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19話

料理を作る楽しみが増えたところで、夕飯の準備をしようと冷蔵庫を開ける。
昼のご飯と味噌汁が残っているが、おかずは何にしようと物色する。
その時気が付いた。

「あ、もう卵少ないや」

まぁ、当然と言えばだ。食材を買い込んできたのは3日前。卵もその時だ。
その日から、卵は良く使った。揚げ物に炒飯、卵焼き。クッキーやケーキ。
この3日間、1番使ったんじゃ無いだろうか。
卵もそうだが、冷凍保存に向かない物があるから、買い物も定期的に行く必要がある。
卵は特に、頻繁にお菓子を作るなら必須だ。

「あ、そうだった。みんなとおやつ食べるなら、数足りないのあるからそれも買っとかないと」

とすれば、あのショッピングモールへ行った方が揃えられるだろうか。
予想以上に手が空く時間が多いので、娯楽もなにか探してきたいところだ。
明日は買い物に時間を割きそうだ。

「っと、ご飯ご飯」

冷蔵庫は締めて、冷凍庫を改めて開ける。下処理の終わっている野菜と肉を解凍し、野菜炒めにした。
桃わ食べやすいサイズにしてデザートにつける。


食べ終えて、片付ける前に朝の準備をする。
今朝と同じくフレンチトースト。けれど、今度はコーヒーの粉(お菓子用のインスタント)を混ぜてカフェオレ風にアレンジする。丁度食パンを使い終わった。
片付け終えたらあとは寝る準備をして。
朝干した洗濯物も乾いていたので、クローゼットへ仕舞った。


翌朝、カフェオレ風のフレンチトーストと100%のオレンジジュースを味わってから。
水やりをした畑の様子はやはり、通常より成長が早い。明日には収穫出来そうな物もいくつか見えた。

「クッキー、毎日ごめんね」

丹念にブラッシングをして、今日は馬車形態で街へと向かう。
一昨日出迎えてくれたリックは、今日はいないのか出て来ない。
出入りを自由にさせてもらえるのは有り難いと思いながら、セントラルへ行ける扉を開ける。もう勝手知ったる状態だ。

3度目の(1人で歩くのは2度目)の道を、ショッピングモールへ向かって進んで行く。
何も見ずに難なく進めているのは、恐らく前の仕事の賜物か。怪我の功名と言った方が良いだろうか。

ショッピングモール到着後、向かったのは製菓店。材料店と道具店と別れているので、道具店を目指す。

「わー、やっぱり食品店とは品揃えが違う」

一昨日、帰りに寄った食品店もそれなりに商品があったが、やはり専門店となると種類が違う。
ケーキ型1つとっても様々な形や大きさがある。

「に、2種類ずつくらいあってもいいよね…?」

目的ではないもにツイ手を出してしまったが、悩むより良いだろう。
そう1人で納得して、目移りしないように(既にしてるとか気にしない)目的の場所へ進む。
目的は2つ。プリン型と焼き菓子の型。
プリン型は少し小さめの物を妖精の数より2つ多く。もし万が一増えた時に足らなくならないようにだ。
焼き菓子はプレートタイプのマドレーヌ(一般的な貝の形)やフィナンシェ、マフィン型。6個ずつ焼けるのなら3つずつあれば充分。10人超えの大家族だ。間違ってはいない。

「あ、カワイイ。肉球型とかある」

他にも花やウサギ等の動物の型の、マドレーヌ型が数種類。
既に貝の形の物を手に取っているとか関係ない。流石に全部3つずつは多いので、気に入った肉球、花(3つの形になるタイプ)、ドーナツ型を1つずつ選んだ。

結局予定より買った数が多くなったが気にしない。気にならない。


娯楽に関しては、本を数冊。異世界について書かれた本があったので気になって買ってみた。
物語にはなっているが、実は手記に近いらしい。
作者は1人。能力持ちで、聞き取った話を物語に変換して出版しているのだとかか、作者紹介ページに記されていた。
シリーズ化されているので、気に入ったら全部読んでみようと思う。

そして気が付いた。この世界には、音楽やゲームが普及していない。
ショッピングモールにそれ関連の店が無い事から推察出来る。
ゲーム機自体は、コーダイさんに依頼すれば作れる気がするが、遊ぶ物が無ければ無意味だろう。こちらは期待できない。

けれど、パズルなんかは出回っている。絵合わせや文字埋め、ブロック系の組み立て。所謂脳トレに近い物が。
時間つぶしに丁度良さそうだと、こちらも数冊見繕った。

食品フロアで、卵やパン等減りの早かった物を買い足せば、予定していた買い物は終わりだ。
ショッピングモールを後にして、北道を戻る。
もうすぐハロルドの家(でいいのかはまだ分からない)にたどり着くという時、声をかけられた。

「あ、おーい嬢ちゃん」
「?あ、コーダイさん」

先日はツナギ姿だったので分からなかったが、私服姿のコーダイさんが手を降っていた。
昼にはまだ早いがもう日も高い。今日は休みなのだろうか。

「丁度良い所で会った。こないだ聞いた家電が出来上がったんだ」
「えっ、もうですか!?」

こないだというと、油を使わないフライヤーと、布団をタカタカ叩いて掃除するアレか。
あれからまだ数日だと言うのに、早すぎる。あれか、能力持ちは皆チートなのか。

「試作品だが殆ど問題ない。案をくれた嬢ちゃんに貰って欲しくて、ハロルドん所行こうとしてたんだ。アイツなら連絡取れると思って」
「いえ、案っていうか日本にはもうあったのですから」

お気になさらず、と辞退しようとしたが、待て待てと止められてしまう。

「俺にとっては知らない商品なのは変わらないし、他の世界のヤツに聞いて作ったもんも、最初はソイツにやる、そう決めてるから」
「そうなんですか?」

自分1人ではないのならと、受け取ることにした。
なんと商品の受け渡しもタブレット1つで出来るというから驚きだ。

「どうやるんですか?」
「ケータイの赤外線みたいに…」
「え、赤外線でどうやって…?」
「え?」

ポカンと固まる二人。
同じ地球の、同じ国から来ているのだが、会話若干噛み合っていない事に、すぐ気が付いた。

「あ、あれ?友達としなかった?アドレス交換に…」
「メールはあまり…無料通話アプリでQRコード読み取りとか」
「うわぁ、時代を感じる」

今現在の姿からなら、そうあって当然かもしれないが、生まれ年で言うならそう大差無い。
それでも会話が通じないのは、もはやジェネレーションギャップと言うやつか。

しかし今は赤外線の機能は関係ない。
アイテムの受け渡し方法を教わって、フライヤーと布団掃除機を頂いた。

「ありがとうございます」
「ないとは思うが、不具合あったらすぐいえな。あと、『こんなのあったら家電』も常時募集だ」
「ふふ、分かりました」

ついでに連絡先も頂いた。
手を上げて去っていくコーダイさんを見送って、再び歩き始めた。

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