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15. 涙の銃騎士

 15. 涙の銃騎士



 しばらくマッピングを続け6階層の探索を無事終えることができた。あとは7階層だ。ここには目的のゴーレムがいる。みんなには申し訳ないけど、もし可能ならアリシアさんに倒してもらったほうが安全だ。でも素直にやってくれるとも思わないけどね……。

「あのアリシアさん?その7階層には……」

「ふふっゴーレムでしょ?でもねそれじゃみんなの成長にならないし、倒しても証明部位は持って帰らないわ」

「そう言うと思ってましたけどね……。」

「ふふっとりあえず予行練習でもしておきましょうか」

「予行練習ですか?」

「えぇそうよ。とりあえずゴーレムは倒すゴーレムの攻撃パターンとか動きをよく見ておいてね!」

「わかりました。お願いします」

「うんうん素直な子は好きよ〜。」

 そう笑顔で答えるアリシアさん。私にはその笑顔が怖いです……! そんなことを思いながら私たちは7階層への階段を下るとそこは大きな広場だった。そして目的のゴーレムがいた。かなり大きい。

「早速いたわね?エステルちゃん。良く見ておいてね。」

「はい。」

 私がふと壁のほうに視線を向けるとうずくまってる黒いものが見える。あれはミルフィ?

「ちょっとミルフィ!こんなところでうずくまってたら危ないわよ!」

「うぅ。もう終わりですわ……私には無理ですわ……」

「どうしたの!?ゴーレムにやられたの!?」

 私はミルフィの状態を確認する。しかし特に外傷は見当たらない。

「うーん。外傷はないみたいだけど……。大丈夫?」

「はいぃ……。怪我などありませんわぁ……。ただ私の心が折れただけですわぁ……もう冒険者やめますわ……」

 えぇ……。一体何があったんだろう……。この子もしかすると戦闘になるとポンコツになるのかしら……?でもこの7階層までソロで攻略してきてるし、そんなことは無いと思うんだけど……。

「エステルちゃん。あれが原因じゃない?」

「え?」

 アリシアさんが指をさす。その先の壁には焦げた跡がある。

「ねぇミルフィちゃん。弾丸外したから自信なくしたのかしら?」

「うぅ……うわ~ん。言わないで~!!!私はやっぱりダメな子なんですわ~!」

 その場で大きな声で泣き崩れるミルフィ。たかが弾丸外したくらいでここまで落ち込むなんて……。やっぱり変な人だ。

「よしよしミルフィちゃん泣かないの。エステルちゃん。ミルフィちゃんをお願い。少し離れていて」

「あっはい。ほら立てるミルフィ?」

「ぐずっ。立てませんわ……。」

 草。私は仕方なくミルフィを引きずってその場を離れる。

「さてと。そろそろいいかしら?少し本気出しちゃうわよ?」

 アリシアさんが魔法を詠唱し始めるとゴーレムの周りに大きな赤い魔方陣が現れる。そこから炎の柱が何本も現れゴーレムを襲う。しかしゴーレムはそれを物ともせず腕を振り回し攻撃してくる。

「あら?思ったより硬いのね。これならどうかしら?」

 さらに大きな青い魔方陣が現れ今度は氷柱のようなものがゴーレムの周りを囲むように現れる。そしてアリシアさんが手を上げるとその魔方陣から一斉に氷柱が放たれゴーレムを貫く。ゴーレムは身動きが取れなくなりその場に倒れこむ。

