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第2章の第22話 アンテロポス星の悲劇……! チームゼノアとシィ

【――当時、アンドロメダ王に仕えていた優秀な男がいた。男の名は『ゼノア』】
「ゼノアよ、開拓者(プロトニア)レベル4入りとは大したものだ。そちに褒美を取らせよう!」
「ハッ! 有難き幸せ! 謹んでお請けします!」
王は柏手をパンパンと打ち、
侍女達は宝物のようにそれを持ってきた。
それは『エナジーア変換携帯端末』であった。
「こっこれは!!」
「左様! これは先だってソーテリアー星から寄贈された『エナジーア変換携帯端末』だ。これを1機、お主に譲ろう。これまでの功績、武勲がそなたの力の証だ!」
私はそれを宝物のように受け取り、当日からそれを身に着けた。


☆彡
とある酒場にて。
「へ~! これがかの有名な『エナジーア変換携帯端末』か……ふ~ん。ずいぶんちゃっちぃものなんだな」
と私の友人は、その宝物を突いてきた。
「こら、失礼なことをするな」
と私は守るように、その者の手から遠ざけた。
「ホントにそんなので、融合できるのー!?」
「そのはずだ!」
とこの女性も私の仲間だ。
私達は3人で1つのチームを組んでいた。
エナジーア生命体の私、『ゼノア』と。
鬼人族の『シュンエイ』。
エルフ族の魔法使いの『リナ』。
私達3人は仲が良く、いつも一緒だった。
「ねっねっせっかくだからさー! あたし達でその適合率って調べられないかな?」
「そうだな! なんか面白そうだ!」
「ふむ……試してみる価値ありだな……。じゃあまず初めに、シュンエイからだ」
「おう! 頼むぜ!」
【ピッ、シンクロ率12% 不適合です】
「あらら……少しは期待してたんだけどなぁ」
「次はあたしね。ドキドキ」
【ピッ、シンクロ率32% 不適合です】
「えっ」
「おいおい、何で女のリナの方が高いんだよ! 壊れてるんじゃねーのか!?」
「そんなはずはないだろ!! リナの方がお前より、俺の方に近いんだよ!」
「そんな馬鹿な話あるかー!」
その日は大いに飲んで騒いだのだった。


シュンエイとリナが飲んで酔いつぶれた頃。
「やれやれ……風邪ひくぞ」
「んごぉ~! ぜってえ最高位のレベル10になるぞぉ!!」
「やれやれ、寝言はベッドの上でしてくれ」
「でへへへ。もう飲めませんよーだ」
とリナは酒豪らしく、エルフに似合わず一升瓶のお酒を抱えて寝ていた。
「やれやれ。お前達を運ぶ俺の身にもなってくれ。今日は俺の祝勝会じゃなかったのかよ……」
ハァ……と俺は嘆息した。
その時だった。
怪しい話を聞いたのは。


「おいおい、その狐人(アンテロポスサイエンポウ)ってのは高く売れるってのは、本当か!?」
「あぁ。とあるファミリアがそいつの薬漬けを使って、半永久的に歳を喰わないんだと」
「媚薬か……! そのファミリアってのは」
「ああ、女王だ!!」
「やっぱな! おかしいと思ったんだよ! 普通ならよぼよぼなおばちゃんがピチピチのお姉ちゃんだもんな! ぜってえ特ダネじゃねーか!」
「それだけじゃねえ。あれはドーピングだ! ある開拓者(プロトニア)の連中も使っていて、レベル3の連中がレベル4ばりの実力があるんだと!」
「マジか! ドーピングきたねー!」
「あぁ、しかも……意中の相手を惚れさせる惚れ薬にもなるんだと。その女王の周りではな」
「毎日ハーレムかよ! 王に黙って! その女殺されるぜ!」
「いや、王子様を手玉に取ってるから、王は手出しできないのよ」
「マジィ!? ママにぞっこんかよ! いくら若く見えても、よぼよぼの婆ちゃんじゃねーか!」
「それが薬漬けの恐ろしいところよ! で、いつ行く?」
「明日にはこの星発とうぜ!」
「じゃあ決まりだな!」
「おう! 明日から俺達ぁ億万長者だ!」
俺はそんな他愛もない話を聞いていて、嘆息した。
「何なんだ、そんな上辺だけの話は――」


☆彡
翌日。
俺達3人は王宮に招かれて、昨日の夜のことを王様に話してみたら。
「そんな上辺だけの話ではない!! 事実だ!!」
「マジですか!!」
俺達3人は驚いた。
「ああ。各ファミリアの代表達もその噂を聞き、その薬漬けを密売しているという流出(リーク)情報を掴んだ。
そして、ある指令が下された。
その密売組織を潰せという……」
「王よ! このゼノアを一任してください! 私達チームゼノアがその不届き者を潰してご覧にいれます」
「うむ! では、チームゼノアよ! その不届き者を潰してくるのだ!!」
「「「ハハァ!!」」」
「吉報を待っておるぞ!」


☆彡
とある研究施設にて。
俺達チームゼノアはそのとある研究施設に潜入していた。
そこは円筒形のカプセルの中にドロドロに溶けた狐人が浮かんでいた。
形を残すもの。
肌が溶けたもの。
肉が溶けたもの。
骨だけのもの。
バラバラになった溶けた肉片が浮いている者など様々だ。
それを見た俺達は。
「うっ……気持ち悪ッ」
「アローペクス漬けの墓場か……」
リナとゼノア(俺)はそれを見て、胸糞気分が悪くなった。

「おいこっちに着てみろ!」

それは俺達を呼ぶシュンエイの声だった。
それは研究机に並べられたプロフィールだった。
「おいおい、いったいいつからこんな研究をしてたんだ!」
「ちょっと待って! これって流す先のリストじゃない!?」
「黒い台所かよここは……」
そこは悪の巣窟の1つだった。
「あっ……」
「どうしたリナ?」
「信じられない……まさかあのファミリアがこれに関わってたの」
俺達はそれを覗き見た。
それは驚愕を奪うものだった。
とそこへドンッドンッとまるで水溶液の中から叩く音が聞こえた。
俺達はその音の出所を振り向いて、驚いた。
その中にいたのは、アローペクスの少女だった。


