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 気付いた瞬間、どくりと心臓が跳ねた。
 どうして、どうしてリゲルの字の書いてあるノートがこんなところに。
 それより肝心なのは、自分がそれを覗き見してしまっているような形になっていることだった。
 駄目、すぐ閉じて「うちの物置に何故かあったの」とリゲルに返さなければいけないのに。
 でも、でも。
 ライラの心がざわめく。すぐにページを閉じられない。
 何故なら書いてあったのは、幼き日のリゲルの日記だったので。
 そしてリゲルのものだと気が付いた、ここまで読んでしまった内容からするに、自分がずっと気にしていたひとのこと……リゲルの初恋の女性。そのひとについて書かれていたページだったゆえに。いけないと頭の中で警告が鳴っているのに、ライラはノートを閉じられなかった。
 気になっていたから。
 ずっと気になっていたから。
 リゲルの中で、あのひとがどんな存在であったかを。
 開いた一ページ。
 それだけでじゅうぶんだった。
 じゅうぶんだったのだ。
 その一ページには、リゲルの、あのひとに対する情熱的な気持ちが書かれていたから。子どもらしく言葉は拙かったけれど、そのとき熱い想いを抱いていたことは良く伝わってきた。
 ライラはそっとノートを閉じた。かたわらに置いていた布を取り上げ、表紙を綺麗に拭く。それを持って、立ち上がった。
 もうクリスマス飾りどころではなかった。地下室を出て、元通り入口を閉める。そして自分の部屋へ向かった。まるで無心で、黙々と。
 まだ夕方にも早い部屋。もう冬の季節ではあるけれど、まだ明るい。
 扉を閉めて、自室に立ち尽くして。ライラは持ってきた小さなノートを見た。それが酷く汚らわしいものに思えてしまう。
 そんなことは間違っているのに。
 本当に汚らわしいのは、そんなふうに感じてしまう自分の心なのに。
 不意に視界が歪んだ。ぽた、と革張りのノートの表紙に雫が落ちた。
 なに、これ。
 自分が涙を落としたことすらわからなくて、ライラは呆然とした。流石にすぐに気付いたけれど。
 そして気付いてしまえばそれは一気に加速した。ぽろぽろと勢いよく零れてくる。たまらずに部屋の奥へ行き、ノートを置こうと机に向き合う。

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