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「あ、そうだ、直してくれるなんて、お礼をしないと……ご飯、食べていかない?」
 恥ずかしさを誤魔化すためもあったが、わざわざ直してくれるのだ。お礼をしないといけない。よって提案したのだが、リゲルはちょっとすまなさそうに笑った。
「悪い、昨日母さんがたくさん作ったシチューがあるんだ。だから帰らないと」
 消費しないと怒られるからな、なんて茶化してくれる。残念ではあったが、それに救われてライラも笑った。
「そっか……じゃあ、また今度」
「ああ。楽しみにしてるから」
 リゲルの母。勿論、リゲルは養子であるので血は繋がっていない。そして養子であるがゆえに、愛情たっぷりに育てられたわけではないことも知っている。それでも衣食に困らないくらいには放置されていないようだ。
「さて、じゃ、俺はそろそろ」なんて言いながらリゲルは椅子から立ち上がった。
「そういや、これ、買ったばっかりだったのか?」
 聞かれたのでどきりとした。じっくり見たことで、いかにも新品です、ということがわかったからだろうか。しかし、『自分がつけているところを見たことがなかったから』という理由だったら良かった、なんて思ってしまったために。
「え、う、うん……先週、買ったばっかりで……でも今日、学校でうっかり」
 情けない事態であったのでちょっと言い淀んでしまったのだが、リゲルは可笑しそうに笑ってくれた。
「お前は不器用だからなぁ。それで引っかけたんだろう」
「そんなこと……」
 図星であった。確かにネックレスのチェーンを切ってしまう理由なんて、『引っかける』が一番多いパターンだろうが。だから言い訳なんてできやしなかった。ライラはもにょもにょと言うことになる。
「確かに、引き出しに引っかかっちゃったんだけど……」
「ほらな。学校じゃあちこち動くから向いてないだろ。せっかく綺麗なんだから休みの日用にしたらいいんじゃないか」
 言われてもう一度どきりとしてしまった。気に入って買ったものを、綺麗だと言ってもらえたので。本当はつけているところを褒めてほしかったのだけど、これだってとても嬉しい。
「そ、そうする」
 なんだか嬉し恥ずかしでちょっとどもってしまったライラを、どう思ったのやら。リゲルはもう一度にかっと笑って、「じゃ、直ったら持ってくるな」と言って帰ってしまった。
 元々のリゲルのやってきてくれた用事、お土産のオリーブの花付きの枝。元気なうちに生けようと花瓶を取りに向かいながら、やっぱり胸がくすぐられているような思いだった。
 自分の気に入ったネックレス。
 今、彼のもとにある。おまけに、彼の手で直してもらえる。
 そう思うとそれだけでなにやらくすぐったいような、恥ずかしいような。
 でも、それは嫌な感情でないどころか、照れ臭くも嬉しくてならないものだった。

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