24章 焼きそばを作ってみた
シノブが戻ってきたあと、焼きそばづくりをスタートさせる。
「フライパンを、3つに分けてください」
「一つで作らないんですか?」
「一つのフライパンでは、3~4人前で限界です。それ以上になると、調理が難しくなります」
10人分の焼きそばは、かなりの量となる。一つのフライパンで作るのは、無謀といえる。
「3つのうち2つは私が作ります。残りの一つを、ミサキさんが作ってください」
「はい、わかりました」
「最初に油を入れましょう」
さじ加減でやろうとすると、シノブに注意をされた。
「目分量ではなく、正確に計測してください」
「はい・・・・・・」
「適当に作ると、味がバラバラになってしまいます。同じ味の料理を提供するのが、非常に重要です」
家庭なら適当でいいけど、お金をもらう場所ではNGとなるのか。
油の量をはかると、フライパンに投入した。
「フライパンが温まるまで、少し待ってください」
「はい・・・・・・」
フライパンの熱気がすごいのか、蒸し暑く感じられた。そのこともあって、服の中から汗が流れていた。
「最初は熱いかもしれないけど、徐々に慣れていきますよ」
体内の汗を気にしていると、シノブから声をかけられた。
「豚肉を入れましょう」
暑さに負けているようでは、おいしい焼きそばを作れない。ミサキは己を奮い立たせることにした。
「はい。わかりました」
シノブは指導をしながら、焼きそばを作っている。2つのことを同時にできるのは、とっても器用だと思った。
豚肉を見ているだけで、よだれをたらしそうになった。
「肉をしっかりと加熱しましょう」
「はい・・・・・」
長い箸を使用して、肉に熱を通していく。火力が強めなので、焦げないように注意を払う必要がある。
「キャベツ、もやしを入れましょう」
「はい、わかりました」
肉、野菜の香りが混ざりあうことで、ほのかな香りを醸し出していた。
「野菜がしんなりするまで炒めていきましょう」
火を加えていると、野菜が徐々にしんなりとしてきた。
「焼きそばを入れましょう」
焼きそばを入れたのち、麵をほぐしていく。
「その調子です」
店長という立場でありながら、ため口ではなく敬語を使っている。これをしているのは、どんな意味があるのだろうか。
「塩ソースを入れてください」
「はい」
塩ソースの量をはかったのち、フライパンの中に入れる。
「最後の仕上げをしましょう」
ソースを絡ませ、かやくのねぎを入れる。
「焼きそばが完成しました」
焼きそばを作れただけで、大いなる満足感があった。
「冷めないように、焼きそばを素早く盛り付けてください」
「わかりました」
盛り付けは簡単と思っていたものの、そういうわけではなかった。苦労に苦労を重ねながら、盛り付けを完了させた。
「私は残りを作りますので、ミサキさんは席に座ってください」
「はい」
「ミサキさん、お客様を喜ばせてくださいね」
「はい・・・・・・」
10人分の焼きそばを食べたあとに。きっちりと仕事できるのだろうか。ミサキは大きな不安に包まれることになった。