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1. 追放された『スカウト』

 1. 追放された『スカウト』



「朝早くからすまんな。エステル。お前は今日限りでこのパーティーを抜けてもらう。今までご苦労様」

 まだ日が昇る朝方の時間。エステルと呼ばれる私はパーティーのリーダー、グラン=デルタニアに呼び出されいきなり追放宣言をされた。

「は?私の聞き間違いでしょうか?」

「いや、お前は今日でこのパーティーから抜けてもらうと言ったんだ」

 突然の解雇宣告に一瞬耳を疑った。だがリーダーの言葉には有無を言わさない迫力があった。

「理由をお聞かせ願えますか?」

 何言ってんだこの堅物男は……。私は呆れた気持ちになりながらも理由を聞いた。

「理由はお前の戦闘スタイルだ。俺はもっと強い仲間を探している。だから弱いお前はいらないんだよ。大人しく田舎に帰ってくれ」

 私たちがいる冒険者ギルドの一角にある食堂では、他の冒険者達がチラチラとこちらを見ているが、そんなことはお構いなしといった様子だった。だからといって簡単に諦められるはずがなかった。一体誰のおかげでここまでこれたと思ってんのよ……。そんな時グランの後ろにいた仲間も私に言い始める。

「そーよそーよ!あんたがいても邪魔になるだけよ!それにあたしらはもうBランク目前なの!あんたなんかお呼びじゃないわ!」

 この気の強そうな赤髪が格闘家のルイナ。

「そうよ!さっさと消えなさい!この陰キャのブス!」

 自慢の長い金髪をいじりながら話すのはメイジのオリビア。

「痛い目見なきゃわからんか?お荷物のエステルよ?」

 そして大剣を背負っているのが戦士のレイン。

 みんな口々に私を罵り始めた。私が一体何をしたというのか。何故ここまで言われなければならないのか。ムカつきすぎて手が出そうになるけど、グッと堪える。私は大人だからさ。

「それにエステルお前のジョブはなんだ?『スカウト』だろ?なら尚更役立たずじゃねぇか。時代遅れなんだよお前のジョブは。」

「時代遅れって……」

「せめて『盗賊』や『忍者』のようなジョブのほうがマシだ。このパーティーには必要無い。わかったらとっとと失せろ。これは今までの給料だ。」

 グランはそう言って私の前に2枚の銅貨を投げ捨てる。私の今までの働きが銅貨2枚……。あまりの少なさに言葉を失う。

『スカウト』それは、敵の気配を感じ取り事前に察知したり、罠の発見をしたり出来るジョブ。だが私はそのジョブのせいもあって戦闘ではほとんど役に立てなかった。それでも私は必死になって戦ってきたつもりだ。だけど彼らはそれを全て無駄なことだと切り捨てた。

「なんだよその目は?文句があるのか?」

 文句ならありすぎるほどある。だけど今ここで反論してもどうにもならない。私のありがたみがまったくわかってないんだから。

「それに、お前はいつもダンジョン攻略の時に、戦えもしないのに前にしゃしゃりでてきやがって、それも気に入らないんだよ」

 しゃしゃりでる?それは事前にダンジョンをマッピングしたり、魔物の気配を察知したり、罠を解除する為に必要なことなのに……。それをしゃしゃりとは何事だろうか。

 確かに戦闘中は邪魔かもしれないけど、安全の為だし、それが私の役目なのだから仕方がない。それに戦闘中のみんなのフォローだってしてきた。それなのに……どうしてこんなことを言われないといけないのだろう。

「そうよね〜!エステルったらいっつも自分だけ安全圏にいるもんね〜」

 当たり前でしょ。私はサポート役。前線に出るなんてありえない。それに前に出て怪我でもしたらどうするつもりなの?

「ほんとよ。あんたのせいで何度も危うい場面があったわよ。あんたのおかげさまでね」

 そんな危険な場面で助けてあげたでしょうが!あんたの魔力回復のポーションは私が持ってたのよ?それに、こっちは戦闘職じゃないのに、命かけてやってんのよ!感謝されこそすれど、罵倒される筋合いはないはずだわ!

「あぁそうだ。オレたちがお前をカバーするのにどれだけ迷惑だったか。」

 迷惑?それはこっちのセリフよ!

「それにお前はいつもオレたちの後をついてくるだけで何もしねえ。ただの足手まといだよお前は」

 全員が笑いながら私のことをバカにする。今まで、私はダンジョンを攻略する上で必要な情報を伝えてきた。それはみんなが死なないようにするための配慮でもあったのだ。

 だが彼らはそれさえも否定してくる。自分の命を守る為に必死になってるのは自分達だと。

 そうか……なら、もうどうでも良くなってきた。こんな人達の為にこれまで頑張って来たことが馬鹿らしくなった。

「わかりました。では、お世話になりました。」

 私はそう言うと、銅貨を拾って食堂を出ていく。後ろの方で「二度と戻ってくるんじゃねぇぞ!」とか聞こえた気がしたけど無視をした。




「これからどうしようかしら……。」

 私は当てもなく街をブラつく。

「はぁ……。あんな奴らに騙された私が悪いのかな……。」

 時代遅れ。確かにジョブの中で『スカウト』は珍しい。『剣士』や『格闘家』、『魔法使い』といったメジャーなジョブと比べるとどうしても見劣りする。しかも私が知る限り、私以外には『スカウト』のジョブの人に会ったことがない。

『スカウト』は敵の動きを読むことが出来るという特性上、敵の不意打ちを受けにくいのだが、逆に言えばそれだけである。自分が強いわけじゃない、本当にサポート役なので攻撃スキルが無い。だからパーティーの戦力として考えると『スカウト』はそこまで強くはない。

 だから私はいつもみんなの後について行って援護に徹していた。もちろん戦闘中にも索敵は怠らない。いつどこから魔物が来るかもわからないのだから。

 周りは『盗賊』や『忍者』などの劣化ジョブなどと言うけど、全然違うむしろ『スカウト』のほうがサポートスキルが優秀だ。私は別にこの職業を嫌だと思ったことはない。むしろ誇りを持っていた。それに『スカウト』に適性があったのだから時代遅れとか言われても困る。

「はぁ。お腹が空いたわ」

 こんな状況でもお腹は空くものね。さっき貰ったお金は銅貨2枚。これだけじゃ宿に泊まることも出来ない。野営用の道具も買えない。

 こうして私はパーティーを追放された。

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