27. 夢を見させて
27. 夢を見させて
そしてグランとの勝負の前日。私は明日に備えて『妖精の隠れ家』で準備をするためにアリシアさんと酒場にいる。
ちなみにみんなはギルドの依頼を受けに行ってもらっている。一応みんなのことはミルフィにお願いをした。私を抜けば一番歳上になるしね……。「この華麗なるブレードガンナーの実力を見せてあげるわ!」って張り切っていたから大丈夫だろう。とりあえず今は明日のことを考えるべきだよね。
「それで、明日はどうしますか?」
私がそう言うと、アリシアさんは笑顔でこう言った。
「どうするも何もエステルちゃんの好きなようにしなさい。私は行かないわよ?」
「えっ!?」
まさかの発言だった。
「どうしてですか?一緒に来てくれるんじゃないんですか?」
「だってー……これはエステルちゃんの復讐劇でしょ?それに私が行ったら勝負にならないじゃない?」
「それは……そうですけど……でもグランに喧嘩を売ったのはアリシアさんでは?」
「何か言ったかしら?」
アリシアさんはすごく笑顔だ。しかし目は笑っていない。怖いよこの人!本当に怖いよ!
「いえ!なんでもありません!」
「ならいいわ。」
アリシアさんの圧が凄い……。こんな人がなんで私のことなんか気に入ってくれたんだろう……。
「グランたちのパーティーに勝つにはどうしたら……まだ8階以降のマッピングだってしてないし……」
「エステルちゃん。この勝負は決闘じゃないんだから。普通にダンジョン攻略のことを考えればいいんじゃない?」
「そうですけど……」
「それに、私たちが負けることなんて絶対ないから安心しなさい。」
その自信はなんでなんですか?私はてっきりアリシアさんが来てくれるからだと思ってたのに……。
「ねぇエステルちゃん。訓練はどうだったかしら?」
「え?あー。基礎体力はついたと思いますよ?あとはパーティーとしての団結力は上がったと思います。でも正直……実践はしましたけど、強くなったのかは分からないです。成果があったのかなかったのか……。」
「ふぅん。そう思う理由はある?」
「理由ですか?うーん……連携とかの動き方も少しだけスムーズになったとは思いますけど、やっぱり実戦を経験しないと実感できないっていうか……」
「なるほど。だから不安なのね。でもあなたは今まで以上に、視野を広げてみんなのことを知って、思考を読み取れるようになったはずよ。」
確かにそうだ。私はみんなのことをよく見るようになったと思う。それに誰がどのような考えで動いているかを常に考えるようにしている。そしてそれを元に作戦を立てたりすることも……。
「もしかして……あの訓練は私のために?」
「どんな立派な豪邸があっても、それを支える土台が脆ければ崩れてしまうものよ。私たち『妖精の隠れ家』は新たな強い土台を仲間にしたの。ここから王都最強になるんだから!私にも夢見させてねエステルちゃん?」
アリシアさんはすごく笑顔で私に言ってくれた。もちろんプレッシャーがないわけじゃない。でもこんなにも今まで私を信頼してくれた人はいただろうか?そんな人達のために応えたいと思った。
「歯車だったり、土台だったり、私に注文が多いですよ?でも任せてください!必ずや期待に応えてみせます!」
私がそう言うとアリシアさんはとても嬉しそうな表情をしていた。
そして当日を迎える。グランたちは先にダンジョンの入り口に来ていた。ちなみにアリシアさんはダンジョンには潜らないが、一緒についてきてくれた。
「おう逃げずにきたのは褒めてやるよ、時代遅れのエステルよぉ?」
「そっちこそ、私たちが負けることなんて絶対ないから」
「おーおー威勢だけはいっちょ前だな。だがお前じゃオレらに勝てねぇぜ?」
この勝負は10階層にある『鉱石』をどっちが先に取ってこれるかの勝負だ。焦る必要はない。8階層までは完璧にマッピングをしてある。
「それじゃ、勝負開始!」
アリシアさんの合図で勝負が始まる。グランたちは勢い良くダンジョンに入っていく。
「あれ?エステル姉さん!遅れるのは卍なんだけど!」
「大丈夫よ。キルマリア。私たちは私たちのペースで行くわ。前衛はキルマリアとリーゼ。後衛はルシルとミルフィね。武器を持った相手が多い時はリーゼとミルフィが交代。私は索敵と罠解除をしながら進むわ。準備はいい?それじゃ行くわよ!」
「「「「おー!」」」」
みんな声を上げて元気いっぱいね。さぁ行こう!こうして私たち『妖精の隠れ家』の勝負が始まったのだった。