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第19話 俺にケンカを売るなんて、10年早いっ!

「あはははは。あーはははははははははっ! ……はぁアホらしい。折角王族といい仲になって、私も最上階に連れて行ってもらえると期待していたのに。……それが反逆罪で指名手配!? もう意味わかんないんだけど。でも、これだけは言えるわね。今日のために用意したこのドレスも、ぜーんぶ無駄になっちゃったってこと。……そして指名手配されているアンタになんて、全然興味がないってこともね。ふふふ。きゃははははははははははははははははは!」

 ルナーラと名乗った階層主(フロアマスター)の娘は笑い続け、蔑んだ目で俺を見た。まるで汚いモノでも見るように。
 俺は落胆と同時に確信した。

 ———この娘は、玲奈じゃない。

 もし転生の弊害か何かで、一時的に記憶を失っているとしても、玲奈はこんなことを言う子じゃない。
 アイツは———玲奈は、誰よりも優しくて、他人の心の痛みにも寄り添えて、思いやりがあって、抗えない魅力に溢れている。
 
 こんな内面ブスじゃぁない!

「ふふふ……うわっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはあ!」
「ヤマ……ブレイク王子!?」

 耳障りなルナーラ(内面ブス)の笑い声をかき消すように、俺は腹の底から哄笑(こうしょう)を解き放つ。
 気でも触れたのかと心配そうに見るエリシュに顔を向け、清々しい笑顔を咲かせてみせた。

「———よしっ! 行くぞエリシュ! もうここには用はない。さっさと立ち去ろう!」

 エリシュもやや引き攣っていた相好を崩し、頷き返す。
 踵を返す俺たちに「ま、待て」と投げられる裏返った声。

「い、いや。待ってください、ブレイク王子。この報告の真偽が分かるまで、我が屋敷に逗留《とうりゅう》してはいかがでしょう?」

 呼び止めたのは階層主(フロアマスター)。両手を広げ作り笑いを浮かべながら、一歩、また一歩と近づいてくる。

 ———このスライム狸め。見え見えなんだよ! 魂胆がぁぁ!

「大方俺たちを足止めして、王城に報告してご褒美でも頂戴するつもりだろうがな、そんな手にうっかり乗ってやるほど俺はアホじゃねーし、暇じゃないんでな。……じゃあ行くぜ」

 再び玄関に向かって歩き始めると、今度は家政婦(メイド)たちが必死の形相と、唇を軽くわななかせながら俺たちの前に立ち塞がった。

(……かわいそうに。主人の命令で嫌々やっているんだろうなぁ)

 俺はドスを効かせた野太い声で「おい」と言い、首からゆっくりと振り返ると、怒気を放つ。
 俗に言えば『ガンをつける』。大和時代にもっとも得意としていた俺の固有スキルだ。

「なかなかいい度胸してるじゃねーか。お前……この俺に楯突く気なんだな? 国家反逆罪を受けた身でも、俺は王子だ。俺に心酔し従う者も少なくない。……手始めにこの家から襲ってやろうか? 何、ステータスランクAの猛者を20人ほどここに向かわせれば、あっという間だ。苦しまずに死ねるだろうよ」
「あひゃ……それだけはお許しを……!」
「それに女ぁ! 散々馬鹿にしてくれたが、お前は殺さずに生かしといてやる。20人の猛者たちの慰み者になるがいい。陵辱の限りを尽くされて、気が狂うまで犯されるといい!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!」

 階層主(フロアマスター)ルナーラ(内面ブス)は、その場にペタリと座り込んだ。

「さあ! 道を開けるのだ!」
 
 主人の戦意が真っ二つにへし折られるのを見た家政婦(メイド)たちは、エリシュの言葉に素直に従った。

 屋敷を出て小走りで、下層へ続く階段へと向かう中。

「なあエリシュ。……ちょっと脅しすぎたかな?」
「いえ。あれくらい言ってやって当然よ。……実は私も少しだけ、胸がすっきりしたの」

 いつもは滅多なことでは冷淡な仮面を外さない相棒の頬が、少しだけ緩んでいた。

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