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第11話(2)決戦、幕開け

                  ♢

 カダヒ城の南門付近で、多数の魔族の兵士が二人の女を包囲する。魔族は真剣な顔つきの者も居れば、下卑た笑みを浮かべている者もいる。

「ふっへっへ……良い女どもじゃねえか……こいつらを好きにしていいのか?」

「まずは捕えることを考えろ、無理なようならば始末しろとのご命令だ」

「つまり……好きにして良いってことだよな!」

 一人の兵士が包囲の輪から飛び出し、二人の女の内の一人、スティラに向かい飛び掛かる。

「ま、待て! 勝手なことをするな!」

「辛抱たまらん! エルフの女! 俺の慰み者に―――」

「なっ⁉」

 銃声とともに、鼻息荒い魔族は側頭部を撃ち抜かれ、即死した。二人の女のもう一人、メラヌは銃口から出る煙をフッと吹いて笑う。

「生憎だけど、わざわざお花を売りにきたんじゃないの―――喧嘩を売りに来たのよ‼」

「⁉」

 メラヌが両手に拳銃を構え、叫んだと同時に発射する。二人を囲んでいた兵士たちは銃弾の雨霰を受けるかたちとなり、パニック状態に陥る。魔族の主力部隊の一員なれど、このメニークランズではまだそれほど流通していない未知の武器による攻撃である。混乱するのも無理はない。先程から真剣な顔を崩さない一人の兵士が冷静さを保ちつつ、指示を飛ばす。

「各自、障壁魔法を展開しろ! 銃弾はまっすぐにしか飛ばん!」

 冷静なリーダー格と思われる兵士の指示で落ち着きを取り戻した兵士たちは透明な紫色をした四角い楯状のものを次々と発生させる。銃弾はその透明な盾を貫くことが出来ず、地面にポトポトと落ちる。リーダーはそれを確認し、満足気に頷く。メラヌは銃撃を止める。

「……」

「どうだ! これ以上は撃っても無駄弾だぞ、それとも弾切れまで続けるか?」

「ふ~ん……」

 メラヌが再び銃に弾を込め、両腕の二丁拳銃を構える。リーダーが指示する。

「引き続き、障壁を展開し、包囲網を狭めろ! 弾切れのタイミングで拘束魔法発動だ!」

「了解―――⁉」

「なっ―――⁉」

 兵士たちが銃弾を受けて倒れていく。リーダーは信じられないといった表情を見せる。

「ど、どういうことだ⁉」

 ぐるりと一回りしながら、包囲していた兵士をあらかた片付けたメラヌはリーダーに向かってウィンクして、こう告げる。

「銃弾に『回避』、そして『貫通』魔法の効果をそれぞれ付与したわ。つまり、その程度の障壁はいくら張っても無駄よ」

「なっ……」

「『貫通』効果付きの銃弾は一発で三、四人は斃せる……銃弾の良い節約になったわ」

「くっ、皆飛べ!」

 残っていた兵士たちは翼を広げ、各々上空に舞う。メラヌはそれを見て呟く。

「ふ~ん……射程距離外に出るということ……」

「よし! 距離を取ったら魔法で一斉攻撃だ!」

「スティラちゃん、よく見ていなさい! 『切り裂きの烈風』!」

「ぐわっ⁉」

 メラヌが放った強風が兵士たちを鋭く切り裂いた。翼をもがれた兵士たちは落下する。

「大体片付いたかしらね……あら?」

 メラヌとスティラの前に一人の魔族の女が現れる。

「エルフの女……ガダーの仇、取らせてもらう……」

「あ、貴女は⁉」

「私は魔王ザシン様に仕える四傑が一人、エーディ様の扶翼、ラサラだ。これ以上の余計な言葉は不要……『凍てつく吹雪』!」

 ラサラと名乗った女が激しい吹雪を放つ。

「『地獄の業火』……」

「な、なに⁉」

 ラサラは驚く。スティラの放った火が吹雪を燃やし尽くしたのだ。

「『裁きの雷』……」

 スティラは間髪入れず、雷を放つ。ラサラはすんでのところで躱す。

「くっ! 威力も速さも話に聞いていたより桁が違う⁉」

「『切り裂きの烈風』……」

「⁉ ぐっ……ば、馬鹿な……雷と火しか使えないはずでは……」

 スティラの放った強風によって、体を切り裂かれたラサラはその場に崩れ落ちる。

「……ふう」

 スティラは安堵のため息をつく。

(スビナエちゃんの言っていた力みが取れて、攻撃魔法を回復魔法と同様に扱える様になってきたわね……ほぼ無詠唱に近いから回避のタイミングがとりづらいし、何よりもあの威力……まったく、末恐ろしい魔法センスね)

