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34章 厳しいアイドル社会

 アルバイトをするために、焼きそば店にやってきた。

 開店30分前にもかかわらず、長蛇の列ができている。一昨日、昨日からすると、信じられない光景だ。

 従業員専用のスペースに入ると、シノブの元気な声が聞こえた。

「ミサキさん、おはようございます」

「シノブさん、おはようございます」

「ミサキさん、今日もお願いします」

 シノブのすぐそばに、見知らぬ顔があった。ここの関係者なのだろうか。 

「新しい従業員を採用したので、紹介します」

 シノブの左側に立っている、女性が頭を下げる。

「アオイといいます。よろしくお願いします」

 グリーンの髪の毛、妖精さながらの瞳をしている。トップクラスではないものの、かなりの美人である。

 シノブの右側に立っている、女性が頭を下げる

「ナナといいます。よろしくお願いします」

 オレンジ色の髪の毛、柔らかそうな唇をしていた。

「アオイさん、ナナさん以外に、ホノカさん、ツカサさん、マイさんを採用しました」

 アオイ、ナナ以外に、3人の従業員がいるのか。従業員不足で悩んでいたのが、嘘に感じられ
た。

「6人の共通点を知っていますか?」

「わからないです」 

 6人のうち、3人は見たことすらない。共通点をあぶりだすのは不可能だ。

「6人は水着姿で、テレビに出演していたんです」

 ミサキは裏返った声を出す。

「え・・・・・・?」

 焼きそばを焼いている女性が、水着でテレビに出るシーンは、思い浮かばなかった。

「特徴がなかったので、2か月で終わってしまいました。アイドルをやめてからは、焼きそば屋で働いています」

 2か月間でアイドルをやめる。競争の激しさを、物語っている。

「競争のあまりの激しさに、1か月で脱落しました」

 アオイは1カ月で終わった。わずかな期間に、何を感じていたのだろうか。

「私は4か月です。鳴かず飛ばずのまま、終わってしまいました」

 三人で一番長いものの、4カ月は長いとはいえない。ナナもビックビジネスに発展させることはできなかった。

「失敗に終わったけど、後悔はしていません。自分の中では、やり切ったと思っています」

 何もせずに後悔するよりも、行動して失敗したほうがいい。失敗したところから、新しい何かをつかむことができる。

「トップに君臨するのは誰ですか?」

 ミサキの質問に、アオイが答える。

「クドウアヤメさんです。彼女は突出したものを持っています」

 同じ性別であるにもかかわらず、一目で魅了された女性である。普段は絶対に買わないけど、アヤメの写真集なら買ってみたいと思わせるものがあった。

「アヤメさんは13歳のときにデビューして、トップアイドルとして君臨し続けています。今年で5年目になります」

 22歳になるまで、4年くらい残されている。数年間はトップアイドルとして、君臨し続ける確率は高いと思われる。

「シイナミソラさんもすごいです。アヤメさんには劣るものの、幅広い支持を集めています」

 彼女については知らない。家に帰ってから、チェックしてみようかな。

「3人が売れる時代もあれば、1人も売れない時代もあります。相対基準ではなく、絶対基準で判
断される社会です」

 水着を着用している、全員が敗者となることもある。売れるためのアイドルになるのは、険しい道のりといえる。

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