13章 完食
ミサキは40分ほどで、20人前の塩焼きそばを完食。20分もあましていることから、余裕の勝利となった。
シノブは負けたにもかかわらず、瞳を輝かせていた。
「大食い少女といわれているだけはありますね」
10人前(20人分)の塩焼きそばを食べるのは、自分も想像していなかった。20000キロカロリーを必要とする、胃袋は伊達ではないようだ。
「チャレンジに成功したので、焼きそば代をタダにします」
浮いたお金で、デザートを食べたい。焼きそば店を出たら、ケーキ、スイーツなどを購入しようかな。
「ミサキさんは超人的な胃袋をしていますね」
「超人的」は、胃袋を表現するのにぴったりだ。
「私もその通りだと思います」
「私は3人前で限界です。それ以上については、喉に通すこともできないでしょう」
3人前=6人分となる。一人の女性としては、かなりの量を食べていることになる。
「あれだけの量を食べていたら、食費は大変そうです」
一般家庭でこれだけ食べたら、エンゲル係数が90をこえる。残りのわずかなお金で、電気代、水道代、ガス台などを払わなければならない。
ミサキは100万ペソを保証されている。どんなに食べたとしても、エンゲル係数は10に届かないと思われる。残りのお金を使って、悠々自適な生活を満喫できる。
帰宅の準備をしていると、思いがけない提案があった。
「よかったら、私の店で働きませんか?」
ミサキは一〇秒ほど考えてから、ゆっくりと口を開いた。
「すぐにお腹がすくので、仕事は厳しいと思います」
仕事をできるとするなら、30分、1時間くらいかな。それ以上の労働をすると、空腹で倒れることになる。
「1日に1時間でどうでしょう。それくらいなら、できるのではないでしょうか?」
「それくらいならいけると思います」
「明日から働いてください」
「明日からですか?」
「はい。お願いします」
ミサキは苦々しい表情を浮かべる。
「ミサキさん、どうかしたんですか」
「材料は切れない、調理はできない、食器洗いもできない。できないことづくしなんです」
「仕事を続けていけば、徐々に慣れていきます。一緒にやっていきましょう」
「そうですか?」
「どんな人も、初心者からスタートします」
シノブの言葉を聞いて、肩の荷が下りた。
「迷惑をかけるけど、よろしくお願いします」
「勤務時間は12時~13時です。状況によっては、15~30分ほど延長します」
延長になったときのことを考えて、大量のカロリーを接種しておこう。仕事中に空腹で倒れるのは、絶対に避けなければならない。