俺達はその中から少女を救い出した。
少女は「ゲホッゲホッ!」とむせて吐いた。その口の中に入っていたものを吐き出した。
「た……助かった……」
「お嬢ちゃんは何でこんなところに!?」
「連れてこられたんでち!」
「連れてこられた!?」
「あいつは私の体をじっくり調べていたんでち! あたしだけ『他のみんなと違う』からでち!」
「他のみんなと違う!?」
「ここのボスの名前はわかるかい?」
「零下の貴公子でち!」
「零下の貴公子……待てよ、どこかで聞いたような……」
みんなはう~んと考えた。
その中でリナだけは記憶の引き出しから、その名を探り出した。
「あっ……」
「どうしたリナ……」
「思い出した零下の貴公子……でもあいつは確か死んだはずよ! もしも仮に生きていれば、レベル6のランク10! あたし達より上よ!」
「おいおい、マジか……!」
ここでゼノアファミリアのレベルとランクは。
ゼノア、レベル4、ランク7。
シュンエイ、レベル3、ランク5
リナ、レベル2、ランク3といった具合だ。
だいたいレベルが1上がれば、ランクも1~2上がり、より高位の任務を受注できるようになる。
「だが、こっちにはゼノアがいるんだ! こいつ等の種族はレベルがそもそもわかりにくいからな! ゼノアはレベル4だがその実力はレベル6以上あるとみていーぜ!」
「あたし達がいっぱい足を引っ張ってるからねぇ」
「だがその分、リナにはいっぱい魔法で助けてもらってる」
「……」
「それにシュンエイの攻撃のバリエーションには、俺勝てない」
「……へへ」
「俺達はチームだ! 互いの弱点を補完し合ってこそ、チームの強さが問われるんだ」
「そうねゼノア!」
「俺達は誰にも負けねーぜ!」
「さあ、行こう! ここのボスを倒すんだ!」
「場所知ってるよ、あたち案内しようか!?」
「おう頼むぜ、お嬢ちゃん」
「こっちだよ!」
とお嬢ちゃんが先行して歩いていき、大きな扉の前に来た。
「ここが零下のおじちゃんのトップシークレットルームでち!」
「ありがとうお嬢ちゃん。でも何で知ってるの!?」
「あたちだけ、他のみんなと違うからでち」
「!?」
「それは……なぜ……!?」
「『氷の秘宝』を体現した肉体を持ってるから」
「「「!?」」」
その時だった。不気味な声が響いたのは。

『そこまでですよ。Aの379番!』
「! おじちゃんでち!」
これにはAの379番と呼ばれた少女もビクついた。
俺達チームゼノアは身構えた。
『私のトップシークレットルームへ案内しましょう。さあ、お入りなさい』


☆彡
俺達チームゼノアとお嬢ちゃんはこのトップシークレットルームへ入った。
そこの特徴は、水溶液の中で2種類の光が激しく交わり、新たなエナジーアを生み出している光景だった。
それがいくつも並んでいた。
なるほど、新たな研究を行っている、正しくトップシークレットルームだ。
俺達の前方、クチュクチュと音を立てながらそいつは生き物を解剖していた。解剖しているのは狐人か。
なんともおぞましい場所だ。
「来客とは聞いてなかったが……君達は何者だい?」
「俺達はチームゼノアだ! 零下の貴公子! お前を捕まえにきた!」
「私を……。はて、商業別組合ギルド(シネツニーア)からの依頼かな!?」
私は解剖を中断し、この者達に向き直った。
私はこの者達に向き直る際、研究机に取り付けられているボタンを押して、昇降機の要領で研究机が競り上がっていく。解剖中の遺体を乗せたまま。
「君達の名前は?」
「チームゼノアのゼノアだ!」
「同じくシュンエイ!」
「同じくリナよ!」
俺達は戦いの構えを取った。
「なるほどいい面構えをしている。お相手をしよう。断っておくが、私はレベル6だぞ」
俺達はその構えを解かず、一歩歩み出た。喧嘩は売った、後は買うだけだ。
「いいでしょう。ではお相手致しましょう!」


――俺達の戦いが始まりを告げた。
まず、ゼノア(俺)から先制攻撃を仕掛ける。
目にも止まらない高速移動を仕掛け、光の拳で殴り掛かる。それはエナジーアを込めた拳だ。
私はそれを、腕一本でトンっと受け流した。
「!?」
そんな馬鹿な、大概の奴はこれで決まるはずだった。
若いねぇ、アンドロメダ星人。お前達の攻撃パターンは直線的でお見通しだよ。
「影縫い手裏剣」
続いて、シュンエイがいくつもの手裏剣を投げつける。
「ほぅ。影に当てて、相手の動きを封じる技か。大変興味深い」
私は少し本気を出すことにした。
手を突き出し、無詠唱で冷気の球を放った。
それはいくつもの影縫い手裏剣に合わせた、冷気の球だった。
全弾撃ち落とした。
続いてリナが詠唱に入る。
「『大地を焦がせ! 熱波の嵐よ!』」
短文詠唱による、中級魔法を放つ。

「『爆裂』エクスプロ―ジョン(エクリシィ)!!」
「『氷瀑』フリージングエクスプロ―ジョン(パゴマエクリシィ)!!」

リナの爆裂に対し、零下の貴公子は無詠唱の氷瀑で返してきた。2人の業は相中でぶつかり合い、リナの魔法を押し返した。
迫る氷瀑。
(さすがレベル6! 無詠唱でも段違い!)
リナ(あたし)はその場で転がる事で、その氷瀑を回避した。
無詠唱には無詠唱だ。

