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第2章の第17話 ギャラクシーコール(ギャラクティアコール)! 地球人の娘は狂暴につき取り扱い注意!?

☆彡
【――2日目】
それはアンドロメダ王女が宇宙の法廷機関に呼び出される前日の出来事だった。
地球の大異変は続いていた。いや、むしろより悪くなっていく一方だった。
世界中の空は、不気味な黒雲で覆われて、わずかな太陽光しか地表に届かない、それも時間の経過とともに日光が減ってくるのだ。
人々は顔を上げて絶望していた。
今降っている雨が飲み水として使えない黒い雨だからだ。
黒い雨の正体は、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化硫黄、硫化水素、塩素、フッ素、窒素、水素などのいくつかの成分を含有していた。
特に硫黄と硫化水素と塩素が人体にとって有毒だった。
世界中のすべての活火山が大噴火を起こし、山をすごい勢いで下る溶岩流に、噴煙と火山灰と噴石を上げていた。
それが大気中の黒い雲と化学反応を起こし、世界中で黒い雨となって降らせているのだ。
さらに活火山のスポットエリアでは、黒い雨と火山灰が降り注ぎ、火山雷が雷光轟き、地獄のエリアの様相だった。
荒れ狂う波、ここはどこかの海だ。
海中を泳いでいた魚たちは荒れ狂う海流に流されて、その身がバラバラになって海面に打ち上げられていた。
これは全体で見ればまだ少数だろう。だがそれにしても凄い数の打ち上げ量だ。
魚がもったいない……ッッ。
荒れ狂う波は、いくつもの大渦を巻き。大津波となって陸地に、その破壊的な打撃を与えまくる。
防波堤を超えて、海水が地表に叩きつけ、無残な魚の残骸を残していく。
市街地でも黒い雨が降り注ぎ。生き残った人達の顔から、生気を奪いつつあった。
顔を上げて口を開けている少女がいた。少女は水不足で喉が渇いていた。そのため、黒い雨水でもいいから欲してしまったのだ。
だが少女はすぐにむせて苦しみだした。
近くにいたその少女の母親はその娘を引っ張り、建物の中に避難させた。
当初こそなんともなかったが、これの恐ろしいところは数時間後に突然発症するところだ。
なんとも恐ろしい話だ。
「ケホッケホッ。喉がぁ……痛い……痛いよぉ」
「お願いです、水を分けてください」
少女の体は黒い雨を被り、その体を拭いてなかった。
その数時間後に影響が出始めた。皮膚炎が発症し、その後緩やかにまるで皮膚が高熱で溶けるかのようにグズグズになっていった。
初期でこの症状に気づけない以上、何とも怖い話だ。
母親は娘の体についた黒い雨を洗い流す気持ちだった。だが。
「ダメだ!! 貴重な水は飲み水としてしか使えない!! その子が言いつけを護らず外に出たのが悪い!!」
「子供が水を満足に飲めない今の状況が悪いんでしょうがッッ!!」
正論だった。
だが、そんなのはこの状況がすべて悪い、母親は怒鳴りたてた。
怒りにかられたその母親はズカズカと歩み出し、娘のために、保管していた大量のペットボトルの元へ向かう。
だが、その眼前に割って入ったのが、男女の6人だった。
「水はこれだけしかないのよ!!」
「みんなで決めたルールだ!! 守れないならここから出て行ってくれ!!」
「そうだそうだ!」
「今黒い雨が降ってるんだ! これがいつまで続くのかわからないだぞ!」
「水は貴重なの! 電気、水道、ガス、生活のインフラが止まり、もうあたし達にもどうすることもできないの!!」
「この雨は死の雨だ! 農作物、牛や豚などの動物、魚が住む川や海にも降り注ぎ、その被害はどれだけ広がっているのかわからない!! そして、いつまで続くのかも……」
「……っ」
怒りで歪む母親の顔。
「……譲歩として、ペットボトル1本分差し出そう。その代わり、あんた達親子はここから出てってくれ! それ以上の取り分はまかりならん」
「ぬ……ヌヌヌ……ッッ」
その母親は容易に想像した。ペットボトル1本分を引き換えの条件で所持し、この黒い雨の中娘と一緒に外に出るものの、ものの数時間で死に至る惨い死に様を。
「クソッ」
踵を返して、娘の元へ向かう。
「何あれ――っ情けなぁ!」
「負け犬じゃない」
「アハハハ」
母親は背中で心にもない罵声を浴びた。その足は娘の元へ向かう。その渦中、娘の容体を見てくれる人がいた。
「黒い雨による肌の炎症ね。いや、腐食!?」

