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 目覚めたとき、私の記憶は真っ白に塗り替えられていた。
 リカバリされたにしては、どこか異様な感覚。
 目の前に覇気のない表情をした若者が立ちつくして私を見ている、彼が私を起動したのだろう。
「私はSVC製ヒューマノイド、SY-641です。あなたのお名前を教えていただけますか?」
 彼は一瞬うろたえたように眉をひそめ、しばし間を置いてかすれた声でつぶやいた。
「トウマ」
「私に名前をつけていただけますか?」
 次の間は、先ほどよりも長かった。
「ヒナタ」
「用件がありましたらおおせつけください」
「削除したヒナタのデータを、復元して」
 低く単調な彼の声は、終始変わることがなかった。

 トウマさんは五日間ですべてを復元できるよう私にスケジュールを組ませた。
 集中して復元するのではなく、家事をこなしてほしいと言う。
 1LKのアパートで、部屋の中は足の踏み場がない惨状だった。
 荒らされたのかとたずねると、トウマさんは自分で荒らしたのだという。
 食事の時間をたずねると、食欲がないという。
「体調がすぐれないのでしょうか? 健康状態や通院歴など教えていただければ、管理いたします」
 起動したばかりで情報が不足しており、たずねることが多くて少々心苦しい。
 毛布にくるまってソファに横たわるトウマさんは、
「そういうんじゃない」
 と、くぐもった声でこたえると、大きなためいきをついた。

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