「200条の『火柱』パイラーオブファイア(スティロスフォティアス)!!」
「1000条の『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」

リナは地を這う200条の炎柱を放った。
それに対し零下の貴公子は地を這う1000条の氷柱を放った。
2人の業が相中で激しくぶつかり幾つもの小爆発が起き、リナの魔法を軽々押し返した。
「……ッッ」
「鎖鎌!」
まずい、回避が間に合わない。
リナにはその攻撃が避けきれなかった。だから、シュンエイ(俺)が助けに入る。
仲間のピンチを救うため、俺は鎖鎌の鎖を投げ、それをリナの体に巻き付け引っ張った。
リナのいたところに数えきれないほどの氷柱が音を立てて、襲撃した。
危機を脱したリナは、空中で鎖をほどき、クルリと一回転して、俺の側に着地を決めた。
「助かったわ」というリナに対し、眼前の敵を見据えたままシュンエイは「気にするな」と言った。
シュンエイはブンブン鎖鎌を回転させて、今度は鎌を飛ばしてきた。
零下の貴公子はそれを冷気の球を飛ばし、弾き飛ばした。
すかさずシュンエイは今度は鉛がついた鎖を飛ばした。
これも冷気の球で、弾き飛ばした。
「あいつは……」
零下の貴公子は、ゼノアを探した。
ゼノアは空中で、エナジーアを集束し畜力していた。
それはエナジーアの巨大な球であった。
俺はそれを投じた。

「『エナジーアの巨大な球』エナジーアジャイアンツスフィア(エナジーアギガフェツラァ―フェラー)!!!」

ゴゴゴゴゴと音を立てて落ちてくる巨大なエナジーア球、その眼下にいるのは零下の貴公子だ。
周りにいた仲間達は。
「伏せろ――っ!!」
と叫び四方に飛んで、伏せた。
そして、もう間もなくズゥン……とはならなかった。
零下の貴公子は腕を突き出し、冷気の気流を発生させて受け止めていたのだ。
「フフフフ」
「なっなに!?」
「ハァーッハッハッハッ!」
零下の貴公子は片手で受け止め、もう片方の拳を打ち込むことによって。
巨大なエナジーア球を爆発四散させたのだ。
そのエナジーア球がいくつもの流星になって、あたりに無差別に降り注いだ。
まるでエナジーアの流星群だ。
そのまさかの直撃を受けるのは、シュンエイとリナ。直撃を受けて爆発が起こる。
ゼノアはその攻撃を掠めて爆発を受けた。
「ハハハハ! どうした! もうおしまいか!?」
「グッ」
「クッ……」
「あう……」
「あわわわ。大変でち!」
私は、この戦いにおける優先順位をつけた。
だが、私は零下の貴公子と呼ばれた身だ。
紳士としても元開拓者(プロトニア)としても、最低限のマナーを守るつもりだ。
(1対多人数戦の鉄則! それは相手の弱いところから叩く!)
「まずはお嬢さん、あなたからだ!」
「!」
先ずはあなたから退場して頂こう。退場は退場でも『死』だがね。
私は両手をポケットの中に入れた。
そしてスピード感良く、ポケットから手を振り抜くと同時、コイン投げの要領で空気圧を飛ばした。
リナの元へ空気圧の弾丸が迫る。
1発や2発ではない空気圧弾の連続射撃だ。
リナは連続してくらい、大きく仰け反った。
被弾する、被弾する、被弾する。
「や」
「や」
「「やめろ――ッ!!」」
ゼノアは『光刃爪』で、シュンエイは『小太刀』で、零下の貴公子を攻撃しようとする。
だが、その攻撃には手応えがなく、零下の貴公子は、その場から消えていた。
驚くゼノアとシュンエイ。
「な!?」
「なに!?」
さらにドドドドドッと追撃音が響く。
それはリナの所からだった。
お見舞いしているのは零下の貴公子だった。
「やっやろ!!」
シュンエイは駆けだした。
その手に持った小太刀で、そっ首めがけて振り下ろす。
だが、また手応えがなく、放った一撃は空を切った。
「!?」
俺は始めて知った。
これは移動ではないと。まるで瞬間移動じゃないか。
さらにドドドドドッと追撃音が響く。
それはリナの所からだった。
お見舞いしているのは零下の貴公子だった。
零下の貴公子は「フッ」と鼻で笑った。
「やっ野郎!!」
「ッッ」
シュンエイは怒りにかられ、その『小太刀』を持っている手ごと震わせた。
今度は、ゼノアが光速移動を仕掛ける。
ゼノアはその手爪を光らせる。『光刃爪』だ。
俺は奴が消えることをあらかじめ知っているので、現れたところを目指し、連続で攻勢を仕掛けた。
消える、消える、消える、消える、消える、消える。
そして――初めて奴がガードを取った。
ギシッと互いの押し合いが鳴る。
その時、「ううっ……」と被弾しまくったリナが倒れる。
そこをすかさず、シュンエイが抱きかかえる。
「と! リナ無事か!」
「痛い……ッッ」
リナは全身に大怪我を負い、血が止まらなかった。その美しいエルフの容姿が血と裂傷で酷い、としか形容できない。
(体中が……!!)
それは皮膚の体表面だけでなく、皮膚の内側まで犯す激痛だ。
ゼノアの光刃爪と、零下の貴公子の冷気の気流をまとった腕が、ギシギシと鳴り、互いの業を押し合う。
「お前の業を見切ったぞ! 氷から氷へワープしてたんだろ!? ここが氷の場でもあることも一役買ってる! そうだろ!?」
「ご明察! よく見切ったな! だがいいのかな?」
「?」
ギシッ
「私がただの空気圧を飛ばしていたとでも思うか!? 私は生命の神秘を探求する研究者でもあるんだぞっ!!」
「!?」