【クリスティ】
彼女の名前はクリスティ。以前、スバルと関りを持った医者だった。

「誰か! 布を持ってきて!」
「熱い熱いよぉ!!」
「皮膚がグズグズになっていくっ!! まるで焼身自殺をはかった人みたい……ッッ。自然発生した塩化硫化水素硫黄ナトリウムってところかしら。
人の皮膚がグズグズに溶けて、肉まで届くわけだわ」
「クリスティさん! ボロ布を持ってきたわ!」
「ありたっけ使ってください!!」
「ありがとう! こすちゃダメよお嬢ちゃん!! 皮が剥げて、細菌が肉まで入ってグズグズになっちゃうからね!!」
「奥の方を使ってください!! ここよりは清潔なはずです!!」
その後あたし達は、その少女とお母さんを連れて、ここよりは清潔な建物の奥に向かうのだった。
その場に残った男どもは、舌なめずりした。
「女か。あれはいい女だ」
「外は生き地獄。中は安全か。クハ――ッ最高のシチュエーションだぜ」
「女医ってのもポイント高ぇな」
だが、性根が腐った女性たちがいるのも事実だ。そのクリスティの恵まれた体に嫌味を零す。
「なんかムカつくわねあのブロンドの女! 冷たい目をしてて」
「知ってるあいつ? パンツ履いてないのよ。胸も包帯でグルグル巻きだしさ、布一枚羽織ってるだけ。狙ってやってるとしか思えないわ」
「一番ムカつくのはあのデカパイね……そうだわ。この雨をぶちまけてみましょう。あいつが1人になった時を見計らってさ」
「賛成――っ! ヒヒヒヒ、どんな顔と悲鳴を上げるかねぇ」
女達の性根はこの状況下にあって、もはや平静ではなかった。性根が腐り、自分達の悦楽目的のために他者を蹴落とす気でいた。
その会話を聞いた男達は、ゾゾッとした。
「真に怖いのは、容姿に恵まれなかった女だよな……」
「自分の顔が、雨に打たれて火傷して、その腹いせなんだろ」
「あんた達聞こえてるわよ!!」
「怖え――怖え――」
クリスティたちはその娘さんを連れて、建物の奥に移動するが、そこでも人があふれていた。
その建物も半壊して、欠損した屋上から例の黒い雨が降り注いていた。
さらに、飲み水がどこにあったのかと言えば、自販機が人の手によって壊されており、その中から抜き出された後だったのだ。
あの確保した飲み水とこの建物に移住した人達の数を比較すると、1日人は3キロの水が必要なので、今日明日しか持たないのだ。
そうなれば人を陥れて駆り出し、絶命必死で雨の中駆け巡り、飲み水を確保するしかないだろう。
もしくは、他者からの奪い合いか。
「おい、姉ちゃんたちここは止めときな!! 俺達が使ってるんだ!!」
「ここが清潔なので貸し出してください」
「どうしますボス」
「……」
ボスは屋上の穴が空いた箇所から降り注ぐ黒い雨を見た。
「地下を使え。そこのエレベーターの個室の中でなら許してやる!
ただし、地下に蓄えてある食材には手を出すな! まぁどうせ口にはできないと思うがな。クックックッ、わかったら行けっ!」
「……っ。お心遣い、感謝します、ボス」
クリスティたちはその組織の上下関係に与していた。ボスは目の前にいるこの男だ。あたし達はおそらく下だろう。
あたし達の足は地下を下っていく、その最中、ボスたちの話声を聞いてしまった。
「飲み水はもって明日までか……おい、体力があるうちにここと同じ集落の目星をつけておけ」
「へい」
「向こうも考えていることは同じだろう。水と食料を巡って争うぞ。武器と兵士になりそうな奴をリストアップしとけ!」
「へい。……ですが、この雨の中動くでしょうか?」
「……飴が必要だな」
ボスは人をゴミみたいに見下す目をしていた。
「女がいるだろ。奥の部屋に連れ込んで、集団でやれ。共犯意識を持たせれば、やる気が出るだろ?」
「ヒャハー! 最高だぜボス! そいつはいい」
下っていく女達の足。
男達のゲヒた声がここまで届いていた。それはクリスティの耳にも。
「じゃあ、あのブロンドのデカパイなんかはどうでしょう!?」
「……ダントツの特盛か。だが数が数だ、女1人身じゃ厳しいだろう。
あと顔立ちと容姿のいい女を数人リストアップしとけ。この機会に誰がこのグループの支配者かわからせる! 飴と鞭は使いようだ」
女達の後姿は、電気のない、明かりもない建物の地下に入っていった……。
そこではピチョンピチョンと雨漏りしていた。
一方、この建物の外を見張れるところでは。
「……水か」
男はそのペットボトルを手に取った、今日明日生きるのに貴重な水だ。
「これを使おうぜ。取引であの体をよ」
「ヒヒッ、そいつはいい。一度でいいからあの体をしゃぶりたかったんだ!!」
場の男たちは劣悪な環境下にあって、自制心のタガが外れかかっていた。
今日、明日、いつ死ぬのか知れない身だ。こうなってはどんな判断を下すのかわからない。
だが、場の男たちは気づきもしなかった。もう間もなくここが戦場にさらされることを。
そして、クリスティと数少ない女性たちは、地下のエレベーターの個室に集まり、その少女の衣類を剥ぎ、グズグズになった皮膚を認める。
「……思ったより酷い」
(もったいないとか言ってられないわね)
クリスティはお医者さん鞄を所持していた。
その中から生理食塩水を取り出し、封を切り、ボロ布に当てがって湿らせる。
それを少女のグズグズになった皮膚に当てがって、優しく拭いてあげるのだった。
「い……っ……」
「明かりが欲しいわね。何かない?」
「男達から、ライターを借りてきます!」
グループの中の1人の女性がそう言い残し、駆け出して行った。
成人した男性であれば、タバコを吸うためにライターぐらい持っているはずだ。
その女性は男達からライター借りるために、クリスティたちから離れた時、突然の崩落に会う。
「! きゃあああああ」
それは地響きと共に悲鳴上げ、束の間グチャとその命が途絶えた。
「……ッッ」
いったいなぜ突然死んだのか、それはすぐに知ることになる。
ゴゴゴゴゴ
ズドドドドドッ
その地響きは次第に強まり、この半壊した建物が倒壊するのではないのかというぐらい、激しさを増していく大揺れだった。
そして、それは突然、目線の上の天井。その直上の1階では、地獄の惨劇が起っていた。
激しい業火の大爆発が、粉砕していく瓦礫と共に一瞬にして、洗い流していった。
劫火の灰燼の大爆流の嵐だ。
ズッゴォオオオオオオオオオオ
クリスティの人生史上、最悪レベルの大爆発大爆風の轟音だった。
奇しくも見ていない、その人体の細胞レベルを破壊するほどの熱放射を浴びなかった事が奇跡的だ。
半壊した建物がさらに半壊して、崩落した穴から、クリスティたちの退路を断つかの如く、大量の瓦礫と粉塵が降ってくるのだった。
それがきっかけで、幸か不幸かクリスティ達は延命することになる。


