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第2章の第16話 アンドロメダ王女と食談! プレアデス星の宇宙の法廷機関


【――4日目】
――セラピアマシーンの治療を受けてから、スバル目覚めの日。
「……ここはいったい……」
周りにあるものは、どれも見た事がないものばかりだった。
あれは何なんだ。
僕はそれに近づく。
それは金属質の作りで、床も壁も天井も、同じものだった。
何かの機械があって。見慣れない文字群や星座めいた点印などがある
「どこなんだここ……」
僕は身に覚えないのところにいるということだけは確信できた。
「…………あれからいったいどれだけの時間がたった…………? 1日、2日、3日か……!? ダメだわからない)
僕は俯きながら、首を振った。
目の前にはドアらしきものがある。
「……ッッ。進むしか……ないのか」
もうこうなれば動くしかなかった。
僕の足は、おぼつかなく普段よりも遅く感じられた。
違和感だ。
(……何だこれは……? 足が――遅い。周りの景色も何か違和感が……)
と突然目の前がグラつく。
モノが2重にも3重にも見えた。それに伴い、赤、黄、緑と色の波長がオカシイ、何だこれ。
(……ッッ)
不調だらけだ。違和感だらけだ。
目だけじゃない、耳もおかしい、それは音の反響具合だ。
「はぁ……ハァッハァッ……」
(何だ……体が、熱い……っこれは僕の血か……?!)
この時スバルの体は、劇的な変化が起きていた。
その原因となったのは主に3つ。1つはエナジーア変換。1つは魔力が目覚めたこと。そしてもう1つは死に瀕した際、あの謎の神より体の組成を受けた事だ。
今スバルの体は、自身の体を治そうと躍起になっていた。
血管の中を巡る血液、その速さが早い。
ドクンドクンと鼓動を打つ心臓の音もうるさい。
「どうなってるんだ、僕の体は……ッッ!?」
壁越しにもたれかかる。その時ドアが開いた、それは自動ドアだった。
しかも、左右に開き、ついでに上下にも開閉した。
ははっ、絶対にこれ、いい予感がしない。
僕は、何とかその室内から廊下に出た。
「ハァッ……ハァッ……」
息苦しい。
僕は胸を押さえて、流行る動悸を抑えられない。
体が熱い、死にそうだ。
「!」
(何だ気配が迫って……)
というかもういた。それは驚くべき速度で、僕の眼前に現れたんだ。
「……宇宙人……」
「「……」」
僕のその言葉を聞いて、2人一組の宇宙人達はお互いの顔を見合って、頷き合った。
それは朗報だった。
地球とアンドロメダ星との言葉の文化は違えど、問題は見る聞こえる者がいるかどうか、僕はその条件を早くからクリアしていた。
その後僕は、その2人一組の宇宙人に連れられて、アンドロメダ王女と相対することになる。


☆彡
【指令室】
そこは、宇宙船の指令室だった。
僕は連れられ案内されたのは、何やら工学的な設備が整った指令室みたいなところだ。
そこにいたのは、エナジーア生命体。レグルスやデネボラ、そしてLによく似たエナジーア生命体だった。
そして、一際目を引いたのが彼女、アンドロメダ王女だ。

【アンドロメダ星人 アンドロメダ王女】
第一印象からでもわかる、その身に纏う威圧感。赤と青のオーラ。まるでオーロラみたいだ。
整った顔立ちにボディライン。気品差も伺わせる。
「「…………」」
見つめ合う両者。その時間は長く感じられた。
「フム~~これはなかなか、僥倖僥倖……フフッ」
「何を言ってるんだ?」
僕にはアンドロメダ王女の言葉が理解できない。言葉の文化が違うからだ。
「例のモノを、デネボラ」
「はい」
アンドロメダ王女にデネボラと言われた科学者じみたエナジーア生命体の女性は頷き、そう答えた。
そしてスバルの元へ歩み寄り、それを頭から被せた。
「!?」
それはサンバイザーとイヤホンが一体化した造りだった。
「これで、私達の言語がわかりますか? ……地球の方」
「!? ……っ」
何てことだ。それは翻訳機だった。
「……はい!」
その言葉を聞き、笑みを深めるデネボラ。
そうか。これはお互いの言語を理解するための翻訳機なんだ。
これなら、見る、聞く、言語の相互理解と異星人同士の交流において、問題の壁が取り払われた。
(それにあの女性見たことあるぞ。確かLにデネボラと言われてた女性だ……!)
とデネボラはアンドロメダ王女に視線を移して。
アンドロメダ王女は頷いたのだった。
ようやく語れる、ここから。
「……とその前に」
そうだ、その前に。
「コホン……何かお召し物を」
そこはかとなくやはり女性だった。気恥ずかしそうにするアンドロメダ王女。
その意図を正しく読んだ周りの兵士達は、その間に割って入った。
そうだ、まず話す前にパンツ一丁ではそぐわない。何か羽織って欲しかった。
(そう言えば僕が着ていた服……あの爆炎に巻き込まれて、全部燃えたんだった…………!)
なんで僕、あの劫火の炎の中、燃え尽きていないんだろう。
灰すら残らないはずだったのに……なぜ……。
それでもパンツ一丁燃えずに済んだのは、運が良かった。意外と丈夫なのかもパンツ。


