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22. 焦らない

 22. 焦らない


 グランたちとの勝負まで残り一週間。私は何としても勝つための方法を編み出さなくてはならなかった。

「……うーん」

 腕を組み、考える。しかし、いくら考えても妙案は浮かばない。

 そもそも、私たちにはパーティーとしての戦闘経験が圧倒的に足りていない。正直この前のゴーレム討伐が初めてだった。まぁ何とかなったのは事実だけど……。

 そして私たちはパーティーとしてお互いのことを知らなさすぎる。やっぱり、もっと多くの戦闘を経験するしかないか。

「よし!」

 そうと決まれば善は急げだ。私はその足でアリシアさんの部屋に行くことにする。
 コンコンと扉をノックすると中から「どうぞ~」という声が聞こえてきた。

「失礼します」

 そう言って部屋に入るとそこにはベッドに寝転びながら本を読もうとしているアリシアさんの姿があった。

「あら?エステルちゃん。どうしたのかしら?」

「あのアリシアさん。聞きたいことがあって。この王都の近くで戦闘訓練に適している場所とか知りませんか?」

 私がそう聞くとアリシアさんは少し考え込むように顎に手を当てる。アリシアさんは元Sランクの冒険者だ。きっと何かいい案を出してくれるに違いない。

「それなら『妖精の隠れ家』全員で野外キャンプ……じゃなかった。訓練でもしましょうか!楽しそう!」

「あの……遊びじゃないんですけど」

「分かっているわよ。結成したての冒険者パーティーは、山や森に行って魔物と戦って訓練したり、野営をして親睦を深めたりするものよ。私やゲイルさんが色々と教えてあげられるわ!」

 そう言うとアリシアさんは目を輝かせていた。そんなアリシアさんの様子を見ているとなんだか断る気力が削がれてしまう。

「分かりました。でもお店はどうするんですか?」

「休みにすればいいじゃない?どうせ誰も来ないわよ」

 草。アリシアさんだけはそれを言ったらダメですよ……。

「とにかく明日からみんなで行きましょうね!場所はここから近い『迷いの森』なんてどうかしら?あそこは弱い魔物しかいないし、迷うと大変だからあまり人は入らないのよね。それにあそこの森の奥には小さな湖があるんだけどそこが絶景なのよねぇ……あー楽しみ!」

 絶対キャンプしたいだけだよこの人。でも確かに迷いの森なら初心者の訓練にもってこいの場所かもしれない。

「それなら食料とかの準備もしなくちゃいけないですね」

「大丈夫よ!私に任せなさい!ロザリーやレミーナに言っておくわ!」

 そういうとアリシアさんはウキウキしながら部屋を出ていった。本当に大丈夫だろうか……。私は不安を抱えながらも明日に備えて早めに眠ることにした。

 次の日、私たちは迷いの森へと向かっていた。迷いの森とはその名の通り森の中で道に迷ってしまうという変わった特性を持つ森だ。しかしその性質上冒険者たちもあまり近寄らないため、訓練をするにはもってこいだと思ったのだ。

「ふぅ。やっと着いたわね」

「はい……」

 私たちは疲れ果てていた。というのも、途中までは順調に進んでいたのだが途中でアリシアさんが道を間違えたせいで大変な目にあったからだ。しかもそれを本人は全く悪びれることなく「あっれぇ~おっかしいわねぇ」と言ってくる始末だ。ついにキルマリアとリーゼがしびれをきらしはじめる。

「まったくマスターはあてにならないし!本当に目的地に着くの?この迷いの森で迷ったらウケるんだけどさ。」

「もう私疲れちゃったぁ!歩くのヤダ!」

「そんなに文句を言わないで?少し間違っただけだから。もし、文句があるなら今ここで殺すけど?どうするキルマリアちゃん。リーゼちゃん。」

「「ごめんなさい!!」」

 怖いですアリシアさん。目が本気過ぎます……。結局アリシアさんが道を覚えていたため何とか無事に訓練と野営ができる目的地にたどり着くことができた。

 ちなみに今回はロザリーさんとレミーナさん、ゲイルさんは不参加だ。やっぱりお店は休みに出来ないし、ゲイルさんは二つ返事で断ってきた。まぁこれは予想通りだったけど。

 というわけで今回参加しているメンバーは私とリーゼとキルマリア、ルシル、そしてミルフィ。あとはアリシアさん。

「よし。到着っと。ほらほら元気だして早速テントを張って訓練を始めましょうか!」

 なぜかアリシアさんが一番張り切っているのは気のせいだと思いたい。私たちは手分けしてテントを張ることにした。

「えっ!?ちょっとミルフィちゃん。それは違うわよ?」

「へ?」

 隣からそんな声が聞こえてくる。ミルフィとアリシアさんは一緒にテントを立てようとしていた。アリシアさんはミルフィの隣に行くとテキパキとテントを設置し始めている。

「まずはこうして地面を掘り返してから柱を立てて固定するのよ?」

「こうですの?」

 そう言ってアリシアさんは地面にしゃがみ込むと慣れた手つきで穴を掘り始めた。そしてある程度掘ると今度はそこに木の柱を立てる。

「こうすることで風が吹いても飛んでいかないし、雨が降っても大丈夫になるのよ。これでよし!次はこの紐を結んで引っ張れば……はい完成!」

「おぉ……!すごいですわ……さすがはマスター!」

 ミルフィは感嘆の声を上げている。さすがは元Sランクの冒険者ね。野営の準備まで完璧だわ……。まさにキャンプマスター?

「あぁ!組み立ててたらテント壊しちゃったぁ!」

「ごめんなさいマスター……」

「またなのリーゼちゃん?罰としてルシルちゃんと薪を拾ってきて。テントの予備は持ってきているから私が建て直すわ。」

 アリシアさんはそう言いながらてきぱきとテントを建て直していく。これじゃ本当にキャンプに来ているだけでは?私たちの目的は戦闘訓練をするため。もしかして忘れてないよね?このキャンプマスターは?

「あのアリシアさん……」

「焦らない」

「え?」

「今のまま戦闘訓練をしてもいい結果は生まれない。特にエステルちゃんとミルフィちゃんはまだ『妖精の隠れ家』に来たばかり。もっとみんなのこと、戦闘以外のこと、考え方、それを知るべきだと思うわ」

 そう笑顔でアリシアさんは私に言う。そして話を続けていく。

「私も元は冒険者よ?それくらい分かるわ。というわけで今日一日はゆっくり過ごしましょう。ご飯を食べたり、お昼寝したり、遊んだり、おしゃべりしたり……何でもいいの。とにかくみんなで楽しく過ごすの。分かった?」

「アリシアさん……」

「あなたから見た、この人から見た、あの人から見た、そういう思考はみんな違うものよ。その都度、最善の行動をさせてあげるのもあなたの仕事でしょ?でもねあなたのその責任感はすごくいいと思うわよ?とか偉そうに言っちゃった。」

 アリシアさんは微笑みながら言う。本当にこの人には敵わない。確かにアリシアさんの言う通りだ。私1人が焦っていたのかもしれない。そう思ってしまったのが悔しい、私はまだまだ未熟だ。

「分かりました。確かに私だけ焦っていても仕方ありませんよね。ありがとうございます。さすがは『妖精の隠れ家』のマスターですね?」

「あら?ふふ。褒めても何も出ないわよ。でもね。それが出来るのなら、私たちはもっともっと強くなれるわ。頑張ってエステルちゃん。私は期待してるんだからね?」

「はい!」

 こうして私は改めてアリシアさんの事を尊敬しつつ、与えられた時間の中でパーティーとして成長すると強く決意したのだった。

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