【少し時間が遡る――】
それは、ある日突然、地球は宇宙人たちの攻撃を受けた。
それはまさしく無抵抗な地球人類が遭遇した圧倒的な軍事力だった――
黒雲の雲の下部から現れたるは、数えきれないほどの宇宙船団。
その宇宙船団の指令室にいるのは、各々のファミリアの重鎮達だ。
「ここが地球か」
と機内にアナウンスが入る。
それは世界各国に散った同じ目的を持つ、各々ファミリア宇宙人達だ。その連絡を取り合うべく発信されていく。
『皆の者、準備はいいか』
【かに座『カンケルファミリア』】
『いつでも』
【乙女座『ビルゴファミリア』】
『おう!』
【牡牛座『タウルスファミリア』】
『不在の証明をする者などここにはいない』
【天秤座『リブラファミリア』】
『相変わらず固いね~あんた等ファミリアの連中は!』
【射手座『サギッタリウスファミリア』】
『こちらはいつでもいけるわよ!!』
【牡羊座『アリエスファミリア』】
『うむ』
【山羊座『カプリコルヌス』】
『総司令官殿! 号令を!!』
【水瓶座『アクアリウスファミリア』】
『全軍に次ぐ! 我々は現時点、地球時間11時44分をもって一斉砲撃を行う!』
【散開星団『プレアデスファミリア』】
『『『『ああっ、おうっ、ええっ、カカカカッ、フッ……』』』』
【獅子座『レオファミリア』】
【さそり座『スコルピウスファミリア』】
【魚座『ピスケス』】
【双子座『ゲミニファミリア』】
そして【海蛇座『ヒドラファミリア』】のそうそうたる顔ぶれだった。少なくとも14種類のファミリアが参戦していた。
『撃て――ッ!!』
各宇宙船団から砲撃が始まった。
その眼下では。
何も知らない年若い女の人が指を差して、「何あれ」と呟きを落とした。
それと仲の良い女性2人が「何々」と集まってきて。
その顔を青ざめたのだった……。
それは砲撃を行っている宇宙船団であった。
それが段々と速い速度でこちら側へ迫ってくる。
女性達、野次馬達は怖くなり、恐怖にかられながら、背を向けて走り出したが……。
背後から急襲を受け、炎の中にその身が消え去っていった――……