「爆ぜろ! 『氷華』フリージングフラワー(パゴマロゥロゥディ)!!」

それが始動キーだった。
その瞬間、リナの体が発光し爆発、氷の花を咲かせたのだった。
そのリナを抱いていたシュンエイも、その爆発に巻き込まれた。
爆発に巻き込まれたシュンエイは大きく吹き飛び、ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドサッ……と何度かバウンドし倒れ伏した。
そして、その倒れ伏した身を起こして、爆発現場を見た。
辺りには氷の爆煙が覆っていた。
その煙が晴れていくと……。リナの体がいくつかのパーツに分かれていた。その瑞々しい肢体がバラバラの血みどろの肉片になっていた。リナ死去――
「り、リナ――ッッ!!」
シュンエイは強く叫んだ。
「うぉおおおおお!!!」
シュンエイは悲愴めいた叫び声をあげ、天を仰いだ。
「り、リナが死んだ……!」
組み合った状態のゼノアは、リナを死を受け止め辛かった。
「あのエルフのお嬢さんの魔法は厄介だからね。先に潰させてもらったよ」
完全にゼノアは注意力を失っていた。そこをすかさず私は、前蹴りで蹴り飛ばした。
「こっ、このよくも――っ!!」
怒るシュンエイは、こちらに向かって駆け出してくる。その手に持っているのは『小太刀』だ。
「開拓者(プロトニア)同士の殺し合いも知らぬ若造共が」
走ってくるシュンエイは、その手に持った『小太刀』を勢いよく振り下ろす。
それに対し零下の貴公子は、その腕に冷気の気流をまとい、防御した。
攻撃と防御のせめぎ合いにより、激しい火花が散った。
「あああああ!!!」
「……」
咆哮するシュンエイ。
黙する零下の貴公子。
「あああああ!!!」
「……フッ」
咆哮するシュンエイ。その手に持った『小太刀』を伝い、氷の舌が伸びてくる。
黙する零下の貴公子は、鼻で笑った。
そこへ。
「させるか――っ!!」
ドンッと俺は肩タックルで、シュンエイと入れ変わった。
エナジーアの圧が、その冷気の気流をまとった腕を押し込める。
「フフッ、涙ぐましいじゃないか」
私はゼノア(この者)の行動を称賛した。
だが弾き飛ばされた仲間の方は。
「うるへ――! お前だけは許さねえ!!」
「許さないときたか……君もお嬢さんの跡を終え、「爆ぜろ! 『氷華』フリージングフラワー(パゴマロゥロゥディ)!!」
その瞬間、リナの時と同じようにシュンエイの両腕の先が光った。
そして、リナの時とほぼ同じように、爆発、氷の華を咲かせたのだった。
シュンエイの体は宙を舞い、ドサッと倒れ伏した。
「クソッ――ッ!! シュンエイ……ッッ!!」
俺は怒りをパワーに変える。
この競り合いを押し返した。
「ふむ……怒りをパワーに変えたか」
「お前を捕まえて、商業別組合ギルド(シネツニーア)に引き渡すのはやめだ!!! この手で葬ってやる!!」
「……やってみろ!」
両者はその手を光らせる。
ゼノアはエナジーア弾の光を、零下の貴公子は冷気の球を、互いの業を相手に向けて解き放った。
ドンッ
そこからはエナジーア弾の連続射撃と冷気の球の連続射撃のせめぎ合いだった。
「うぉおおおおお」
「はぁあああああ」
互いの業が相中でぶつかり合い、突風を起こす。
「うぉおおおおお」
「はぁあああああ」
業の優劣で言えば、パワーでは零下の貴公子が勝り、連射数ではゼノアが勝っていた。早い話、互角だ。
この拮抗状態を変えるため、またリナの仇を撃つため、シュンエイは立ち上がった。
その口に『小太刀』を咥えていた。その両腕から先は無残にも消し飛んでいた。
「フゥ……フゥ……」
その目は赤く充血し、『小太刀』を咥えた口から漏れる呼気は荒い。
シュンエイはその場から駆ける。
そして、勢いよくジャンプ。
その眼下にいる零下の貴公子を目掛けて攻撃する。
(その首を貰い受ける)
完全に死角、ゼノアに集中していてこちらに気づいていない。完璧なタイミングだ。
その様子をAの379番が見ていた。
(もらった!)
だが、零下の貴公子はまるで見えているかのように、冷気の気流を操り首をガードした。そのまま上空から一閃。
冷気の気流と斬撃の間で火花が散り、その首に届くことはなかった。

「惜しかったな、坊や! 1000条の『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!」

ゼノアと冷気の球で応戦している零下の貴公子は、別の魔法を放った。
1000条の氷柱がまるで剣山のように生えて。
それは地表にいたシュンエイを突き刺しにし、真上へ飛び上がっていた。
串刺しにあい、穴だらけになったシュンエイは、ドロンと煙と共に丸太に変わった。
変わり身の術だ。
「ほぅ……」
私はこうなる事も想定内で、慌てることはない。
奴を探す必要もない、どうせ仲間の女かリーダー格の元へ飛んでるはずだからだ。
そのシュンエイは、犬死したリナの元に飛んでいた。
その口に咥えるは、パンプキンボムのヘタの部分だ。
俺は首を勢いよく振って、それを投じた。
「!」
いかん、これはさすがに損傷(ダメージ)を受けるな。
私はこのゼノアとの打ち合いを中断し、守勢にまわった。

「『氷結界爆風壁』フリージングバーラー・ブラストウォール(フラグマァカタピクシィクス・アナチナクーシスティホォ)!!」

そのパンプキンボムが『氷結界爆風壁』に当たり、ドガァンと爆発した。
ゼノア、シュンエイの元にその爆風が押し寄せる。
ゼノアは一時、攻撃を中断し、守りに徹する。
ゼノアに爆風が吹きつける中、(チッ、相変わらず変な名前の爆弾だ!)と心の中で呟いた。
「やったか……」
その後ろでズズッと競り上がってきたのは、零下の貴公子であった。
俺は背後を振り向く、その瞬間、ガッとその顔を掴まれた。