☆彡
――僕は着替えを済ませた。
新しい服装は、夏祭りの時、着るような浴衣着であった。
色合いは黄丹色、日本で言えば禁色(きんじき)に当たり。皇太子様達みたいな位の高い方々のみが着用を許されている。
ただし、アンドロメダ星では、おもてなしの色であり。他所の星からお越しになった位の高い方々が着用している色だ。
ここにも文化の違いがある。
どちらも、曙(あけぼの)の太陽のイメージがあり、ひとまず新興をおこうという隠された旨がある。
ただしだ、この時僕はこう思った。
(何かこう煌びやかで……派手でな~~、僕にはそぐわないというか……うん、大変似合わない……! でも、この手触り、相当高級なお召し物なんじゃ……)
その御召し物は、小学生スバルには大変もったいないものだった。
だが、交流を図る以上、そんなものは些細な話だ。
パンパン。
何の音だ。それはアンドロメダ王女が柏手を打った音だった。
場が忙しなく動き出す。
「……馳走を持て。食談をしよう……地球の方」
「……」
僕は食談を望むことになった。それはもう強制イベントだった……。


☆彡
席に座る僕。
指令室で食談を開くなぞ、僕が地球人類初めての出来事だろう。
僕の目の前には色とりどりの見た事もない料理が凄然と並べられていた。
だが、中には水晶やら鉱石、木片や乾燥したお花、鉄粉や鉄鋼なんかが添えらていた。何だこれ、新手の嫌がらせか何かか。
「好きなものを取るとよい。地球人の食通はよくわからんのでな。様々な宇宙人に出せるよう、選び抜いた品々じゃ」
「…………なるほど。確かに、色々な宇宙人を招く際には、これ以上のものはないみたいですね」
新手の嫌がらせではなかった。これは彼女なりに気づかい。全ての宇宙人の食通に合わせて選んだ品々だった。
「では、こちらからいただきます」
僕が選んだのは、無難なプリンだった。
僕は口の中にそれを頬張(ほうば)り味を確かめた。
「うん……」
「どうした口に合わぬか?」
「いえ、濃厚ですね。何か味が凝縮して、口の中で弾けるような。それでいてこのトロミ。この正体は……」
「おお、口に合ったようじゃな!」
快活な笑みを浮かべるアンドロメダ王女。次にはその材料名を告げる。
「それは『ガサバエルの卵』じゃ」
「『ガサバエル』……アンドロメダ星の卵料理ですか? 意外にいけますね」
「フフッそうじゃろそうじゃろ」
満悦のアンドロメダ王女様。
わらわは伊勢海老を掴み、そのまま食した。
僕はそれを見て驚いた。
なんと手に持っている箇所から、エナジーアの粒子が吸収されて、ボイルされた伊勢海老みたいなものがみるみるうちに黒く炭化したからだ。
「フフッ、ごちそうさん」
「…………」
これには僕も口を開けて、あんぐりしていた。何だ今の食事シーン……ッッ
「ムッどうした!?」
「いや……アンドロメダ星人の食事の仕方を見て、度肝を抜かれたんです」
「フフッ、別に口から美味しくいただいでも良いのじゃが……こちらでいただいた方が、格別旨いのでの。そうしたまでじゃ!」
「ふ~ん」
僕はなんとなくそんな生き物なんだろうなぁと思った。
「……何か?」
「いえ、彼、Lもそうするのかな~って思って」
「ああ。そんな事か。フフッ……大した器じゃな?」
「?」
「フツーは初めて見た時、ビックリして立ち上がるのかと期待したのじゃが……」
「……充分ビックリしましたよ。アンドロメダ星人を見た時から、今日この日まで」
(それに比べればね……)
些細なことだ。
「フフッ、大した器じゃな」
「いえいえ」
僕は軽くスルーした。
意外にわらわからみた少年は、大器の器じゃった。
「――さて、本題に入ろうか。スバルや」
「……なぜ僕の名前を……?」
疑問だ。なぜこの人は僕の名前を知っているのか。