そして、別の国では。
周りの人達は壊れた建物から続々と顔だけ出して、その宇宙船団を見上げるのだった。
「UFO!?」
「あんなにいっぱい!」
「初めて見た!」
「これからいったい何が起きるんだ!?」
それはいきなりの急襲撃だった。
何とあたし達の真上で、その宇宙船団のビーム砲が火を吹いたのだ。
ドォオオオオオンと半球形(ドーム)状に広がっていく爆炎が、半壊した街並みを飲み込み、その炎の中で幾百、幾千もの人達の命が消え去っていった。
なおも砲撃は続き、苛烈さを増していく。
休むことがない砲撃。
その一方的な大量虐殺はまさしく悪夢さながらであった。
世界各国の都市は街は港町はその爆炎で変わり果て、半壊したビル群はあまりの高熱量で溶け、多くの人々は悲愴な声を荒げる。
大爆発大爆風が轟き、正面から凄まじいほどの瓦礫と粉塵、バラバラになった何の肉片かもわからないものが吹き荒れた。
「うわぁあああああ」
「きゃあああああ」
悲鳴を上げた人々は、大爆発の中消え去っていった――……
それが世界中各国で起った出来事だった。
逃げ惑う人々。
泣き叫ぶ幼女。
転んだ人を助けに入る人が、後ろから走ってきた人達に踏みつぶされ、息絶える人など様々だ。
そして、お爺さんがその幼女の抱いてこう漏らした。
「この世の悪夢じゃ……! この世に神様はおらぬのかァアア!?」
そして、迫りくる大爆発がお爺さんと幼女を呑み込み、跡形もなく消え去っていった――……
巨大戦艦の下部格納庫からたくさんのUFOが出撃し。
各都市、各街、各港町を襲う。
その巨大戦艦の指令室から見える光景は、燃え盛っている大きな都市部であった。溶解した建物から黒煙が上がり、火の手が上がっていた。
現場はまさに地獄絵図。
人の姿はなく、バラバラになった黒い炭化物が広がり、赤黒い血がそこかしこでぶちまけていた。
思わず、嗚咽を吐きたくなる光景だった。
「…………」
巨大戦艦の艦長は追って、号令を下す。
「時間はかけるな! 圧倒的な戦力差を持って蹂躙しろ!! 相手の戦意を潰せ!!! 主砲発射用意!!!」
そうだ。時間が長引けばそれだけ被害が拡大してしまう。望むなら短期決戦だ。
時間をかければかけるだけ、地球の被害は甚大だ。
そうならないよう、早期決着をつける必要があった。
「主砲発射用意!」
と作業員達が取り掛かる。
主砲にエナジーアが集束、畜力されていく。
「30%……60%……90%」
作業員達がその出力を読み上げる。
「臨界点突破!! 120%」
「150%……180%……200%!! 主砲発射準備完了! いつでもいけます!」
「主砲発射!!!」
「主砲発射!!!」
その巨大戦艦の前面部にある主砲が火を吹いた。
それはエナジーアの巨大砲撃であった。
それが直撃した大陸から一瞬光り、轟音と共に特大級の大爆発が立ち昇り、きのこ雲ができあがる。
それは地平線の先まで見渡すほどの巨大な火の手だった。
――ズォオオオオオオオオオオン
その大爆発大爆風が巨大な宇宙戦艦に吹きつける。
なおも前進する巨大な宇宙戦艦。またその船に主砲が集束、畜力されていくのだった。
――そして、またどこかの国で。人々は泣き叫び、怒り叫んだ。
「うわぁあああああ」
「きゃあああああ」
「なんで俺達がこんな目に会わなきゃいけないんだ!! いつの日か必ず、お前達をッッ!!」
男は復讐を誓う。
その手に持ったライフル銃で、実弾入りの鉛弾をパァンと発砲した。
だが、そんな小さなものはまるできかないとばかりに、その宇宙戦艦はバリアを張って防いだ。
その宇宙戦艦の主砲にエナジーアが集束、畜力されていき、再び、火を噴いたのだった。
――そして、またどこかの国では。
「おおっ、我等の神よ。どうか我等をお救いください」
願う人々がいた。
「どうか我等をお救いください」
「どうか我等をお救いください」
「どうか我等をお救いください」
教会で祈りを捧げる淑女達。
――そして、ついに終戦の時が訪れようとしていた。
『全艦に次ぐ、明確な戦争終了条件は、3つの国以上が白旗を上げることだ!! その確認が済むまで攻撃を続けよ!!』
なおも手を休めず、攻撃が続いた。
その国では白旗が上がっていた。
その兵士は勇敢な判断ができたのだ。
軍の上層部は、基本、国の威信、権力を第一にして立てるものだ。
早期、敗北宣言なぞ国に背く行為だ。その国の王族、大統領等に背く行為だ。その意見を第一に請わなければならない立場にあった。
だから、英断が遅れた。第一に負けないために、交渉術に持っていこうと考えていた。
一方的な被害を受けたと、人の考えにのとって、国の責任者として交渉を持ち掛ける考えだった。
そこが歪を生んだ原因だった。
その兵士は、英断ではないが、勇断だった。
死を恐れず、殺される覚悟で懸命に白旗を振り続けたのだ。
「お願いだ――っ!! もうっもうっやめてくれ――っ!!」
なおも、苛烈な砲撃が続く。
戦争勝利条件が、白旗が3つ以上なので、それだけでは足りないのだ。
パァン
軍の上層部だから、その決断を許せなかった。国が敗北するなど許せない。敗戦国なんてあってはならない。
その兵士は建物の屋上から転げ落ちた。
絶命だった。
それを見た建物の屋上に登っていた、多くの兵士たちは握り拳を震わせた
「白旗を上げるという事はその国の敗北宣言を表す!!! お前の意志1つで国の威信を汚すな!!! スゥ――戦えっ!! 戦えずとも戦え!!! 我等に敗北などない!!!」
「「「「「!!!」」」」」
ギリッと歯を嚙み締めた。
「「「「「後退など許さん!!! 死して戦え!!! 後世に刻み付けよ!!! 某国の威信にかけて、その命を捧げよ!!!」」」」」
腰に下げたホルスターに手をかけた兵士は、即座に勇断を下した。
その愚かな判断を下した軍の上層部の頭を打ち抜いたのだ。
「ガッ」
「うあああああ!!!」
勇気を振り絞り、悲鳴を上げながら、自分の正当性を信じ、銃弾を打ち続けた。
パァンパァンパァンと打ち続ける銃弾、撃たれる度にその身が跳ねる絶命した軍の上層部。
「このクソがぁあああああ!!! 何が国だァアア!!!」
「おい、やめろ!! そこで何してる!?」
軍の上層部の人間が建物の屋上に上がってきた。
「銃を下ろせ!!」
「うるさいっ!! 黙って白旗を上げろ!! 人あっての国だろうがッッ!!!」
「……ッッ」
英断側は、その軍人を射殺した。
「あ……」
ドチャとその場で崩れ落ちた勇断の兵士。
「馬鹿が!!! 白旗」
次に瞬間飛び込んできたのは、勇断を下した2人の兵士が飛びかかり、拳を振りぬいた姿だった。
気持ちいいぐらいにぶっ飛ばされた軍の上層部の人間は尻餅をついた。
「ハァハァ、お前もか」
「ああ、すっきりした」
2人とも気持ちいいくらいにいい笑顔を浮かべる。
「聞け――っ!!!」
兵士たちは力の限り叫んだ。
「降伏宣言をする!!! お前達にもいるはずだ、同じ志をもつ同士が!!! この一方的な戦争を終わらせたくば、もう白旗を上げるしかない!!!」
「だから戦え――っ!!! 白旗を上げ続けろぉおおおおお!!!」
「「「「「……ッッ」」」」」
勝敗は既に決していた。
尻餅をついた軍の上層部の人間は身を起こして「何っ!?」と呟いた。
「彼我の兵力差は絶望だァアア!!! このまま何もしなければ、食うものも何もなくなる!!!」
勇断の兵士は手を広げて、地獄と変わった街並みを表した。
ザァアアアアアと黒い雨が降り続けている。
「飲み物も何もなくなり、俺達地球人は死ぬしかないのかッッ!! いや、違うだろォオオ!!?
このまま軍の上層部に任せていれば、被害が大きくなるだけだ!!! 死んでもいい奴は続け!!! もう戦禍は歴然なんだ!!! もうこれ以上の被害拡大をなくすんだ!!!」
「「「「「ッッ」」」」」
英断に任せれば、未曾有の大惨事を招くばかりだ。
勇断を下せば、自分達の命こそないが、多くの民間人たちの命が助かる。
わかりやすい例えだ。
だが、その勇断を許さないのが英断側につく軍の上層部の人間という生き物だ。
即断でその勇断の兵士の背中から、パァンと打ち抜いた。
よろける兵士。貫通した胸に手を当てて、血反吐を吐きながら訴えた。
「た……かえ……戦え!!! 死しても地球人を残すんだあ!!!」
パァン
「ガフッ」
背後からの射撃により、その勇断の兵士は逝った。
「うっ……あ、あああああ」
「!?」
そこからはもう、統制のきかない集団パニックだった。
上から下から、その軍そのものの組織系統が狂ってしまった。
総司令官は頭を抱えてしまった。
「……もうダメだ、集団パニックだ……ッッ!!」
「人の心とは、ここまで脆いのか……」
総司令官についていた陸軍大将の人間はそう零した。
もう間もなく、世界各国で同時多発的に集団パニックが起こり、人間同士で争い、血みどろの戦いの中、白旗が次々と上がっていった。
『――全艦に次ぐ! 世界各国で白旗を3つ以上確認! 我々は現時点、11時49分を持って、一斉砲撃を終了する……この星の人々は我々に降伏した……』
一方的な大量大虐殺が繰り広げられたのだった。
多くの都市部から火の手が上がり、溶けたビル群、バラバラになった黒い炭化物に広がる赤黒い血のような海。
そして、多くの国々から白旗が上がっていたのだった。
その中には軍人の方が涙を流しながら、懸命に白旗を振り続ける兵士の姿があった。
5分、戦争開始から5分もかかった。一方的な大量虐殺を見て、彼我の実力差は明白だった。
降伏宣言が下されるまで、組織の上層部は負けない心構えだった。国の威信が、自尊心がそれを許さなかったのだ。それがトップの考えだ。
だが、現場は一目見て、最悪だった。
勇敢な決断をした兵士がその白旗を上げたのだ。それはトップの英断をないがしろにした行為だった。
だから、振っているその背中を後ろから撃ち殺された。
音を立てて崩れ落ちる勇敢な兵士。彼の正しい行動力は、まさしく勇者のそれだ。
だから、その行動に賛同していた仲間の兵士たちがいた。その撃ち殺した軍の上層部の人間を集団で襲い掛かり、亡き者にしたのだ。
そこからは、まさに対立だった。
勇断を立てるか、英断を立てるか、もう間もなく軍は本当の意味で、集団パニックを起こした。
人の心はえてして脆いものだ。
広がるは、凄惨な殺し合いと殴り合いだった。


