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 ビジネスホテルの一室で禅一とのビデオ通話を終えると、通話中に氷彩から着信が入っていた。通じなかった為に「珠雨、浅見とはどーお?」という文字だけ残されている。

 報告しないといけないのだろうか。
 キスはされたし、それ以上のことも、まあしたと言えばしたのだが、最後まではしていない。
 何故しない。
 もやもやする。一ヶ月留守にする前の晩、最後のお願いをしてみた。


「禅一さん、ほんと明日には俺出掛けちゃうんですよ? 普通、とりあえず最後までしとこうとか考えません? これがそういう漫画だったら、とっくにガチエロな展開ですよ」
「珠雨そういうの読むの……? 最近の子ってそうなの?」
「え、普通にアプリで……。駄目でした?」
「あ、そう……」

「禅一さんはエロシーン書いたりしないんですか?」
「僕は官能小説を書いているわけじゃないので。あのね、書かないエロスってのもあるんだよ。行間を読めと、そういうこと」
「えー……わかんない。……いや、エロ談義じゃなかった。どうして最後までしないのかって話」

 本来の筋から逸れていたことに気づき、珠雨は軌道修正する。なんでどうでもいいことを話しているのだろう。
「僕には僕のペースがあって。もう少ししたらかなって」
「なんで!」
 禅一は少し考えるように黙った。

「……それ言わせないで。今試し運転中なんだよ。珠雨が慣れるまでの」
「試しって……それ、俺が……」
「うん、だからもう少し待ってなよ。でも一ヶ月も離れてたらまたリセットされちゃうかも……うーん」

 困ったように中空を睨んで考えている禅一は、真っ赤になっている珠雨に気づき楽しそうに笑った。

「今日も途中まで、しよっか? あとはとんとんして寝かせてあげよう」
「……禅一さんて、ほんと……草食系なんだか、なんなんだかよくわからないけど、俺で遊んでません?」

 珠雨が誰ともそういう意味で付き合ったことがない、と前に言ったことがある。それは勿論肉体的にも誰も知らないということだ。禅一はそれを鑑み、のんびりと珠雨を慣らしている。とても31歳の男とは思えないのんびりさだった。氷彩が禅一を丁寧と評したがこのことか。

「珠雨が帰ってくるのを待ってるから、ちゃんと身の回りには気をつけて行動するんだよ。高遠さんだって男だし、他にも狙ってくる輩がいるかもしれないからね」
「烈さんはそんなことしないし! そんな心配なら、もう奪っとけばいいじゃないですか」
「そういうのは奪うものではないからさ」
 静かに言って、禅一は電子タバコを口にくわえた。

 禅一は、意地悪だ。
 意地悪だが、大切にしてくれているのがわかってきゅんと来た。
 しかしもし帰ってきてものらりくらりとこの調子だったら、珠雨にも考えがある。それを言ったら禅一は眉をハの字にして、やがて笑った。

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