 メラヌは内心舌を巻く。

                  ♢

 一方、カダヒ城の西門付近では、巨人の兵たちに、二人の女が襲撃されていた。

「随分と統率の取れた動きを取るじゃない! 厄介ね!」

 アリンが舌打ちする。

「……来なさい、ビッグジャックフロストちゃん!」

 ルドンナが大きめの雪だるまのような姿の妖精を召喚する。召喚された妖精は口から氷の息吹を辺り一面に吹きかける。息吹が当たった地面はあっという間に凍り付く。

「ぬおっ!」

 凍った地面に足を滑らせ、何人かの巨人たちは思い切り頭を打ち付け、動かなくなる。

「これで少しは大人しくなるでしょ!」

「初っ端からデカいの召喚したわね! それで保つの?」

「出し惜しみして勝てるような相手じゃないでしょ?」

「確かに!」

 ルドンナの言葉にアリンが笑う。

「アリン!」

「⁉ ア、アンタ、生きていたの⁉」

 声のした方に目をやってアリンは驚く。魔族のトレイルが立っていたからである。

「黙れ! 裏切り者め! 僕が粛清してやる!」

「そもそも仲間になった覚えが無いのよ! 私はザシンの復活には反対だった!」

「ザシン『様』だ! 愚か者!」

 トレイルが剣を構える。その傍らに立つ巨人がトレイルを宥める。

「ト、トレイル殿! 今、貴殿は我らの部隊に暫定的に所属する身! 勝手は困る!」

「煩い! 奴は僕が始末する!」

 トレイルがアリンに向かって斬り掛かる。翼を使っての器用な低空飛行で、凍った地面をものともせず、アリンに接近する。アリンは右手をかざす。

「ちぃっ!」

「無駄だ!」

「なっ⁉ 硬い糸を斬った⁉」

「貴様のやり口は分かっている! 近づけばそれで終いだ!」

「……そうね、お終いね」

 アリンが不敵に笑う。トレイルが異変に気付いたが遅かった。

「何⁉ しまった、誘われたのか―――⁉」

「拳糸(けんし)!」

「ぐはっ⁉」

 硬い糸を左手にぐるぐると巻き付けたアリンが拳を振るう。腹部に強烈な一撃を喰らったトレイルは派手に吹っ飛び、近くの崖から落下した。アリンは内心苦笑する。

(魔族は己の強大な力を過信しがちな傾向がある……自分が反面教師になるとはね)

                  ♢

 さらに一方、カダヒ城の北門付近では、群がるリザードマンの兵士たちを、二人の女が散々に蹴散らしていた。兵士が戸惑う。

「くっ、な、なんだこいつら、強いぞ⁉」

「君らが弱すぎ! ボクたちの相手じゃないよ!」

「アパネ! 油断するな!」

「はいはい!」

「はいは一回だ!」

 軽口を叩くアパネをスビナエが嗜める。兵士が後方に声を掛ける。

「お、おのれ! せ、先生! お願いします!」

「……ったく、しょうがねえなあ!」

「⁉」

「ほう、躱したか、やるねえ!」

 白い上下の服に身を包んだ金髪の大柄な男が後方から高く飛び、強烈なかかと落としを繰り出すが、スビナエはこれを躱しながら男を睨む。

「情報通り北門にいたか、心遣い感謝するぞ……メラヌ」

「え、なんか、すげー睨まれてんすけど、俺、何かやった?」

「忘れたとは言わせんぞ!」

「悪いな、心当たりが多すぎてね」

「スビナエの正拳突きがあっさり躱された⁉ ボクも苦労したのに……」

 アパネが驚く。スビナエは蹴りを繰り出す。

「ならば、思い出させてやる、ドップ!」

「へえ、俺の名前を知っているとは……それなりの因縁があるってことかな?」

 スビナエの鋭い蹴りだったが、ドップと呼ばれた男はこれも躱す。

「男子禁制の我が島を土足で踏み荒らし、財宝も盗みおって!」

「ああ! あの島のお姉さんか、やっと思い出したぜ」

「財宝を返せ!」

「嫌だね、あれは俺の大事な思い出の一つだ、大体今ここには無いしな」

「ならば、場所を吐かせるまで! 『ダブル』!」

「でっかくなった⁉」
 
 スビナエの体が倍ほどの大きさになった為、アパネは驚く。

「喰らえ! 『真・正拳突き』!」

「がはっ!」

 スビナエの拳がドップの鳩尾を打つ。ドップは体を折り曲げ苦悶の表情を浮かべる。

「とどめだ! ⁉」

 スビナエの追撃をドップは高く飛んで躱し、城門に着地して、笑顔で語る。

「こりゃ分が悪いわ、俺はここらで退散するぜ、後よろしく~」

「なっ⁉ せ、先生⁉」

 ドップは姿を消す。残された兵士たちは困惑する。スビナエは内心闘志を燃やす。

(ドップめ……次こそは仕留める……)
               

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