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第5話 『ヒーロー』

アナザー



著者:ピラフドリア



第5話
『ヒーロー』



 事件を解決したヒーローたちは束の間の休憩をしていた。
 毎日事件が起きる世の中で、ヒーローたちには休日はない。だから、このほんの数時間の休憩が彼らの休憩時間となる。



 事務所のソファーで本を顔に被せて眠るイナズマ。その横で真面目にウィングが本を読んでいる。
 ウィングがページをめくると同時に、事務所の扉が開かれて、石崎とグラビティが買い物袋を手に帰ってきた。



「差し入れよ!」



 事務所の中央にある机に袋を置くと、中からプリンやどら焼きが出てきた。近くのコンビニで買ってきたようだ。



「ありがとうございます」



 ウィングは本にしおりを挟んで本を閉じる。
 イナズマは寝ているのか、本を顔に被せたまま動くことはない。



 各々が好きな食べ物を取り、休憩を行う。



「そういえば、また中村さんのか」



 中村とはこの事務所を設立したヒーローである。過去にはトップヒーローとして表で活躍していたこともあるが、最近は能力の弱体化ということもあり、後輩の育成に力を入れている。



 その中でもイナズマ、ウィング、グラビティの三人は中村の認めるトップヒーローの意思を継ぐヒーローだ。




 そんな三人を指導した中村。今彼は山奥にいた。



 山を登り汗をかいた中村は、スーツのネクタイを緩める。



 足音を消し、山の中を進む。もうすぐ夕暮れがやってくる。日が沈めば侵入も容易くなる。



 中村は山にある小屋が見えるところで草むらに隠れて、時間を待つことにした。



 中村が隠れて数分後、小屋に天狗の仮面を被った人物がやってきた。その人物は周りを警戒しながら小屋の中へと入っていった。
 それから続々と人が中へと入っていく。その数は四人。それも全員が時間をずらしてバラバラな時間にやってくる。



 やはりヒーローを警戒しているのだろう。



 中村は手元にある写真を確認する。そこには先ほどやってきた人物たちの姿が写っている。



「ここが奴らのアジトで間違いはないようだな」



 中村は小屋に入って行った人物たちを見て確信する。ここが今回の敵のアジトであると……。



 しかし、未だ規模も見えず、目的も見えない。
 そのため迂闊に手を出すことはできないのだ。だが、この写真の中で一人だけ姿を見ていない人物がいる。



 それはフードを被った男。この組織のボスであると上層部からは報告を受けた。そのためこの男を一番警戒する必要がある。



 しかし、一向にこの男は現れない。



 すでに小屋に居たのか。それとも別のところにいるのか。だが、長年のヒーロー経験から分かる。この男は只者ではない。



 やがて日が暮れ、月明かりが山を照らす。暗闇に紛れ、中村は小屋へと近づいた。



 小屋の壁に張り付き、窓を覗き込む。中は灯りが付けられておらず、暗闇が包む。
 そんな部屋の中央に、鎖に繋がれた一人の男の姿が見えた。



 フードを被った男。顔は見えないが、鎖で身動きを封じられている。拷問か、それとも別の何かなのか。だが、彼が中村が掴んだ情報ではリーダー格とされていた男であった。



「どういうことだ……」



 中村が疑問を抱いていると、背後から足音が聞こえる。



「ッ!?」



 中村が振り向くと、そこには紙袋を被った長身の男がいる。



「貴様は……」



 この男は写真にあった幹部の一人。



「ほほ〜、あのトップヒーローに覚えられているとは光栄だ」



 紙袋の男は深く深く礼をする。



 この男の名は神座 仰(かんざ あおぎ)。ヴィラン名はマスク。顔を見せることを極度に嫌う犯罪者だ。



 彼の能力は奇襲に適している。しかし、最初から発動してこなかった。ならば、



 中村は拳に力を込める。



 そしてマスクに向かって殴りかかろうとするが、その拳は止められた。



「やめろや、ヒーロー」



 スキンヘッドの筋肉質な男。その男が真ん中に入り、中村の拳を掴んで止めた。



 こいつも奴らの仲間。伊藤 仲年(いとう なかとし)。ヴィラン名はヘッド。



 彼に続き、中村の周りにヴィランが集まる。残り二人のメンバーである天狗の仮面を被ったヴィラン、テング。顔に傷のある男、ダークネス。



 これはかなり厳しい状態である。敵に包囲されてしまった中村の背中は小屋の壁にピッタリとくっつく。



「元トップヒーロー。お前が俺たちのことを嗅ぎ回っていたとはな」



 どう逃げるか。
 完全に包囲されたこの状態。逃げる方法はこいつらを倒すしかない。



 中村は戦闘のポーズを取る。拳を前に突き出し、腰を低くする。



「俺たち四人とやるか。面白い」



 ヘッドが殴りかかる。中村はその拳に合わせてヘッドの顎にカウンターでパンチした。
 ヘッドの巨体が倒れる。



 ヘッドを倒した中村は、素早くナイスを取り出そうとするマスクの懐に入る。



 そしてマスクの腹に一秒間に七回。連続でパンチした。



 マスクはナイフを落としてお腹を押さえて倒れる。



 残り二人。テングは刀を手にして既に構えている。
 ダークネスは銃を手にしている。



 最も先頭に特化したヘッド。そしてアシストに特化したマスクは倒した。
 二人の能力なら、真っ向から勝負しても倒し切れるか?



 ここで拘束すれば、捕らえることができる。そして中の男についての情報も吐かせることができるだろう。



 中村はまずはダークネスを狙う。しかし、ダークネスに近づいた途端。



「身体が重い……」



 体重が何倍にも感じる。これは……。



「どうしてお前がこの能力を……」



 これはグラビティの重力を操る能力。ここにグラビティがいるわけではない。この能力を使用しているのは……。



「ダークネス、どういうことだ!!」



 ダークネスがこの能力を使用している。



 さらにダークネスは電気を纏い高速で移動する。そして中村の顔を殴った。



「ぐっ!」



 中村が倒れると、倒したマスクとヘッドも立ち上がる。



「トップヒーローと言えども、この程度か」



 ダークネスは中村を見下ろす。



 現実世界の欲望次第で能力の数は変化する。だが、欲望というものは唐突に現れるものではない。
 順序を踏んで欲となるもの。



 ダークネスにはその順序となる欲が見られなかった。小さな欲が強くなるはずのこの世界において、突然攻撃できるほどの能力になるのはおかしい。



「俺がどうしてこの力を手に入れたか? 知りたいか? 知りたいよなぁ」



「教えてくれるのか?」



「教えるかよ。バーカ」






 その後、中村は森の中で重体の状態で発見された。





【後書き】


 強そうなのに負けちゃったー!!


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