「はいおしまいっと。どうだったかしら?エステルちゃん」

「はい……。すごいですね……。全然参考になりませんでしたけど。」

「あら?そうだったかしら?ごめんなさいね。少し張り切りすぎたわね」

 そう照れながら頬を掻くアリシアさん。さすがは元Sランクの冒険者だ。実力が違う。次は私も頑張らないと……。

「ふふっそれじゃ戻りましょうか。ほらミルフィちゃんもいつまでも泣いてないで行くわよ?」

「ふぇぇ。もう嫌ですわぁ……。」

「はいはい。わかったわよ。それじゃ帰りましょうか」

 こうして私とアリシアさんのダンジョン攻略は終わった。入り口に戻り、泣いているミルフィを放っておくことが出来ず『妖精の隠れ家』に連れていくことにした。

「レミーナ。お茶の用意お願い」

「はい。分かりましたマスター。」

 レミーナさんは私たちに温かい紅茶を出してくれる。そしてアリシアさんがミルフィに話しかける。

「どう?落ち着いたかしら?」

「ふぇ?あぁありがとうございますわ……。落ち着きましたわ……」

 本当に最初に会った時とまるで別人だ。こんなにもメンタルをやられてしまうのか?しかも弾丸外したくらいで。

「あの……助かりましたわ。ありがとうございます」

「気にしないでいいわ。あなたはなんでソロで攻略しようとしてるの?ダンジョンは危険な場所よ。それなりの理由があるでしょ?聞かせてくれないかしら?」

「えっと……そのぉ……。」

「言いたくないなら言わなくてもいいわよ」

「いえ!聞いてくださいまし!」

 そしてミルフィは語り始めた。自分は男爵家の長女で、小さい頃から冒険者を夢見ていたこと。しかしその夢は叶わず親から結婚して子供を産むことを強制されたこと。それに反発し続けていたこと。

「それで家を追い出されてしまったのですわ……」

「なるほどねぇ。でもどうして弾丸を外したくらいでそんなに落ち込んでるの?確かに外したのかもしれないけど別にそこまで問題じゃないと思うわよ?」

「それは……。私は冒険者として生きていきたいですわ。でもそんな私が冒険者でやっていけるのか不安ですの……この事が知れてから誰もパーティーを組んではくれないですし。」

 まぁ分からないでもないけど、すごい極端だな……。それを聞いたアリシアさんは笑い出す。

「あっはっは!そんなこと心配していたの?そんなことで悩んでいたのね。」

「そんな事とは酷いですわ!」

「ごめんなさいね。でもそんなことは些細なことよ。冒険者は誰だって最初は初心者。そこからどんどん強くなって一流と呼ばれるの」

「一流……」

「ねぇミルフィ?あなた、私のクラン『妖精の隠れ家』で一流になってみない?」

「へ!?」

 ミルフィは驚きの声を上げる。まさか誘われるとは思っていなかったのだろう。そしてアリシアさんは続けて話す。

「うちのクランには、あなたみたいに欠点や上辺だけ見られていた冒険者が他にもいるわ。でもみんな優秀で優しい人ばかり。きっとあなたの力になれると思うの。どうかしら?」

「わっ私は……。」

「無理強いはしないわ。でももしよかったら考えておいてちょうだい」

「わっわかりましたわ……。」

「うん。それじゃ私は仕事に戻るから。エステルちゃん。ミルフィちゃんを送ってあげて」

「あっはい。わかりました」

 そして私はミルフィが泊まっている宿屋に送ることにする。

「ミルフィ。大丈夫?立てる?」

「はい。ありがとうございますわ」

 そう言って立ち上がったミルフィだが足元がおぼつかない。フラフラしている。やっぱりまだダメそうだ。仕方ない。 

「ほら掴まって。帰るよ?」

「申し訳ありませんわ……」

「いいって。それじゃ行こうか」

 私たちは宿に向かって歩き出した。しばらく歩くとミルフィが口を開く。

「あの……エステル」

「ん?なに?」

「あなたもそういう過去がありますの?」

「うん。私のジョブは『スカウト』今どき珍しい時代遅れのジョブなんだって。強くないならいらない。そうパーティーを追放されたの。でもアリシアさんと出会って、『妖精の隠れ家』は私に役割をくれた。だからアリシアさんのために私は頑張りたい」

 私のその言葉を聞いてミルフィは何も言わなかった。ただ黙々と歩いていただけだった。

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