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「実は折り入ってサシャちゃんにお願いがあるんだよ」
 翌日。深夜。以前と同じ店を選んだ。個室で食事もできて、ひとに聞かれたくない話もできるので。シャイとずいぶん近くで話すことになるのでちょっと緊張はするものの、心地良い店だ。
「なぁに?」
 そしてこれも以前と同じ。仕事上がりのサシャは軽く夕食を食べて、既にその空いた皿は下げられて代わりにココアのカップが置かれていた。ホイップクリームが控えめに乗せられていて、甘いココア。
「実は……その、俺のことは『シャイ』として扱ってくれ、なんて言ったくせにとか思われそうなんだけど」
 シャイは大変言いにくそうで、黒髪に手をやった。だいぶ言い淀んだけれど、口を開く。サシャはそれを聞いて驚愕してしまった。
「今度のクリスマスにある、ミルヒシュトラーセ王家のパーティー。俺のパートナーのふりをして参加してほしいんだ」
 ココアについてきていたクッキーをかじりかけたまま、サシャは固まってしまう。言われたことの意味が理解できなかった。
 クリスマス?
 パーティー?
 そしてパートナー?
 パートナーってなに?
 まさか、恋、人とか。そういう。
 なにもかもがサシャの過ごす世界には無いものすぎて、理解が追い付かない。クッキーを口に含んだままぽかんとしてしまったサシャを見て、シャイは苦笑いする。
「急に言われてもって感じだよな……あと二週間もないし。でもちょっとパートナーを用意しないとまずい事態になっちまったというか……」
 重ねて「頼むよ。お礼はするからさ」と言われる。
「えっと、その、なにをすれば……」
「ああ、ごめん。まずはそこからだよな」
 信じられずにいたサシャに、シャイはひとつずつ説明してくれた。

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