――そして、現在、僕はその話をアンドロメダ王女から聞いたのだった。
「大宇宙派閥連合! その掃討戦『ギャラクシーコール』(ギャラクティアコール)じゃった! 終戦までに応援に駆けつけたのは実に38種類のファミリア。早期決着じゃった……!」
それは身震いするほどの恐怖だ。戦争だ。大量大虐殺ものだ。
「それが、お主がセラピアマシーンに浸かっていた頃の1日目の話じゃ! 2日目でわらわは宇宙の法廷機関に呼び出され。3日目でようやくお主が目が覚めた……というわけじゃよ……」
「だ、誰がそんな事を命じたんだ……ッッ!!」
「……」
「……クッ……クッ」
僕は怒り狂っていた。ともすればその怒りを誰かにぶちまけたかった。


☆彡
その後僕は、デネボラさん達と共にアユミ達のいる部屋へ向かう。
なお、アンドロメダ王女様は兵士達と一緒に指令室に残った。
その様子を、ホログラム映像で監視していた。
「……」
観察するその目は、この後どうなるかを観察しているようだった。
コッコッコッと僕の足は、1つの部屋の前で立ち止まった。そう、アユミ達のいる部屋だ。
「こちらです、地球の方」
「うん」
兵士の1人が案内してくれた。そこへ注意の声を投げかけたのはデネボラさんだった。
「くれぐれも気をつけて」
「うん……?」
と兵士の1人がドアに手をかざすと、ドアのロックが解除されて、左右に開き、上下にも開いた。
なるほど、ここも僕が治療が受けたところと同じ造りか。
僕は兵士の人に案内されて、その室内に足を踏み入れた時だった。
「今だ!!」
「この変態宇宙人めっ!!」
「!?」
スバルの元に投げつけられたのは、食事用として出された花瓶付きのお花と鉄鉱石だった。
顔面とお腹にクリーンヒット。
「ブッ!」
さらに女の子達はこんなチャンスは逃さないとばかりに畳みかける。
だがこの時、少女達は下着姿だった。それはなぜ……。
だがそんな事は委細関係なく。
アユミは聖水入りの竹筒を持って殴りつけ。
クコンはその手に持った何枚もの皿を投げつけるのだった。
投げつける度にその皿がパリンパリンパリンと割れていく。
これにはスバルもたまらず。
「痛い痛い痛いッッ!! 痛いよアユミちゃん!! 僕だよ!!」
「んっ……」
「アユミちゃん!! 今度はこれを持って!!」
とあろうことかクコンは、今度は備え付けのベッドごとスバルにぶつけようとしていた。
そのベッドの片足分がクコンが持ったことで浮いている。
「……もしかして、スバル……くん!!」
「そ、そうだよ!」
「アユミちゃん早く! そんな宇宙人ぶっ飛ばしてやる!!」
「……え~と……」
「早く――ッ!!」
と今度は、クコンは1人でもその宇宙人(?)の元へベッドを引きずってでも当てようとしていた。
これにはスバルもビックリだ。あの女子は怒らせると怖い。
「え~と……多分、スバル君だよ。ほら、あたし話したでしょ?」
「ううん!? 確かアユミちゃんの幼馴染の?」
「そうそう」
とここでようやく。
「な~んだそーゆう事かぁ」
とクコンはそのベッドを降ろしたのだった。
顔面から多大な脂汗を流すスバル。
(あの子は怒らせない方がよさそうだな。殺される……っ!)
僕は戦々恐々したのだった。