まだこの人には僕は名前を名乗っていないはずだ。なのになぜ……。
「あぁ……あれだけの戦いを演じたのじゃ、ここの者達は皆、お主の名を知っている。Lは最後まで、お主の身を案じておったぞ」
「L!! そうだ! 彼は今どこにいるんですか!?」
「……ここにはいない、とだけ断っておこう」
「……そうですか」
アンドロメダ王女がそう言い。
その後僕は、危機感知能力でLの在所を探そうと探知能力を拡大範囲を広げた。
その時見えたのは、宇宙船内部を駆ける1羽の白い鳥だった。
駆け抜ける白い鳥はいくつもの自動ドアや厚い壁を通り抜けて、それが見たものは、どこかの部屋にいるアユミちゃんだった。さらにもう1人別の女の子がいた
「……ッ」
(何だ今のは……!?)
明らかに僕の危機感知能力は進化していた。
「どうかしたか?」
「いえ……どうやらアユミちゃんも無事みたいだったから、安心しただけです」
僕はどこか安堵していた。
「!」
「「「「「!」」」」」
これにはアンドロメダ王女を初め、他の人達も驚いた。
「……見えるのか? まさか……」
「いえ、見えるというより、その人の反応を感じるんです。今までは……」
(でも……今見たものの存在は隠した方がいいだろうな、白い鳥がアユミちゃんを見つけたというのは……)
僕は、その危機感地能力の進化した力を秘密にすることにした。
下手な情報の漏洩は自分の身を陥れ、自分ばかりか周りまで、危うくする危険があるからだ。
このまま秘密の方がいいだろう。
お互いの信頼関係を築くまでは……。
(それに……今、僕の体の中で起こっている変化が何なのかわからない。秘めたままが一番いいだろう)
僕は自分に守秘義務を課した。とりあえず身の安全と信用を得るまでは……。
「……」
「……」
僕達はここで押し黙った。
そこへ口を挟んできたのは、デネボラさんだった。
「どうやらあなたは、感知タイプみたいですね」
「……感知タイプ」
と僕は口を零した。
とそこにアンドロメダ王女が一言告げる。
「どこまで感知できたのじゃ?」
「ここが仮に指令室とするならば、あっちの方角にいるのがアユミちゃんとあと誰か。
そして、あっちの方角にいるアンドロメダ星人2人の気配を感じ取りました。おそらく門番か何かでしょうか? もしくは見回りの待機?」
「……当たりじゃな」
アンドロメダ王女がそう言うとデネボラさんも頷き返した。
どうやら僕は、その感知タイプらしい。
(話を続ける必要があるな)
僕はある程度、自己認識でわかる限りの危機感地能力の説明をした。
「僕にわかるのは、その生命体の力強さぐらい! あと種類的なものでしょうか!
地球人とアンドロメダ星人では、気の種類が違いますからね。同じ地球人でも波長が違うといえばわかるでしょうか? 例えば、そう、男子と女子とか」
「なるほど。危機感知能力で相違ないな」
「……」
僕の能力は、アンドロメダ星では危機感知能力で合ってるらしい。
「ところで、その2人は今!?」
僕は、アユミちゃん達の様子が気になり、アンドロメダ王女に問いかけてみることにした。彼女の反応は。
「あぁ、ある部屋に閉じ込めておる。騒ぎ出したものでな!」
「暴れたんですか?」
「暴れた暴れた。でわらわ達がその部屋に閉じ込めた」
これには僕もビックリだ。
やっぱりアユミちゃんだ。宇宙人が相手でも動じないな……僕は「ハハッ」と空笑いした。
「んっどうした?」
「いえ、アユミちゃんらしいなと……」
「フッ」
わらわは鼻で笑った。
あの2人は元気いっぱいじゃった。
で、暴れるものだから、少し痛めつけておいたわ。今はおとなしくしておる。
「……」
「……どうしたスバル?」
「……いいえ」
僕はこの事は深く聞かない方がいいと思い、話題を変えたかった。


