第二話
ノアと約束の日。
デートの話を聞いたコリンもついてこようとしたが──彼は生憎、先日の試験に落ちたせいで、今日は補習だった。
私服を着て、待ち合わせ場所の噴水広場を目指す。
学校近くにある街は、学生が賑わう立地なだけあり、高価なお店は多くない。相手の金銭感覚が分からないけれど、男の子は買い物があまり得意ではないらしい──頭を悩ませた結果、良いレストランで三食奢れるだけのお金を持ってきた。
これなら、ノアが何を買おうとしても大丈夫だろう。
レンガ調の街を闊歩しているうちに、白い噴水が見えてきた──待ち合わせスポットのそこは、誰かを待っているような人で溢れている。正午の鐘が鳴り、噴水の水がいっそう高く舞い上がった。
待ち合わせ時間ぴったり。わたしは噴水の周りにいる人たちの中からノアの姿を探す。
キョロキョロしながら歩き回るが、一向にノアの姿が見えない──
「だから、お金は持ち合わせてないってば」
どこからかノアの声がした。声のする方へ歩を進め、広場から外れた小道を覗く。
二人組の男たちに、ノアが囲まれていた──見た感じ、まだ十代。男っていうより、少年と言う方がしっくりくる二人組だった。
「ノア!?」
わたしの呼びかけにノアが振り返る──一瞬ほっとした表情をしたが、すぐに険しくなった。
「アンちゃん、ごめん。ちょっと待ってて」
ノアの静止を聞かず、わたしはズカズカと三人に詰め寄る。
ノアに絡んでいた二人は、わたしを舐めるようにジロジロと全身を見てきた。
「何? こいつの彼女? こいつがぶつかってきたのに、謝ってくんねーんだけど、代わりにアンタが謝ってくれんの?」
「女なら、金じゃなくてもいーぜ」
ギャハハ、と下品に笑う二人。
おおかた、偶然ぶつかったノアにいちゃもんをつけて、金を巻き上げようとしているんだろう。
「アンちゃんは関係ないだろ!」
ノアがわたしを庇うように、一歩前に出た──中性的な見た目とは裏腹に、かっこいいことをしてくれるじゃない。
──でもね、ノア。
子どもを守るのは、大人の役目なのよ。
「あんたたち、ダサいことしてんのね。カッコ悪いわ」
「あぁ!?」
この年代の男の子って、「ダサい」とか「カッコ悪い」って言葉が、本当に嫌いよね。
使用人にも、幼い頃はそうやって親と言い合いしていた子がいたし、とわたしはしみじみ幼かったコリンの兄、カリンを思い出す。
「テメェ、言わせておけば……!」
額に青筋を浮かべた少年たちが、わたしに掴み掛かろうとしてきた。
「【スコール】」
風属性魔法【スコール】。彼らに向かって突風が吹き荒れ──二人は抵抗する術もなく吹き飛ばされた。
「うわあああああ!!」
鈍い音がして、少年たちが動かなくなる。レンガの地面に頭をぶつけた彼らは目を回していた。
「行きましょう、ノア」
「う、うん……」
ノアの手を引いて、わたしたちはその場を後にした。