「相手の意表を突いたいい爆弾ネーミングだ! 『氷瀑』フリージングエクスプロ―ジョン(パゴマエクリシィ)!!」

ドォンとその時シュンエイの頭が爆発し、氷の華が咲いた。
頭が消し飛んだシュンエイの遺体のからは、首があったところから赤い鮮血が勢いよく噴出し、膝をつき、倒れた。シュンエイ死去――
その間、時間の経過が緩やかになる――
――そして、弛緩した時間の経過が戻り、俺は悲愴めいた咆哮を上げた。
「おおおおお!!!」

少女はシクシクと泣いた。
「ダメだ……零下のおじちゃんには誰も勝てない……。まだおじちゃんにはあれが……!!」

「つまらん! こうも一方的なワンサイドゲームになるとは。
やはり、私を楽しませてくれるのは君だけか……!
君には、この技で応えよう。『ヘルメスアブソリュートゼロ』(ヘルメスアポリトスミデン)!!」

絶対零度――
それはここにはいない、スバルが初めて覚えたガイアグラビティと同列の神聖魔法の氷魔法であった。神の名を冠したものだ。
零下の貴公子を中心として、室内全域に及ぶ、すべてが凍てつく世界が急襲し、同時に氷震(ひょうしん)が起こる。
ズドドドドドッ
それは氷のリンク上を迅雷の如く駆け抜け、白い湯気を立ち昇らせる。
いや、白い湯気などではない、それは白い液体へ様変わりし真上に立ち昇っていくのだ。
それは触れてはならない極寒の舌だ。それが全方位を襲撃する。
それが形作るは、極寒の世界そのものだろう。

「何だこの技は!?」
(ホントにこれは、俺が知るヘルメスアブソリュートゼロ(アポリトスミデン)か……!?)
同じ絶対零度でもそれは、使い手が違えばその練度が違うものだった。
その事象の違いも、見て取れるものであった。
その技を見たものは、悲鳴を上げることもなく、氷の結晶に抱きしめられる。
動く事も何も出来ず、瞬き一つすら許さず、声などもってのほかだ。
皆平等に氷の結晶体へ閉じ込められた。
「……わかっていたことだ。何者も私には逆らえない。我が主以外は……」
私は一度目を瞑り、目を開けた後、踵を返した。
勝敗は決した、私はこの部屋を後にした――


☆彡
――そして、しばらくした後。
「わわ! 大変でち!」
あたちはすぐに、まだ生きている可能性の高いゼノアの元へ向かった。
そして、そこら変に突き立っていた氷柱を使って、あたちの指を切った。滲み出るは赤い命の雫。
それを氷の結晶体に押し当てて、ジュア――……と解凍する。
時間がかかる作業だ。
零下の貴公子が帰ってきても終わり。
氷の結晶体にゼノアの体力が奪われても終わり。
これは時間との勝負だった。
「これじゃあ間に合わないでち」
少女は意を決し、その両手掌をワザと切った。滲み出るは赤い命の血だった。
「さっきよりもドバドバ出てるち。これなら……ッッ」
Aの379番はゼノアを救おうと動いた。
その両手掌を氷の結晶体に押し付けて、ジュア――……急速解凍を行う。
その時、「いっつつ」と呻吟の声を上げた。
だが少女は負けなかった「なんのこれくらい……シィは負けないでちよ!」
Aの379番のシィ、それが少女の名前だ。
「仲間がいっぱい死んだんでち! 解剖されて、薬漬けにされて、薬にされて、みんなみんなーあいつ等に売られたんでち!
ここで動かないなら、ホントにシィは役立たずでち!!
……だからッッ!! お願い!! あいつをやっつけて!!」
その時、その氷の結晶体からゼノアを救い出したのだった。
「ハァッ……ハァッ……」
あたちはすがるような思いで、このエナジーア生命体の人に魔法をかけた。
「『水月鏡花。その者目に見えることはできても、手に取ることは能(あた)わず。あぁなんと憂(うれ)いたことか。
我思ふ、君を思ふ星空。天からあまねく優しき月の光、燐光、私達を優しく包み込む。
水辺のほとりで咲く花々。私達は共に見て笑った。水面に映る私達の笑顔。
叶ふことなら、我が分身たる力を、この者に分け与えたまへ。現世への祈りを』」
それは長文詠唱による回復魔法であった。
シィが歌うたびに、優しき燐光が2人を包み込む。
その燐光は明るさを増していき、氷の世界を明るくさせた。
そして、詠唱が完成した。

「『神聖なる月の光』ホーリームーンライト(イエロスセレーネ―ポース)」

一際明るい光が雨が降り注ぎ、ゼノアの体を癒していった。
「お願い! あいつを倒して!! みんなの仇を討って!!」
「!」
俺はカッと力強く見開いた。
その傷ついた体は完全回復していた。
さらに金色の燐光を帯び、レベルが+1アップした。
ゼノアは一時的にその戦闘力がレベル7に達していた。なお、認定レベルはレベル4である。


☆彡
――いくつもの狐人の薬漬けが並ぶ通路にて。
零下の貴公子が背を向けていた。
「零下の貴公子!!」
零下の貴公子は、その声に反応し振り向いた。
「……なるほど。Aの379番お前か」
「Aの379番じゃない! シィはシィでち!!」
「これが最後だ!!」
「いいでしょう。これで最後にします。どうぞ、かかってきなさい」