☆彡
「――……さて、地球人のスバルや。そろそろ本題に入ろうか!?」
「……」
そう言われ、僕は真剣な顔つきになって、コクリと頷いた。いよいよ、大事な話が始まる。
「僕もその方が助かります。アンドロメダ王女」
「フフッ」
これには周りもピリピリしていた。
いよいよだ。
先程までの雑談と打って変わり、一歩、間違えれば、僕はこの場で亡き者になるだろう。
それだけ危うい緊張感が漂った。
「……さて、まず、何から語ろうか?」
わらわは脅しで、オーラを強めた。
僕は畏怖と恐怖を覚えた。ダメだ、返答を間違えちゃいけない。
「そうそう、お主が持ちかけた賭けは、お主の勝ちじゃ! だからこうして、食談の場を開いた」
わらわは人差し指を立てた。
「1つだけ、たった1つだけ、どんな願いでも叶えてやろう。さあ、何を望む!?」
僕達の相中でビリッと空気が打ち震えた。プリンの容器がパリンと壊れた。
そらきた。いきなり威圧をかけて、僕を揺さぶりにきた。
(わらわは最初から、舐められる気はないのでのぅ。ホホホ)
「さあ、何を望む?」
わらわはこの場の主導権を取った。今、風はこちらに吹いておる。
「…………」
僕は目を瞑って、これまでの事を振り返った。
そして、行きついたのは宇宙人絡み。その中でも、Lの一言だった。


★彡
「――君達、みんなにやり直しの機会を与えるよ」
それは僕の口を衝いて出た言葉だ。
「でもその為には、まず勝たなきゃいけない! 犯人探しや自問自答を懊悩と繰り返し、真実や理想を時として飛び超えていかなきゃいけない。君にそれができるのかい!!」
「何でもやります!! 何でもやり遂げて見せます!! だから、お願い!!」
「言葉も文化も文明も違う。初めはみんな君の敵なんだよ!! それでもやると!!」
「……はいッッ!!!」
「……わかった! 君こそ『真理』だ!!!」


☆彡
「…………」
「…………」
それは長い長い沈黙に感じられた。
そして、次に思い出したのは、あの占い師の少女の一言だった。


★彡
スバルは1人、思い悩んでいた。
「……」
僕は何も言えず、ただただ黙考す。
(何か……何か……他に何か……いい解決策はなかったんだろうか……」
ぼくはそんな綺麗事を考えていた。
――そんな折、ある少女が僕の背後から歩み寄ってきた。あの占い師の少女だ。
「……なんて愚かな人達……」
それは僕達ではなく、今も騒いでいる人達へ向けての手向け(言葉)だった。
「……」
何も言い返せない僕がそこにいた。
少女は言葉を紡ぎ続ける。僕の後ろから。
「……あなたじゃない。そこにいるのはあなた」
(僕は疑問符を覚えた。彼女は何かを訴えているかのようで。それはかとなく、未知的なものだ)
僕の隣にいるアユミちゃんは、やや後ろ斜めにいる少女の横顔を見た。
その少女の横顔はとてももの悲し気だった。
(今にも涙を流しそうな顔。……何者なの……?)
彼女の言葉には、その立ち振る舞いには、何か言い知れないものを含んでいるようで。
「浮かれ、騒ぎ、物事の本質を見ようとすらしていない……。いいえ、起源を知り、いつ自分達の身に降りかかるのか、それすらも受け入れようとすらしていない。
人とは反省しない生き物なのだろうか……」
あたしは言っていてもの悲しくなってきた。
「……」
俯くあたし。
(もしかしてこの子も、今の僕と同じ……)
すぐ近くに理解者がいた。その少女は僕達に背を向けると手向け(言葉)を紡ぎ続ける。
「本当に痛いのはあっち。
それなのに仲間同士で同調するように立ち振舞うような人がいて、なんておバカ……」
「……」
僕はそんな馬鹿な人達を見た。今も浮かれ騒いでいる人達だ。
「あの人達には良心がないのかしら? 心が痛まないのかしら? ……なんて身勝手な種族……」
「……」
僕には何も言い返せなかった。
「……ねえスバル君。あなたはどう思う? どうやって今日の事を乗り越えるの? あたしに教えて」
「わかんないよそんなの……」
「そう、『その日』が来るまで考えててね……」
それだけ言い残し、その少女は歩み去っていく。
そして――
「そこで『決断』するのはあなた――……』
それが残した手向け(言葉)だった。


