ー フュルギアの囁き(2) ー
朝の軽い鍛錬を終え、湯あみをし、朝食を済ませる。
残念ながら今朝の朝食は家族が揃わなかった。
アルヴィスお義兄様は軍務で夜明け前に出立したらしいし、フォルセティお義母様も今日は王妃様の警護日だからご朝食に誘われているって先に出てしまったし、テュールお父様は徹夜だったらしくまだお休みでいらっしゃる…。
「もうっ、こんなことなら紙にでも書き留めておくんだったわ…」
今朝の夢については、ほとんど忘れてしまった。
ただ、ヘスティアが夢枕に立ったという事実と、自分がなぜか死にかけだったということと、あとは…その、…見知らぬ男性と、キスをして終わるということだけ。
————うん。夢の最後は忘れたということにしておきましょう。
お義母様はともかく、お父様とお義兄様は放っといてくれなさそうだし。特に、お義兄様は危ないわ。知らない内に
アルヴィスお義兄様は、元々は従兄だった方。我が家の跡継ぎとして養子に入ってくださった魔王様のお子だ。そう、元王子様なのである。その元王子様は何故だか私のことがいたくお気に入りのようで、大変溺愛してくださる…。もう少し、いえ、だいぶ自重していただきたいのだけれど。ちなみに、お父様は魔王様の兄。王兄閣下というお立場なのだけれど、こちらもこちらで…。
「はっ、今はそんなことを考えている場合ではないわ」
「私が死にかけるくらいだもの。なにか兆候がないか探りましょう」
さて。となれば、向かうは図書室。
我が家は各軍そろい踏みということもあり、蔵書が素晴らしいのだ。
ちょうど午後からエイル隊のお手伝いもあるし、薬草について少し復習もしよう。
「あら?」
図書室に入ると、ヘスティアがすぅっと通り過ぎる。
彼女が図書室にいるのは珍しい。そもそも人の出入りが少ない場所なので、フュルギアの幸運がなくても、図書室は安泰だ。
トサ、トサ、と目の前の机に本が積まれる。
「これを読め、ということね?」
ヘスティアは、いつも通りニコリと微笑むだけだ。
「歴史書?…いえ、伝記かしら。こっちは、世界情勢に種族の成り立ち」
なんだか、今更読む必要がないようなもののような…。
しかし、我が家のフュルギアは有能。
しかも、今朝は夢枕に立ったばかり。
よし。と心に決めて、まずは種族の成り立ちから復習することにする。
ぱた、と表紙を開き、ぱらぱらとページをめくる。
これは、ほとんどが神話だ。
この世界エンテレケイアは、
けれど今は、あともう二つの種族が存在する。
「妖魔族〔ファフニール〕と、獣人族〔キメラ〕…」
すり…と、指で目次をなぞる。
私、ノルン・アウストリは、
もちろん、家族もみんな
でも私はちょっとした秘密を抱えていたりする。
私の生みの母は、
つまりは
私は…【