――この戦いに臨む前、シィはゼノアに必勝法を伝授していた。それも一度きりの。
「いいですか! あいつの体にはどんな氷魔法も効きません!
それどころか、全ての属性、エナジーアにも耐性があるんでち!
さらに、氷魔法を受ければ、たちどころに回復するんでちよ」
「なんだそれは完全に反則(チート)じゃねーか!」
「それが『氷の秘宝』の正体……! だからあいつはシィを誘拐して、解剖してたんでち! あぁなんて可哀そうなシィ……シクシク」
「なるほど……水溶液のカプセル(あれ)に入っていたのは回復液だったか……」
今更ながらに俺は理解した。
なんてマッドサイエンティストなんだ。
「でも、完全無欠じゃない! まだ不完全体ですからね。シシシシ!」
「?」
「あんたしゃん! シィの血を塗っていくでち! 一度きりの大技を放って、あいつを倒すんでちよ!」
シィの血を用いること。それが一度きりの必勝法の正体だった。


――そして現在、2人は対峙していた。
俺は、この手爪にエナジーアを込める。『光刃爪』だ。
この距離、ヘルメスアブソリュートゼロは撃てないな。そもそも威力が高過ぎる技ほど業の出が遅いものだ。だから使えない。
さらにアンドロメダ星人のエナジーア生命体は、早い、早過ぎる種族なのだ。そんな奴相手に使えるはずもない。
だから使える業は……限定される。
ゼノアの背後、そのずっと先。
トップシークレットの天井から、一塊の氷柱が落ちた。
それが試合開始を告げるゴングだ。
ゼノアは勢いよく駆ける。
その手にエナジーアを集約、畜力させる。
対して零下の貴公子は無詠唱で、前方から迫る500条の氷柱と地面に生えて進む500条の氷柱を飛ばしてきた。
2種類の氷柱攻撃だ。
前方から迫りくる氷柱の雨と地を這って進む氷柱が迫ってくる。
「おおおおお」
俺はそれを片手で薙ぎ払っていく。
「はぁあああああ」
私はこの攻撃の手を緩めず、魔法を放ち続ける。
だが。
「なにっ!?」
(私の魔法がクリームみたいに!?)
そう、俺が突き出した光刃爪の前から零下の貴公子が放った2種類の魔法が立て続けに襲い、それがすべてクリーム状になるんだ。
すげーぜシィ。おめーの血はよ。

「――何でそんなことわかるんだ、お嬢ちゃん!」
「シシシシ! それはね……完全にシィがあいつの上位互換だからですよ! 片手を囮に、もう片方の本命で、敵を討つんでちよ」
俺はそんな事を思い出していた。この戦いの最中――

(まったく大した嬢ちゃんだぜ!!)
「おおおおお!!」
「はぁあああああ」
光の矢となって駆け抜けるゼノア。
2種類の氷柱を放ち続ける零下の貴公子。
その魔法が突き進む先で、全てクリーム状になっていくという悪夢。
そうか、これはAの379番の仕業だな。まさかこんなところで計算が狂うとは。
(トドメだ!!)
(この低俗な野蛮人が!!)」
俺はこの戦いの前、本命の手爪にエナジーアを集束、畜力させていた。
それが発光して、完成を告げる。
「『爆華光刃爪!!!』
クソ、魔法が効かない。私は技能(スキル)に切り替えた。
だが、この距離とパワー、普通の業では決して勝てないだろう。
だが、私にはこの技があった。必殺のカウンター技だ。
冷気の気流が私の手に集まる。その時、バチバチと迅雷が駆け巡る。私のとっておきだ。
「『迅雷氷霆(じんらいひょうてい)』!!!」
2人の必殺技がぶつかる。
互いの必殺が交差し、それぞれの胸へ。
そして、互いの背中からドォンと光が、氷の迅雷が波を打った。
「ガハッ!」
「ゴフッ!」
互いに血反吐を吐いた。ただしエナジーア生命体であるゼノアは血は血でもエナジーアの吐血粒子だ。
そのまま2人は膝を折り、足をついて、横倒しにドサッドサッと倒れた。
その胸に突き刺した2人の必殺は、相手の胸を貫いたままであった。
「ハァッ……ハァッ……おのれ、後一歩のところで、生命の神秘を……ゴフッ」
「何が生命の神秘なものか。お前がやっているのは、単なる解剖学とアローペクス漬けだ……ガフッ」
「クソゥ……後一歩のところで、異なる両者の波動を合致させる研究が……」
「……」
俺は似ているなと思った。異なる両者の波動を合致させる研究か。まるでエナジーア変換携帯端末じゃねーかと。
その時だった。
奴の体を貫いている先から、電子音が聞こえたのは。
【ピッ、シンクロ率88%! 適合者を確認!】
「なっ!?」
「何だ今のは、私の胸の内から……」
な、何てことだ。まさかこいつが俺のパートナーだとでも言うのか。

【このままエナジーア変換を行えば、生命の存続が可能】

まさかこれは、ソーテリアー星に伝わるトナの古代兵器だとでもいうのか。
これはなんたる僥倖なんだ。
やったぞ、この身でエナジーア体になれるとは。なんたる奇跡、なんて幸運なんだ。
「もちろんYESだ!」
「まっまて!」
その時、死にかけの両者を中心として、光が走った。
光は光球は次第に大きくなっていき、ある生物へと変貌していく。
光の生物は段々と大きくなり、当研究施設の天井を壊し、その姿をあらわにする。
それは2つの頭を持ったエナジーアと氷を象徴する怪物の翼竜であった。
「ギャオオオオオ」
【相反する意識を持つ2人が拒絶し、その肉体が1つになってしまった失敗作であった――……】


☆彡
アンドロメダ星
王は兵士から書簡を受け取り、驚きの声を上げた。
「何じゃと――!!! チームゼノアが破れたァ――!? しかもアンテロポス星に氷の神獣が出現したァ!! いったい全体何があったんじゃ……!!?」
【――この日、王の元に届いたのは吉報ではなく、それはチームゼノアの全滅を告げる訃報であった】
【さらに凶報が続き、アンテロポス星に突如現れたエナジーア生命体は、アンドロメダ星由来のものではないのか!? という憶測であった】
【それは不名誉な事態だ】
【この日、王の元に届いた書簡は、王宮をファミリアを激震させ。最悪の事態へ塁転(るいてん)していくのだ――】


