を変えた。
「き、今日はもう夜遅いですし、お風呂に入って早く寝ましょう! ね! そうしましょう!!」
「…………ふふっ、そうですね。そうしましょうか」
そうしてわたしたちはお風呂に入り、いざ寝ようという時にある問題が起こった。
「いやいやいや!! わたしやっぱり椅子で寝ます!!」
「はあ…… 泊まらせてもらっているのにそんなことできません。ほら、二人で寝ますよ。こっち来てください」
陽菜さんは、ぽんぽんとベッドをたたき、早くこっちにこいと手招きをした。
「う、ううう、でも……」
「でもじゃないです。それに結婚していたらこんなこと普通ですよ?」
「うっ…… わかりました……」
どうやらわたしは結婚という言葉に弱いみたいだ。
わたしは部屋の電気を消し、ベッドに入る。
「……彩花さん」
そう言うと陽菜さんがわたしにふわっと抱きついてきた。
「ひ、陽菜さん!?」
「ふふっ。なにもしませんよ。おやすみなさい、彩花さん」
「お、おやすみなさい……」
(な、なになになに!? 緊張して寝れない!!!)
そんなわたしとは反対に陽菜さんはもう眠りについていた。
(はや!! やっぱり疲れてたのかな…… それにしても、キス…… 気持ちよかったな…… って何考えてるの、四季彩花!)
そんなことをぼんやりと考えているとだんだんと睡魔が襲ってきた。
(なんか、抱きつかれてるのすごい安心するな……)
こうしてわたしもゆっくりと瞼を閉じ、深い眠りについた。
恋愛超初心者のわたしが、陽菜さんの一連の行動の原因が嫉妬
であると気づくのはもう少し先の話だった。