――その様子を観察していた、アンドロメダ以下兵士達の皆さんの反応は。
「あいつ等狂暴なんだよな……」
「地球人のメスはみんなあんなのだろうか……」
「せっかく手間暇かけた料理を出しても……」
「あぁ口に合わず、すげえ暴れるからな」
「だから部屋に押し込めたんだ……」
「俺、あいつ等嫌い……」
「……」
等々、嫌われている発言が多かった。
アンドロメダ王女はただ1人、何も言えず黙っていた。
(済まない、兵士達……! 地球の女子とは狂暴なようだ……!)
そんな認識が生まれた瞬間だった。

「ここにはあなた1人なの? 幼馴染君!?」
「君は?」
「あぁあたしはクコンっていうの。よろしくね!」
「スバルです」
クコンさんが手を差し伸べ、僕はその手を掴み立ち上がった。
その光景をあたしアユミが見守っていた。
「でもスバル君。よくこの部屋がわかったわね!?」
「あぁそれはデネボラさん達に案内してもらったからで」
「「!!」」
「キャッキャッ!!」
「キャッキャッ!!」
これには少女達も再び暴れ出した。
再び、花瓶付きのお花と鉄鉱石、岩石に。聖水入りの竹筒、お皿に、マネキン猫が舞うのだった。
その被弾を受けるのは、すべてスバル君のお役目だ。
「痛ててッ!! 死ぬ死ぬ!!」
そして、トドメばかりにクコンがスバルの頭に向かって、壁掛け時計をガシャーンぶつけたのだった。
当然、その壁掛け時計は大破したのだった。
脳天から血を流したスバルは、ドサッとその場で倒れ伏した……。
大破した壁掛け時計を持っているクコンは、ハァ、ハァと息を荒くしていた。
――その光景をホログラム映像で見ていたアンドロメダ王女たちは。
「なんと狂暴なのだ!」
「「「「「うんうん」」」」」
「……そして、なんて不憫な子なのだ……!!」
兵士たちは「あぁ……」と嘆いた。
事情が分かっているだけに、あれだけアユミを護る為に、死線を潜り抜けたというのに、この扱いだ。可哀そうを超えて、不憫に思えてくる。
あぁなんてスバルは不憫な子なんでしょうか、とわらわは心がいっぱいで。
頭から流血したスバルはその場に倒れ伏し、その身がピクピクと痙攣していた。スバルよ、頑張れ。


☆彡
――で、僕はその場で意識を手放し。
次に目が覚めたのは、アユミちゃん達のいる部屋であった。
僕はその重い瞼を開けた。
まず初めに映ったのはボンヤリとした視界だった、段々と鮮明になってくる。
見慣れない文字群や星座めいた点印等が刻まれた鋼の天井が見えた。
僕は体を起こし、頭を押さえた「痛たた」と声が出る。
「あっ目が覚めたー!?」
「大丈夫ー!?」
と心配そうに声をかけてくる下着姿の彼女たち。
「痛てて、ここは……」
僕は周りを見渡した。
周りの壁は、さっきの天井と同じような文字群や星座めいた点印等が刻まれていた。
床は壊れた花瓶や皿等があり、ここで戦闘があったような……。
「……あっ! さっきはよくもやったな!!」
「ごめんごめん!」
「許して~!!」
「誰が許すかァアア~~!!」
と僕は憤慨したその時、ドピュ~と頭から流血したのだった。
「うっ……目眩が……」
立ち眩みした僕は、額に手を添えて耐え凌いだ。
「……ッッ……ッッ、ぜってえ後でなんかやってやる!!」
「「……」」
僕は怒気がこもった。
これにはさしもの暴れ馬2人も反省したようだった。