☆彡
――嵐が過ぎ去った後、訪れるは静寂だった。
(何を迷う必要があるんだいスバル。それは彼と彼女からの手向けだ。その時は……今だ!!)
僕は鼻で「……フッ」と笑い。
わらわは首を傾げた。
「?」
なぜこの者は鼻で笑ったのかわからない。
そう、それはとてもわらわが及びもつかない、答えであって、理の世界の一手に手を差し伸べたからだ。
「僕は、地球人の代表として、1つだけ願いが叶うなら、『それは真理』です!」
「!」
これにはわらわも驚かされた。
まさか、そんな願いを持ってくるとは。
これでは、真理の片鱗ではないか。まさかそんな問答を持ち込むとは……ッッ
じゃが、それよりも……。
「なぜ……そんな願いを問う!?」
「それは、彼とエナジーア変換を初めてした際、彼が問うたからです。だからこそ、僕も同じようにあなたに問いかけました。
彼は戦いの中で、正義について、思いあぐねていました。
そこにはいつも、窮地に立たされたあなたがいたからです」
「あやつ……」
これにはわらわもまんま一杯くわされた。
(まいった……まさかそんな手で頭を1つ飛び越してくるとは……な)
わらわは頭が下がる思いだ。
(まさしく……真理の片鱗……愚者の器じゃ!!)
わらわはこの時、このスバルという人格の器を疑った。こんな返し、完全に想定外じゃ。
「…………」


――その時、誰かが天元に白石を打った気がした。それは囲碁というゲームで、碁盤の中央に白石を打ったものだった。
碁盤の周りには、黒と白がいくつも置かれていて、対局が進められていた。
その白石を打った手が下がると人物像が浮き上がる、それはチアキだった。
「……この石を生かし切ればあたしの勝ち。逆に競り負ければ……」
あたしは脂汗をかき、頬を伝いそれが滴り落ちる――
それは水辺の波紋のように広がり、宇宙空間が幻視した気がした。


――再び、場面は戻り、アンドロメダ王女の宇宙船の指令室では。
その様子をデネボラ達は見ていた。
(まさかそんな返しをするだなんて……)
今風は、スバルの方に吹いていた。
「そうじゃな……確かにわらわたちは窮地に立たされている。こんな場を開いている場合ではないぐらいにな)
「……何があったんですか?」
「……簡単にいえば、ハメられたのじゃ!」
「ハメられた!?」
ダメだ、訳が分かんない。


