ー 歪む韻律(1) ー
さわさわと心地よい葉擦れの音が、どことなく落ち着かない心を優しくなだめてくれる。そんなお昼下がり。私達、
皇帝陛下と宰相閣下の話をまとめると、ウィグリド砦はかつて
(だから、イーダフェルトの作成リストに
確かにこれは、
(私に出来ることは、相手の見極めとその目的の把握。敵の殲滅ではない)
(私も、自分の竜がいれば、もう少し役に立てるのに)
水辺で愛騎の世話をするシグルド様を見て、つい羨ましくなってしまう。ヒポグリフは、身体の前半身が鷲、後半身が馬の姿をしており、対価に応じて他種族と協力、もしくは主従関係を結ぶことができる知恵のある
「おー嬢っ、なに見てんだ?」
「ディートリヒ様」
すっかり『お嬢』呼びが定着したらしいディートリヒ様は、お昼ご飯のサンドイッチを持ってきてくださった。ありがたく受け取り、ぱくつく。固めのパンにアグリオフラウラの甘酸っぱいジャムがよく合っていて、思わず口角が緩んだ。
「ヒポグリフなんて、竜と比べたらそこまで珍しくもねぇだろ」
「そうでしょうか?でも可愛くて。私も、自分の竜がいればよかったのですけれど」
「あー、リントヴルム竜騎士隊かぁ。そんな徽章いっぱい付けてんのに入りたいもんなの?」
「
「ふぅん。じゃあ、お嬢についてきた奴らはみんな特別ってこと?」
「そうですね。みなさま、
「リーグルも?」
「はい」
「婚約者ってホント?」
「んっ!?」
突然話題がすり替わり、思わずサンドイッチを喉に詰まらせそうになる。慌てて水筒を煽り、ごくりと飲み込んだ。
「え、その反応ってことはマジか」
「あの、それについてはですね……」
「リーグルがいるのに、あんな熱ぅい視線をシグルドに送っていいわけ?」
「いえ、あの、少々誤解があるようなのですが……」
悪い顔で笑うディートリヒ様は、正に興味津々といった様子で距離を詰めてくる。
「シグルドの事、好き?」
「えっ、あの、ディートリヒ様……」
「ねえ、好き?嫌い?どっち?」
まだ出会って2日しか経っていない相手に対し、その質問はどうなのか。非常に回答しにくいのがわかりきっているご様子で、私の反応を面白がっているのがよくわかる。からかわれているのは承知しているが、こういった場面で何と答えればいいのか、よくわからない。
逡巡の後、シグルド様と初めて会った時に感じた不思議な懐かしさを思い出しながら、私は答えを絞り出した。
「それは……、もちろん、えぇと、素敵な騎士様だと思います……」