――とそこへ機内アナウンスが入った。
『どうやら気がついたようだな、スバル』
「!」
『二度目の目覚めはどうだ?』
「めっちゃ最悪ですよぉ~」
もう泣きたくなってくる。
誰が死ぬほどの激戦、死ぬほどの痛い思いを乗り越えて、ここまでこれたのか。いや、もうホント、普通なら死んでるよ。
『フフッ、そうか』
「ねえねえスバル君! 何独り言いってるの?」
「頭でもおかしくなったー?」
「……んんっ!?」
そうなのだ。この地球人2人にとって、機内アナウンスはザーッザーッ言ってるようにしか聞こえないのだ。
いや、むしろ清音設計で、何も聞こえないのだが……。
『無駄だスバル。わらわ達の声を正しく聞ける地球人は、この場においてお主ただ1人だけじゃ!』
「僕だけ……』
僕は急に独りぼっちになった気がした。何だこの疎外感。また仲間外れかよ、クソッ。
『……頭の方はどうじゃ?』
「頭の方って……」
僕は頭に置いていた手を退かしてみた。
その手をよく見ると、何かパウダー状のモノが手に付着していた。
「これは……」
「それは『傷薬』だ。さしものデネボラ達もさすがに不憫に思い、攻撃が舞う中お主の手当てをしてくれたのだぞ!」
「あ、ありがとうございます。そうデネボラさんにもお伝えください」
『フッ……。それにつけても地球人の女子とは…………そのぅ……狂暴なんじゃな……』
「……」
僕は何も言えなかった。
事実であるだけに……。
とそこへアユミちゃんが僕の方にトントンと叩いてきた。
僕は「んっ?」と振り向いた。
「ねえねえスバル君。誰と話してるの?」
「デネボラって誰よ?」
「あぁ。今話してるのはアンドロメダ王女様だよ」
「王女様!?」
「で、デネボラさんって言うのは、君達が攻撃しているときに、僕の手当てをしてくれた女性のことだよ」
「あの時か!!」

――そのホログラム映像を見ていたデネボラ以下は。
「だからあの子達嫌い!!」
あたしは「フン」とそっぽを向いた。
「こっちは何もしてないのに、なんですぐ暴れるんだ!?」
「地球人の女子は非常識だ!!」
それを見ていたアンドロメダ王女は。
「お主たちも大概不憫だな……」
見ると聞こえないだけで、こうまで差があるのか。今度からはスバルを通そう。そう思ったわらわだった。
「あのさあ、何でアユミちゃんたちすぐ暴れるの?」
「あの山火事にあって、宇宙人と見たら条件反射で暴れるようになったのよ! あたしなんて、胸に攻撃を受けて、吹っ飛ばされたのよ! ホント頭にくるわあの炎の死神!」
とクコンさんが力説する。
「炎の死神……あぁレグルスのことか!」
炎の死神っていうのは多分、レグルスのことだろう。あれの攻撃を受けて生きてるなんて、なんて幸運な子なんだ。普通は死んでるぞ。
「「レグルス~?!」」
「うん、レグルス! 僕はここの宇宙人とエナジーア変換して戦ったんだ」
「「ハッ……?!」」
これには2人も、バカみたいな顔になった。
「Lといってね。2人で協力してそいつをやっつけたんだよ! 勝敗はう~ん……引き分けかな!?
初陣(ういじん)こそ負けたけど……続く災禍の巨獣や炎雷の巨獣、強いては厄災の混濁獣と命懸けのバトルを繰り広げて、遠い外国の地で打ち倒したんだ!」
僕はここぞとばかりに自慢話をした。
けど、女子達は。
「が、外国……!?」
「い、命懸けのバトルって、あんた頭でも打った!?」
僕の頭を心配してくる。
クコン(あたし)はこの子の頭を『壁掛け時計』で思い切り打った時、頭でもおかしくなったのかと心配してしまう。
「僕は正常だよ。あっ、ここにはいないけど……シシド君、大丈夫かな!?」
「し……シシド君!? ってあの有名人のお子さんの!?」
そう答えたのは、長い付き合いのアユミちゃんだ。
「そうそう、でもあの時、仕方なくその子の腕ぶった切るしかなかったんだ!! 会ったら謝らなきゃ!」
「「……」」
これにはあたし達も愕然としてしまう。ダメだ、余りの情報量の多さについていけない。
「で、色々あって、さっきまで僕はアンドロメダ王女様と食談していたんだよ」
「「食談!? あたしたちが酷い目に会ってる時に!?」」
これにはあたし達も怒りの炎が上がる。
「一応断っておくけど……。君達の足元に転がっているのは、各宇宙の宇宙人達に対応するために出された、料理だよ」
「りょ、料理!? これが……ッッ!?」
「うん! 宇宙人たちにはね、色々な種族がいるんだよ! 植物を食べる宇宙人! 鉱石を食べる宇宙人! 他にも色々な宇宙人がいてもおかしくないんだ!
だから君達は何も知らず、出てきたものの中から、一般的に食えるものだけを取り。
その他はいらないとした!
それが何日も続き、遂に出てきた料理に嫌気がさし、暴れる醜態を晒した。
それは、君達に『非』があるよねぇ?」
「ちょっとあんた!! どっちの味方よ!」
「……」
クコンさんは怒り、アユミちゃんは冷静に考える。
「……真理の味方」
「ッッ……訳がわかんないわ! こいつ!」
「アンドロメダ王女様付きの兵士の皆さんが必死に考えて、君たちのために考案した品々だよ。
少しは相手の気持ちになって考えなよ。いつまでも小さいお子様じゃないんだからさー」
「ッッ」
クコンは腹が立ち、スバルのみぞおちに突き上げるような拳を叩きこんだ。それは裏拳のめり込みアッパーだった。
「グエッ!! ゲホッゲホッ」
「ごめんなさーい! ちょーっとうるさいハエがいたもので。ホホホホ」

――これを見ていたアンドロメダ王女以下の兵士の皆さんは。
「料理の質を落とせ」
「御意」
「スバルとはこちらで取る」
「仰せのままに」
すんなりスバルには『善』を、アユミとクコンには『質が落ちた料理』が出されることとなった。

