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71章 意外な仕事

 ゆっくりと過ごしていると、ドアをノックされる音がした。

 扉を開けると、仕事押し付け人が立っているではないか。アカネのテンションはガタ落ちすることとなった。

 マツリはこちらの気持ちなどわかるはずもなく、いつものように挨拶をしてきた。

「アカネさん、こんにちは」

「マツリさん、こんにちは」

 仕事の依頼ではないことを祈ったものの、無駄な努力に終わることとなった。

「アカネさんの絵を展示することになりました。それゆえ、絵をかいていただきたいのです」

 思いもよらない仕事だったためか、声が裏返ることとなった。

「私の絵を展示?」

「はい。『セカンドライフの街』の英雄の絵を展示することになりました。それゆえ、一枚かいていただきたいのです」

「どういういきさつで、絵を展示することになったんですか?」

「ざっくりといえば、住民の希望ですね。子供から大人まで幅広い人たちあら、アカネさんの絵
を見たいという要望がなされました」

 アカネはデザイナーになる夢を持っていたものの、絵の才能はなかった。高校時代を最後に、筆を置かざるを得なかった。

 過去のトラウマがよみがえったからか、弱音を吐いてしまうこととなった。

「私は絵が苦手です・・・・・・」

「得意、苦手については気にしていません。アカネさんの思いを込めた作品を完成させてください」

 みんなの前で赤っ恥を描くのは避けたい。後ろ向きである気持ちが、仕事に対するモチベーションを大きく低下させることとなった。

「断ることはできますか?」

「原則は書いてもらうことになります」

 仕事の依頼を出す前に、本人の意思を確認すべきではなかろうか。後出しじゃんけんは、あまりにも卑怯すぎる。

「子供たちのためにも、絵を完成させてください」  

 子供たちのためといわれると、依頼を断るのは難しい。アカネはしぶしぶではあるものの、承諾することにした。

「わかりました。絵を描かせていただきます」

 巨額のお金を得られているものの、自由に生きる権利は奪われている。収入を減らしてもいいので、スローライフを楽しむための時間が欲しい。過ぎ去った時間は、お金では取り戻すことができない。

 マツリは仕事のスケジュールを発表する。

「展示会は1ヵ月後となります」

 展示会が1カ月後ということは、提出期限はそれよりも短くなる。絵を完成させるための時間としては不足している。

「わかりました」 

 好きなことを仕事にできるにもかかわらず、モチベーションは上がらなかった。好きなことであったとしても、仕事になるとやりたくないと感じるものなのかもしれない。

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