★彡
――アンドロメダ王女の回想。
【――3日目】
【プレアデス星の宇宙法廷機関】
そこは宇宙の法廷の場であった。それも最高位の法廷機関だ。
周りには、多数のファミリアの出席者達が在籍していた。
かに座『カンケルファミリア』、
獅子座『レオファミリア』、
乙女座『ビルゴファミリア』、
天秤座『リブラファミリア』、
さそり座『スコルピウスファミリア』、
牡羊座『アリエスファミリア』、
牡牛座『タウルスファミリア』、
射手座『サギッタリウスファミリア』、
山羊座『カプリコルヌス』、
魚座『ピスケス』、
水瓶座『アクアリウスファミリア』、
双子座『ゲミニファミリア』、
そして海蛇座『ヒドラファミリア』の13の名高いファミリアだ。王道13門という誰もが知る星座の代表格だ。
その他にも色々なファミリアの代表者達が列席していた。
主に女性の比率が多く、男性が少ない……。
最高裁判官は、『プレアデス星の女王様』が務めていた。
そう、全てのファミリアの長にして頂点だ。
(なぜ……プレアデス星の女王様が自ら務める……?)
わらわは訳が分からなかった……。
(こんなの異例中の異例だ! 王族を裁くのに同じ王族を使うのはわかるが、ここまでの事態は久しくないのではないのか!?)
わらわは嫌な気配を覚えた。
冷や汗のエナジーアの粒子が立ち昇る。
「では当方に問う!」
その声が、法廷内に響き渡り浸透した。
「アンドロメダ王女よ! そなたはなぜ、ここに呼ばれたかおわかりかな!?」
「フッ、さあな」
プレアデス星の女王様は、ドンッと最高裁判官の机を叩いた。
「この大戯けもの!!!」
プレアデス星の女王様は激昂した。
「お主が『青白い光熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)で地球を攻撃したからじゃろうが!!
あの緑の惑星は数少ない植民地エリアだったじゃぞ!!
それを『全球凍結』スノーボールアース(クライオジェニアン)などにしてくれおって!! どう責任取る気じゃ!?」
なるほど。こちらの事情は知っておるか。なら、こちらも正論で返すだけじゃ。
「お言葉を返すようですが!
先に攻撃を被ったのはわらわ達が住まうアンドロメダ星であることをお忘れなく!
しかも懇意にしていた、他の惑星の方々にも迷惑をこうむり、中には死傷者もでた!
あれを攻撃と呼ばずして、何という!?」
「ううむ……」
正論には正論で返した。
これにはプレアデス星の女王様も訝しげる。
確かにそうだ。平たく言えばこちらが被害者だ。これは正当防衛と捉えることができるのではないか。
かなりやり過ぎた感はあるが……。
ファミリアに加盟しているのはアンドロメダ星だ。そちらを助力するのが筋に思えてくる。
だが、責任の所在を問わなければならない。どう、裁量するかだ。
――とそこへ獅子座『レオファミリア』の女王様が手を上げる。
ってかなぜ、女王様がいらっしゃるのだ。
「最高裁判官。私に話をさせてください!!」
「うむ、任せる!」
「ハッ!」
レオファミリア女王はそのたわわな実った胸に拳をドンッと打ち付けた。その際、そのたわわに実った乳房が波打った。
「……」
わらわはあの行為を見て、こう思ってしまう。それは程々にしておかねば、大事なものをなくすからだ。
(あれいつか千切れるか、クーパー靭帯が切れて醜く垂れ下がるか、貧相になるぞ……)
と思ってしまう。
まあ、既婚者だし大した問題ではないか……とわらわは失礼な事を考えていた。
「アンドロメダ王女、それは誤解だ!!」
「誤解じゃと!?」
「はい、生き証人をこちらへ!」
レオファミリアの女王様がいい、パンパンと柏手を打った後、
その重苦しい両扉が開き、その奥から宇宙人達が入室してきた。
特筆すべきは、その中間に地球人の罪人が連れているところだ。
その両隣には、わらわと同じエナジーア生命体の警備隊らしき服を着た2名がいた。
さらに両隣には、4名のレオファミリアの者達が固めておったわ。
わらわは面識はないが、その地球人の罪人とは、『坂口宇宙開発研究センター』のあの坂口代表であった。その者は捕まり、お縄になっていた。
「こやつは……?」
「この者は地球人! 『坂口宇宙開発研究センター』の最高責任者! 坂口代表ですよ!」
上機嫌に笑うレオファミリアの女王様。
「何だこの場はクッ! 放せ!! 私を誰だと思っている!!?」
坂口(罪人)は声を荒げた。自分は最高責任者まで登りつけたエリートだぞ。こんな罪人に成り下がる器ではないわ。
だが、両隣から一斉に突き刺すような槍を近づけると。途端にその顔が恐怖で歪む。
その突き刺すような槍を近づけたのは4名のレオファミリアであった。
「口を慎め、罪人!!」
「ヒッ!」
ここではその坂口代表は、罪人扱いだ。もう、言い逃れはできない。
「……」
レオファミリアの女王様は、その罪人を見て、次にはその者の罪状を読み上げる。
「……この者は、宇宙探査機なるものを打ち上げ、あなたの星を調査(リサーチ)しようとしたのです! ですが結果はあのありさま、最悪でしたね……」
「調査(リサーチ)じゃと!?」
「はいーっ♪」
にこやかに笑みを浮かべるレオファミリアの女王様。もうこれは気分がいい。証拠も押さえて動かぬ証拠も持参しているのだから。
「そんなもの信じられるか! 証拠を持ってこい証拠を!」
「ンフフフフ」
「何を笑っておる!?」
「その時の映像があります。地球人側から見たね。それではその映像を再生しましょうか!」
「映像……じゃっと!?」
ちょっと待って。地球人側からと言ったな。なぜそんなものを持ち合わせておる。
(まさか……)
わらわの脳裏に敗北の2文字が浮かんだ。
「……いかがなされますか? 最高裁判官」
「認可する」
とその映像を持ってきた者はお辞儀をして。
腕時計型携帯端末を操作し、中央の台座が発光した。
そして、ホログラム映像として映写されるのだった。
「おおっ」
「こっこれは……!!」
それは地球人達側からみた、あの時の映像であった。
そう、宇宙探査機がアンドロメダ星を調査した日の瞬間だった――