☆彡
王を乗せたファミリアの宇宙船は、一路、『アンテロポス星』を目指した。
その道の途中、各ファミリアの宇宙船と合流したのだった。
「おお! 『コウネリファミリア』! 『ペリステリファミリア』!」
それは思いがけない応援のファミリア、シュンエイとリナの母星の者達であった。
コウネリファミリアはウサギ座、ペリステリファミリアはハト座、どちらも冬の四季の星座だ。
『思いがけない事態になりましたな! アンドロメダ王!』
『ここは協力して、共に事態解決に当たりましょう!』
『うむ! 協力感謝します! だが、氷の神獣とはいったい……!?」
そして、アンテロポス星は様変わりして、氷の惑星となっていた。
その惑星の周りには、たくさんの宇宙船団の姿があった。
「何だこれはいったい……」
「あんなにたくさんの船団の姿があるなんて、まるで『ギャラクティアコール』並ですよ」

そして、そこで通信に割り込んできたのは、『プレアデスファミリア代表』からの通信だった。
これには各宇宙のファミリアの代表達も驚いた。
「各ファミリア代表の皆さん、アンテロポス星にお集まりいただき、誠に痛みいります。
まず、こちらが現在のアンテロポス星の様子です」
それは激震の一言に尽きる。
黄金色の大地だった草原は、見るも無残な氷づけになり、一面銀世界が広がる。
活火山も氷付けになり、溶岩ごと氷付けになっていた。
氷の大地には赤い点々があった。
いや、赤い点々等ではない、それは生きたまま氷漬けになったアローペクス達の赤い結晶体だ。
空に舞うは、たくさんの神なる獣がいて、縦横無尽にこの星を駆けまわり、アローペクスを生きたまま氷の結晶に仕立て、一面銀世界を形作っていくのだった。
空には黒雲が覆いつくし、吹雪が吹き荒び、時折雷が鳴り響く。氷の竜巻が所々に吹き荒れていた。
そして、吹雪が吹き荒ぶ中、開拓者(プロトニア)の者が狐人を救出している映像が流れた。だが、氷の破壊光線にあい、生きたまま氷の結晶体となったのだった。
「今、王都を始めとした主要な都市部に開拓者(プロトニア)を派遣し、狐人を救出している!
だが、開拓者(プロトニア)達の報告によれば、氷の神獣には物理攻撃がきかないというものがわかった!」
「物理攻撃が……きかない!?」
何だ、何かが引っかかる。
それはまるで私達種族の影響を引き継いでいるかのようで。
「そして、空に舞うたくさんの神獣はあくまでも分身体、本体ではないということだ!
我々は調査の結果、この星の活火山だったところに根城にしている奴を発見した!
これがその映像だ!」
それは山よりも大きい、巨体を誇る氷の生き物だった。
いや、生き物と呼称すべきではない、あれはもうエナジーア生命体だった。

「あれは……ッッ!!」
(まさか……ゼノア……ッッ)
私はまさかという思いでいっぱいだった。
「狐人(アローペクス)の救出が済み次第、ギャラクティアコールを発令する!」

「お待ちくださいプレアデス王!」

――その声の主は、アンドロメダ星の王の言葉だった。
「アンドロメダ王」
「余の殲滅部隊にあの者の討伐を許していただきたい」
「……いいだろう」

【そして、殲滅部隊による氷の神獣の討伐が始まった! だが――まるで相手にならないほど、逆に返り討ちにあうのだった――】

「余が誇る精鋭部隊が……全滅……ッッ!!」
「氷の神獣の戦闘力なおも上昇中! その青天井がみえません!!」
「……ッッ。あの神獣の正体はやはり、ゼノアなのか……」
「ゼノアが身に付けていた『エナジーア変換携帯端末』との照合100%! ゼノア本人である確率50%」
「ただ、誰と融合したのか依然わかりません……」
余は頭を抱えた。
「ゼノア……許せ……ッッ、……主砲発射用意!!」
余は顔を上げて、討伐の意志を固めた。
「主砲発射用意!」
「エナジーア充填率30%……60%……90%……」
「臨界点突破! 120%……150%……180%……」
「200%!! 主砲発射準備完了!!」
(ゼノア、今、お前の無念を救うぞ!!)
「主砲!! 発射!!」
「主砲発射!!」
作業員は、主砲発射ボタンを押し。
宇宙船の先端部から主砲がカッと放たれた。
ズドォオオオオオオオオオオンとエナジーアの砲撃が放たれ、山よりも大きい氷の神獣に直撃した。
氷の神獣は激しい光の中で「ギャオオオオオ」を声を上げた。
砲撃がやみ。
氷で冷えた水蒸気が舞い上がり、それが晴れていくと……。
一回り大きくなった氷の神獣が姿を現した。
「な、何だと!!」
「氷の神獣の戦闘力上昇を確認! 当艦が放った主砲を吸収し自身の力とした模様!!」
「まさか……これは……ッッこの能力は……!!」

――そこへ回線が割り込んできた。
「どうなってるアンドロメダ王!? 今世界各地で応戦している部隊の報告によれば、いっせいに分身たちが大きくなったらしいぞ!!」
回線の向こうから「うわぁあああああ」「きゃあああああ」と悲鳴が上がっていた。
おそらく向こうの現場は、死屍累々とした惨状だろう。
「……どうやら我々はしてやられたらしい。プレアデス王」
「な……に……」
「与力だ……!
どうやらゼノアが氷の神獣になったことで、その特性が変わり、『与力』となったらしい。
他所からエナジーアを受けると、自らの力の糧とし、力が上乗せされたうえで振るえるのだ!
それに従い、奴はますます大きく巨大になる!!」
「……最悪な能力だ……。
物理攻撃もきかない、エナジーアの砲撃もきかない。魔法も自らの糧とするのだろ。
なんて規格外な能力なんだ……あれではまるで、『神』だ!!」
「……いや、勝つ方法ならある!!」
「……」
「……全艦一斉砲撃で、奴の許容量(キャパシティ)を超えるエナジーアを与えれば、奴を必ず倒せる……ッッ!!」
「1発限りのチャンスか……良かろう、全艦にそう伝えよう」
山よりも大きい氷の神獣は、当艦に向かって「ギャオオオオオ」と吠えたのだった。
余達はそれを見下ろしていた。
そして、余達を乗せた当艦は上昇していき、この場を後にした。


