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エッザールから受け取った鍵を使って、小部屋のドアを開けた。

「フィンか、なんの用だよ」

与えられた食事には一切手をつけず、パチャは部屋の隅に膝を抱えて座っていた。わずかな月明かりに瞳が反射して鋭く輝いている。

「はあ、パチャがあんなに強かったなんて……俺もっと強くなんなきゃな」

「え、それだけ言いにきたのか?」パチャの面食らった顔が暗がりにうっすら見えた。

「エッザールから聞いた。あれがパチャが得意とする技なんだってね」

そう、姿勢を低くして相手の懐に飛び込み、まず足元から、そして手首を斬ったのち、脇と首に一撃を食らわす。ある意味スピードに特化したパチャならではの技なんだ。

「ああ、兄貴が両利きのあたしのために編み出してくれたんだ。太鼓叩くみたいにね……足元斬ってまず動きを封じてから……ってお前、血が!」

俺がパチャにまず一撃食らった右足のつま先。爪が割れちゃってて、無理してずっと歩いてたから腫れあがって血が流れてた。

パチャひ大急ぎで着ていた上着の袖を裂き、包帯代わりに巻いてくれた。

「悪い……痛かったろ」

「大丈夫、こんなの大したことな……いてて」

そこにはいつもの優しいパチャがそこにはいた。



「心配してここにきた……訳じゃなさそうだな」

そう、まずパチャの部屋に俺は行った。なにかあると思って。

「これ、作ってくれたんだろ」

この前パチャが話してくれてた、俺専用の革鎧。

どうやって採寸したのか分からないくらい俺の身体にはぴったり。まるで服みたいだ。

「お前、まさかそれを見せに!?」

俺はもちろんそうだよって。だから……



「パチャ、暖かくなったら俺たちと旅に出ようぜ」

俺が鍵を借りた時、裏で家族会議しているのを聞いたんだ。

パチャをここから追放処分にするって。

確かにここの家族にとっては都合のいい理由になったと思う。だけどそれだけじゃなかったんだ。

「本当はこれ、弟にプレゼントする予定だったんだよね」

エッザールから聞いたんだ。末っ子……つまりマースネスのさらに弟がいたってことを。

パチャは二人ともかわいがってた……けど不慮の事故で末っ子のエスネスは死んでしまった。

理由は聞かなかったけど、それ以来パチャの心は荒んでしまったって。

この革鎧は、本当はエスネスの旅立ちのために仕立てたものなんだ。

「お前と体格がほぼ一緒だったのを思い出したんだ」



パチャは少しずつ語っていった。

俺とエスネスの姿がだぶっていたこと、そして自分のやるせない思いを剣にぶつけてしまったことを。

「あたしは剣士失格だね……よりによってイライラした気持ちをお前にぶつけちゃったんだし」

「気にすんなよ、これは俺の油断なんだって。パチャに以前勝ったから慢心してたんだ」



はあ。とパチャの白いため息が舞った。

「優しいんだな……フィンは」

「別にそれほど優しくはないよ。一応は結婚した間柄なんだしね、心配するのは当然。だから……」



エッザールも同意してくれた。

三人……いや、アスティさんがいれば四人。今からでも構わない。暖かくなってからでも無論。



行こう、どこか知らない場所へと。

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