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107章 生きるために

「私の友達は8歳で結婚しました」

 8歳のときは、異性にときめきを感じることすらなかった。結婚はおろか、恋愛すら考えていなかった。

「私は10歳で籍を入れました。相手は13歳上の男性です。私くらいの年齢で結婚する場合、年の差結婚が圧倒的に多くなっています。生活のことを考えると、同年齢というのは厳しくなります」

 10歳同士で子供を産んだとしても、育てていくのは難しい。結婚をするとすれば、自動的に年上の男性を選ぶことになる。

「女性の出産が早いのはどうしてなの?」

「18歳になったら、仕事をすることを求められていました。12歳くらいで出産しておくと、働き
やすくなるので、子供を早めに産むことになります」

 夫婦で働かなければ、子供を支えていけない。そうなると、12歳くらいで出産しようという話になるのも頷ける。

「1日に16時間勤務は当たり前なので、旦那が命を落とす、仕事できなくなるリスクは高いです。そうなったときには、女性が子供を支えていかなくてはなりません」

 結婚したものの、旦那があの世にいくことはあり得る話だ。最悪の事態を想定して、行動しな
くてはならない。

「旦那の過労死率は40パーセント前後といわれています。5組に2組は、旦那が過労死する計算になります」

 サクラ、ミライの母親を見ていると、あながち間違っていないように思える。結婚した男性というのは、子孫を残してあの世に旅立つのが使命になってしまっている。

「『セカンドライフの街』では、旦那が死亡しても、1ゴールドも支給されません。命を落とした場合、生きている者で支えていく必要があります」

 保険金という制度は存在しないことが、12歳前後の出産につながってしまっている。保険金をもらえるならば、無茶をしようとはしないはずだ。

「妊娠をすると、仕事をするのは難しくなります。一人で支えている場合は、子供を授かるわけにはいきません」

 育児休暇制度もないのか。女性にとっては、生きにくい環境になってしまっている。

「アカネさんがやってくるまでは、生き地獄さながらでした」

 生き地獄というより、拷問といった方がしっくりとくる。「セカンドライフの街」は、人間の生活する環境ではない。

「付与金が適用されてからは、生活は楽になりました。これまでの地獄が嘘のようです」

 フタバは大きく頷いていた。

「そのとおりです。付与金によって、住民は息を吹き返すことになりました。本当にありがとうございます」

 ココアは心の本音を呟いた。

「一人で生活できるのであれば、10歳で結婚することはありませんでした」

 ココアの表情を見ていると、一ミリも愛していないのが、ひしひしと伝わってくる。

「旦那は好きではないの?」

「はい・・・・・・。子供がいなければ、確実に離婚しているレベルです」

「ココアさんはどうして結婚したの?」 

「一人で生きられないと思ったからです」

「セカンドライフの街」は、誰かと協力する必要がある。それを叶えるためには、結婚するのが
てっどりばやい。

「結婚したことで、生活はさらに貧しくなりました。家族でバナナしか食べられないときは、死んでしまいたいと思うこともありました」

 食生活は幸福度に比例する。バナナだけの生活は、幸福とは程遠い世界である。

「子供に寂しい思いをさせるわけにはいかない、その一心だけで必死に生き続けてきました」

 子供のことだけを考えて、必死に生きようとしていた。その話を聞いただけで、心が動かされるような気がした。

「アカネさんがやってきたおかげで、生きたいと思えるようになりました。本当にありがとうございます」

 お金だけで生きているわけではないけど、最低限の収入は必要である。稼ぎがあまりに低すぎた場合、生きる希望を見出すのは難しくなる。

「ココアさん、ラーメンをおかわりする?」

「はい。お願いします」 

 アカネは店長にラーメンの追加注文をする。

「店長、ラーメンを2つ」

「あいよ・・・・・・」

 数分後にラーメンが出される。ココアは食べられるありがたみをかみしめるように、一口一口を食べていた。

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