☆彡
【――そして、この場に集まったファミリアの戦艦412機席による一斉砲撃が始まったのだ!】
【それは驚愕をさらうものだった! 412機席による一斉砲撃により、氷の神獣を光の中で消し去ったのだ!】
【だがしかし――】
【余達は、この星を救ったかに見えたが……。既に手遅れだった……ッッ】
【なんとみるみる内に『アンテロポス星』が氷付けになっていったのだった……!】
【それは宇宙から目視できるほど……】
「何なのだこれはいったい……。……アンテロポス星に調査探査機を送れ」
「ハッ」
アンドロメダの宇宙船を始め、いくつかの宇宙船から続々と調査探査機が、アンテロポス星に向かっていた。
アンテロポス星の地表は、激しい猛吹雪が吹雪いていて、生命が生きられない過酷な環境下だった。
その中で、調査探査機が一路に目指したのは、氷の神獣が根城にしていた元活火山だった。
活火山は死火山になり、その噴煙口は氷で覆われていた……。
「……死火山を確認」
『ピッ、こちらでも死火山を確認しました』
『ピッ、こちらでも死火山を確認しました』
『ピッ、こちらでも死火山を確認しました』
『死火山を確認しました……』
このメッセージに余が呟きを落とす。
「まさか……全ての火山が死火山に……」
余は頭を抱えた……過るはどうしようもない深い絶望だった……ッッ。


☆彡
その後、一行はプレアデス星に集まり、円卓を囲んだ。
その中には亡国の王と女王の姿があった。
「これはいったいどーゆう事だ!!」
亡国の王は円卓をドンッと叩いた。その言動には怒りが含まれていた。
「……」
一同は何も言えなかった……。言えるはずもない。
とそこへ、報告書を持って入出した開拓者がいた。

【亡国の王を始め、各ファミリア王や女王達はその報告書の内容を見て、絶句した】

「なっなっなっ何だこれは!!?」
「どうやら最悪の予想が当たったようだ」
一同はそのファミリアの王に振り向いた。
「あの時、氷の神獣は活火山を根城にしておったな……!
ただそれは、単純に根城にしていただけではなかった。
我々の預かり知らないところで、奴は、活火山と密接にリンクし、それが全ての活火山とリンクしておったのだ。
それは、その星の内核と繋ぐことで、異常な力を得ていた。
…………。
我々は、あの氷の神獣を滅ぼした……。それはつまり――」
「……ッッ」
一同は何も言わない。いや、言えるはずがなかった……。
ここでプレアデスファミリアの代表が口を開いた。
「……星の生命力が枯渇したとみていい……」
その言葉を聞き、亡国の女王は泣き崩れた。

【それは端的に、その星の『死』を意味していた……】
【そこからだ! アローペクスの生き残りが絶滅していくのは……!!】
【――後日、各ファミリアの代表達が集まり、会議の場を開いた。議題は、生き残ったアローペクス達の移住先だ!】
【各ファミリアの代表達は、アローペクスの移住先を、我が国へと招いた。星1つの命を消し去ったのだ。その責任の重さは重たかった……】
【……各ファミリアは温かく、彼等の援助を惜しまなかった】
【彼等は正しく悲劇の民だったのだ】
【各ファミリアは、最初は彼等と上手くやっていたのだ、最初は……!】
【だが、いつの頃からか、幾人かのアローペクス達がその援助を当たり前だといい、声を上げ始めた】
【その声が高まっていき、次第に集団でその援助以上のものを求め出したのだ】
【それはまさに、人の『傲慢』さであった】
【そこからだ、悲劇が加速化していったのは――……】

【……民の暴動だ!!】

【あるファミリアの代表が暴動を鎮圧せよと指令を下した】
【だが、その炎が収まることはなく、次第にその炎が増大し膨張していった。民は危険を顧みない行動に出た】
【やがて、民の中から初めての死傷者が出た】
【そこから悲劇はさらに加速し、信じられないことに原住民との戦争が始まったのだ】

【混沌だった……!!】

【耐えきれなくなった王と女王は、そのアローペクス達を牢屋送りにした】
【それと同じことが他の惑星でも起きていたからだ】
【なぜだ!? なぜなのか!? それは人間性的に耐えきれなかったからだ……!】
【それはそうだろう、いきなり自分達の星を奪われて、他所の星に移住せざるを得なかったのだからな!】
【そこからだ、絶食や飢餓状態に陥り、難病を患い、1人、また1人と死んでいったのは……】
【私はこの負の連鎖を憎む! できればこの不幸な連鎖をここで止めたいと思った!】
【だから、お前にこう問おう!】

災禍の獣士は、今の地球と昔にあったアローペクスの悲劇を重ねたのだ。
それを僕達に話してくれた。
「お前に問う!!」
「!」
「原住民とアローペクス! どちらの言い分が正しい!?」
「……ッッ」
「ファミリアを立ち上げると言ったな!」
「……ああ」
「では、時期、地球の星王となるものよ! お前ならこの未曽有の事態をどうする!?」
「……ッッ」
「いずれ必ず、この事態に直面するのだ!! さあ今、選べ!! 2人の少女のうち、助かるのは片方だけだッ!!」


TO BE CONTIUND……

しおり