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「お待たせ」
「ん、ああ、ありがとう」
 ライラがお盆にカップとお皿を乗せてリビングに入ると、椅子に座ったリゲルはネックレスに視線を落としていた。顔をあげて笑ってくれる。
 リゲルの膝の上にはハンカチがあって、その上には例のネックレスが乗っていたのだ。少し距離があるので見えなかったけれど、きっとチェーンは綺麗に直っているのだろう。
「お、美味そうなクッキーじゃないか」
 皿の上のクッキーを見て、リゲルは顔をほころばせた。ライラの作るお菓子を食べてくれるのは、ずっと昔から。それなのに今でも毎回褒めてくれる。
 そういえば、昔は焦がしたり酷いのを出しちゃったりしたっけ。流石に生焼けになってしまったものは「駄目よ、おなかを壊すから」「諦めなさい」と母にとめてもらえたけど。
 今は毎回「美味しい」と多分、お世辞ではなくリゲルが言ってくれるようなものを出せるようになった。それが誇らしい。
「薔薇みたいだな」
 ライラがテーブルにカップを並べて、皿も置いて、すぐにリゲルはひとつクッキーを摘まんだ。しげしげと見いる。
「そうでしょ。このジャムも薔薇なの」
 小さなうつわに入れたジャムを示すと、リゲルも嬉しそうな顔をした。花が好きなのだから、薔薇のジャムと聞いてだろう。
「なんだ、ぴったりじゃないか。合わせたのか?」
「そうなの。こないだマルシェで薔薇のジャムを買って……」
 薔薇のジャムを買った経緯を話して、リゲルは摘まんだクッキーを先に一枚平らげて。「せっかくだから、薔薇のジャムもいただくか」と言って、紅茶にひとさじジャムを落としてすすって、「美味い」と言ってくれた。
 お茶出しもひと段落して、リゲルは改めてネックレスを差し出してくれた。
 ハンカチの上に乗った、ネックレス。
 ハンカチは昨日と違う、麻素材のキナリのものだった。夏らしい。そして白っぽいだけに、ネックレスの形状や色がよくわかる。
「ほら、直ったぜ」
「ありがとう!」
「ここの金具を弄って、繋ぎなおしてだな……」
 リゲルが指さして教えてくれたけれど、こういうことに不器用なライラはそれが具体的にどのように直っているのかは、よくわからなかった。
 だって、どううまく直したというのか、それはまるで、買ったときそのままにしか見えなかったのだ。感心してしまった。
「リゲルは器用ねぇ」
「そうだろ。もっと褒めろよ」
「褒めてるじゃない」
 感嘆の声を出したライラにリゲルはやはり誇らし気な顔をして、そしてライラはくすくすと笑った。
「直しながらじっくり見たけど、すごく綺麗なやつじゃないか。単に月のモチーフだと思ってたけど、石が嵌ってたんだな」
 そっと手を伸ばしてネックレスに触れる。モチーフの月の表面をそっと撫でた。

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