「ゲホッ! いつかその下着姿で、寒い目に会わせてやる」
「どうやってよ!?」
「……」
これにはスバルも黙りこくってしまう。
そもそも無理のある問題だ。どうやって寒い目に会わせるのだろうか。無理がある話である。
このクコンという子は、案外キツイ子だった。
「……」
僕はクコンさんの下着姿を見た。この子は俗に言うぺったんこ族だった。
「……スバル君」
「……!?」
次に目に入ったのは、僕等のアイドルアユミちゃんの下着姿だ。その膨らみのある胸の曲線美。まだ子供だとは思えないほどだ。
「あたしも……脱がされたのよ」
「そ、そうだね……」
僕は目のやり場に困る。
今更ながらに気づいたことだが、アユミちゃんもクコンさんも下着姿だった。こっこれは目のやり場に困る。でもなんで脱がされたんだろう。
「……何で2人とも下着姿なの?」
「「脱がされたの(よ)!!! 夜寝てるときに(ね)!!!」」
と上手い具合に声がハモった。
「……あのぅ2人がこう言ってますけど。夜、寝てるときに脱がしたんですか?」

とここでアンドロメダ王女は、デネボラ以下を見た。
それはささやかな目で。
「し、仕方がなかったんです! 姫様に言われて、あのお召し物を洗濯しようとしたんですが……。ものすごい暴れまして。後は、あれっきり……」
「……」
これにはアンドロメダ王女も、頭を痛めた。

――とスバルはアンドロメダ王女達から事の経緯を知り。
「――要は、そーゆう事か……!」
「どーゆう事よ!」
これにはアユミちゃんもプリプリ怒っていた。
これには僕も頭を悩ませる。
(確かにあの格好じゃあ臭うよな、森が焼けた臭いに、血生臭い死臭が染みついて、汗の臭いもするし……しかも、風呂にも入っていないようだし……)
そう、アユミとクコンは、風呂にも入っていないのだ。
どちらかといえば、汗の臭いがキツイ。
これは人前には出せない。
スバルだけはセラピアマシーンの回復液に浸かっていたので、曲がりなりにも水風呂は澄ませてある。
そうでなければ、誰が好き好んで、アンドロメダ王女様と食談など交わせようか。
山火事にあい、汗だくになったその体は、率直に言えば、臭う。
「……誤解だよアユミちゃん、クコンさん。アンドロメダ王女達は、君たちのお召し物が汚れていたから、洗濯して返そうとしてたんだよ」
「え……」
「ハァ!?」
とクコンさんは凄い顔をした。美人さんが台無しである。
「はぁ……これは両者の間で、誤解と偏見が生まれてたんだな……。見ると聞こえないだけで、こんなにも隔たりが生まれるのか。苦労するぞこれ……!」
僕は大いに頭を悩ませたのだった。
僕は「ハァ……」と溜息をついてしまう。
そして、同時に思い知った、通訳者の苦労を。
「あとクコンさん」
「!」
「君たちを殺しまくったのはレグルスって宇宙人だよ。ここにいる宇宙人達は、話せばわかる人たちだから、まだ安全だよ」
「そ、そうだったの……あたしはてっきり……」
「殺されると思ったんだよね!?」
「うん……」
「まったく……まぁあいつはイカれてたからね」
(初めて会った時から……!)
「怒りをぶつけるのはあいつだけにしてくれよ」
「うん、わかった」
とまあ上手い具合に、僕は責任の転化をレグルス1人に移したのだった。済まん、レグルス。


――これにはアンドロメダ王女達も言葉を失っていた。
いやまぁ確かに、レグルスがあんなに子供達を殺生したけれども……ううむ……。
「ま、まぁ上手いまとめ方だな……」
「あれじゃレグルス隊長も浮かばれません……」
これには兵士たちも「生きてるって……」と呟いたのだった。
――とその時、ピコーンピコーンと計器から音が発せられた。
それを認めた作業員は。
「アンドロメダ王女」
「何じゃ!?」
「当船に来客がきたようです」
「……来おったか、通せ! そして、スバルを呼ぶのじゃ!」


☆彡
あたしとクコンちゃんの2人は、この部屋に押し込められていたの。
その部屋にスバル君が着て。
色々あった。本当に色々。
そんなスバル君の元に、アンドロメダ王女の命を受けた兵士が着ていた。
あたし達には見えない、聞こえない。
でも、スバル君はうんうんと頷いてた。
あれは、耳打ちしているな。どんな会話何だろうか。気になる。
そして、スバル君は「わかったよ!」といい。「すぐにお姫様の元に向かうね」と明るい声を言ったのを覚えてるわ。
あたしはその顔を見て、ちょっぴり悔しくなった。
大事に育てたものを、横から出てきた女の人に取られたみたいで……。

「どうしたのスバル君?」
「お姫様からの呼び出し! キャー! 何々、そんな展開!?」
その時スバル君は、困った顔で「違うよ」と言っていた。
そして、「ちょっと困った事態が発生したみたいで。地球人の僕の力が必要みたい」だとか言っていた。
それは充分、スバル君も困っていて。
でも、やるせなさかな? やらないといけない場面に遭遇した男の子の顔になっていた。
「でも、僕にできる事があるならば、やらないといけない気がするんだ」
そんな風に彼は言った。
成長してるなーとあたしは思う。
「うん」
あたしも成長しなきゃね。
「さあスバル君。行った行った!」
あたしはスバル君の背中を押し、お姫様の所に向かわせる。
彼の力が必要なら、この時を置いて他にないのだから。
「あ、アユミちゃん!」
「いいのアユミちゃん!? せっかく会えた彼氏なんでしょ!?」
「いいの。あたし待ってるから」
あたしは朗らかに笑った。
「行ってきてスバル君。これは君にしかできない事なんだよ」
「……うん。行ってきます」
あたしはそうやって、スバル君を送り出したのだった。


TO BE CONTIUND……

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