☆彡
「――その時の映像が決め手になり、その罪人は死刑が確定!」
その坂口代表は放心し、床に膝を下ろして、顔を上げ虚ろな瞳じゃった……。それはまさに、言い逃れのできない犯罪者の顔だった……
「わらわにも何かしらの重いペナルティが課せられるはずじゃ! 次に法廷の場に行ったとき、それが決まる……!」
嘲笑うレオファミリアの女王様。
しかもそれは宇宙の法廷機関の中で、別の誰かも嘲笑するのだった。
「ンフフフフ」
「アフフフフ」
「ホホホホ」
囀る声が木霊した。わらわはハメられたと思い深く絶望した。それはもう絶望的な顔だった。
死刑か終身刑か星流しか、重い罪状には違いないだろう。
「――つまり、それがハメられたと!?」
「そうじゃ……」
場に重い静寂が流れた。
坂口代表の死刑は妥当だろう。これにはついては異論はない。
しかし、なぜアンドロメダ王女が。
それは今回の事件の騒動からみても、地球を急襲したアンドロメダ星人全員で連帯責任を負うべき案件だ。主犯格である事には違いないが……。
さらに、宇宙の法廷機関の場に、そもそも各宇宙を代表する女王様御自ら出席なさるだろうか。
ダメだ、疑問点が多すぎる。この問いに僕は。
「…………妙だな」
と口ずさんだ。
「?」
「いくらなんでも出来過ぎてる」
「?」
「そんな都合よく上手くいくだろうか!?
その坂口代表の居場所は割り出せても、その2名の宇宙人達の居場所は割り出せないはずだ。メディアの力を借りない限り……!
あの宇宙探査機がどこに不時着したのかわからないからな」
「あっ!!」

その時、場がザワッとした。

「どうしました? 王女?」
とデネボラがアンドロメダ王女に話しかけた。
それに対しわらわは。
「やられた……混血(ハーフ)のスパイじゃ!」
「ハーフのスパイ?」
(なんのこっちゃ!?)
僕は訳がわからなかった。
「うむ、宇宙人と地球人のハーフじゃ! もしくはよく似た種族!! その者はTV局内になりすましておったのじゃ! もしくは静止軌道ステーションに既に潜んでおった。つまり――」
「仕込まれていたと……?」
これにはわらわも「うむ」と頷いた。
「ぬかったわ……。道理であの宇宙人2人から、先にアンドロメダ星に連絡が行かぬはずじゃ!」
「?」
「それもそのはず。あの建物は借住居(テナント)で貸し出しておって、いくつかのファミリアが使っていた。その中にはレオファミリアも使っておったわ……!」
どうやら、今回ばかりはファミリアの連中に揚げ足をとられたらしい。
いっぱいくわされたわ。ポンタヌめ」
「ポンタヌ?」
「アンドロメダ星の狸じゃ」
僕は「なるほど……」と理解を深めた。ポンタヌというのは、どうやらアンドロメダ星の狸らしい。
この問題には、僕も、アンドロメダ王女様も。
「「う~ん……」」
と考えた。
「この場合、アンドロメダ星はどうなるんですか?」
「何じゃ、そこはまず、地球から心配すべきじゃろ?」
「……じゃあ、今、地球はどうなってますか!?」
アンドロメダ王女の口から語れるは、あの日地球が受けた報復であった。
それは、まだスバルがセラピアマシーンの回復液に浸かり、寝ていた時の出来事であった。
スバルは、その深い絶望を知ることになる――


TO BE CONTINUD……

しおり