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197章 絵の保管方法を知る

「ミライさんの絵の情熱、スキルはトップレベルだね」

 アカネが褒めちぎると、ミライの顔が紅色に染まった。

「ありがとうございます」

 コハルは完成した絵を見ながら、

「一枚一枚に魂を注いでいるんですね」

 といった。ミライはそれに対して、深く頷いていた。

「評判が下がったら、仕事は途切れることになります。それゆえ、全力投球で絵を描き続けています」

 依頼される仕事というのは、未来を保証されていない。「一寸先は闇」がぴったりな職業である。

 絵描きだけでなく、ラーメン店、「なごみや」、「占い屋」なども同じことがいえる。悪い評判を流れてしまったら、あっという間に倒産に傾く。

「ライバルの登場によって、仕事を奪われるリスクもあります。それを防ぐために、絵の精進を続けています」

 一人の強力なライバルが現れるだけで、仕事の99パーセントを失うこともある。自分で稼ぐ仕事は、ライバルが非常に多い。

 コハルは絵を手に取った。

「今回の絵は、大切に保管させていただきます」

 コハルが保管する場所を探していたので、アカネは窓際を案内する。ここなら、絵を楽しむことができる。

「コハルさん、ここに保管しよう」

 コハルが移動しようとすると、ミライからストップをかけられた。

「窓際はダメですよ」

「どうしてですか?」

「直射日光に含まれる紫外線は、絵の天敵といわれています。時間の経過と共に、作品は劣化していきます」 

 紫外線は絵の天敵なのか。アカネはそのことを、初めて知ることとなった。

「そうなんですね」

 ミライは別の観点から話をする。

「窓際は雨が入ることもあります。水に濡れたら、絵はダメになります」

 こちらの説明は、初心者にもわかりやすかった。

「冷暖房、煙、埃なども天敵ですね。こちらについても、注意するようにしましょう」

 ミライはさらなる説明を加える。

「その他の注意点としては、湿度、温度に気を配ることです。高温多湿なところで保管すると、カビが生えてしまい、劣化速度が速くなります」 

 温度、湿度も関係するのか。絵の保管は簡単なようで、奥が深くなっている

「最適な温度は18~25℃、最適な湿度は50~60パーセントくらいですね」

 人間の過ごしやすい環境が、絵にとってもいい環境になっているのか。そのことを知って、少しだけ親近感が湧いた。

「外の空気を入れることも大事ですよ。定期的に換気をして、絵を守っていきましょう」

 換気は室内を綺麗にするためで、絵を守るためという発想はなかった。絵の保管方法を、一つ
学ぶこととなった。

「ミライさんは保存に詳しいね」

「絵を購入した人から。保存方法を聞かれることがあります。答えられないとまずいので、フリ
ースクールの本で勉強しました」

 フリースクールで、絵の保存方法を学べるのか。遊ぶ場所だと思っていたので、意外な印象を受ける。 

「アカネさんは、絵を大切に保管していましたか?」

 急所を突かれたことで、心臓がドキッとした。

「ごめん、適当に保管していた」

 絵は劣化を続け、原形をとどめなくなった。見知らぬ人からすれば、カビが生えた紙そのもの
である。

「絵は残っていますか?」

 アカネの言葉の歯切れは悪かった。

「うん。一応は・・・・・・」

 捨ててしまおうと思ったものの、行動に移すことはできなかった。どうしてそうなったのかは、よくおぼえていない。

「絵を見せてください・・・・・」

「うん」

 絵を探そうとしたものの、どこにも見当たらなかった。家を建て替えたときに、どこかになくなってしまったようだ。

「ごめん、どこにあるのかわからない」

 絵がなくなったと知って、ミライは落胆していた。

「自分の子供を亡くしたみたいです」

「ミライさん・・・・・・」

「一枚一枚の絵を描くとき、自分の子供を描くつもりでいます。そのように考えることで、愛着
がわいてきます」 

 自分の子供という言葉を聞いたことで、コハルの表情に影が差すこととなった。自分の子供を失ったショックは、強く残り続けている。

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