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20話

フライヤーも頂いた事だし、今日の夕飯は揚げ物にでもしようかなと考えていたら、ハロルドの家に辿り着いた。
南の国行きの扉を通って、外に出ようとドアノブに手を伸ばした瞬間、扉が開き宙をかいた。

「おかえり、ココロ」
「あ、ハロルド」

扉の外にいたのは、ハロルド。驚いた顔をしているココロを見て、どこか可笑しそうだ。

「え、あれ?帰ってくるの分かったの?」
「いや、それは偶然。リックからココロが通ったって聞いてたから、帰り待とうと思って」
「あ、何か用事だった?」
「そう。もしココロの手が空いてるなら、乗馬教えようと思って」
「わ、ありがたい!」

昨日は急遽クッキーに乗る事になったので、(おそらく)馬車を変形させた輿のような物に乗ったが、直接乗れるに越した事はない。
けれど

「じゃ、近くに乗馬出来る所あるから…」
「あーハロルド…」
「うん?」
「流石にこれじゃ出来ないかな」

こうなると知っていれば、ワンピースは着てこなかった。
流石にワンピースで乗馬は出来ないと訴えると、一先ず納得してくれた。
乗馬服を借りる事も出来るというが、出来れば1度帰りたいと、理由を話す。

「実は妖精達と、プリン作る約束してて。それが終われば、もうすること無いから」
「なるほど。じゃあ、ココロの所で練習しようか。走るわけじゃないから、広くなくていいし」
「うん、それなら問題ないよ」

と言う事で話は纏まり、一緒に行く事になった。
ハロルドは自分の馬に乗ってきたので、ココロの馬車をクッキーと一緒にひいてもらうことにする。

「あ、さっきコーダイさんに会ったよ」
「コーダイさんに?」
「うん。それで、この間話した家電が出来たから、試作品を貰ってほしいって」
「そう言えばそんな話してたっけ」

油を使わないフライヤーの話を、興味深そうに話を聞いてきた。
揚げ物が好きだけど、自分では上手く揚げられないから、販売されたら買おうかな、なんて話をしていると、家に辿り着いた。
家まではまだ少し歩く必要があるが、自由に使える広い土地。正直なんて呼べは一番良いのか分からないので、わかりやすく家と呼ぶ事にする。

馬車は鞍に収めて、ハロルドの馬と共に中へ入る。
クッキー達には、少しの間のんびり過ごしてもらう事にする。

「じゃあ、準備してくるから少し待ってて」
「うん、じゃあ頂きます」

ハロルドにはお茶を出して、急いで着替えに行く。
戻ってくれば、妖精達はハロルドの周りに集合していた。
妖精の見えないハロルドは、何も知らないままお茶を飲んでいる。
先にプリンを作る事は伝えてあるので、そのままキッチンへ入る。妖精達も集まってきた。

「ココロープリン?」
「うん、今から作るよ」

作ると言っても、予定変更。
最初は蒸し焼きにするプリンを予定していたが、それでは途中戻ってくる必要がある。
なので、そちらはまた今度作る事にして、今回はゼラチンで作るタイプにした。

プリンと言えば、カラメルは欠かせない。
鍋に水と砂糖を入れて煮詰め、色が付いたところでお湯を入れる。

「危ないから離れてー」
「はーい!」

お湯を入れればじゅっと音がしてカラメルが跳ねる。
鍋を揺すってカラメルが完成したら、器に移す。
プリン液は、温めた牛乳でゼラチンを溶かし、タマゴと砂糖を混ぜた液に牛乳を入れて更に混ぜる。
それを濾しながら、カラメルの入った器に入れて、冷蔵庫で冷やす。
作る数が多いので、もう一度カラメルから作って。

「よし、あとは冷えるの待つだけ。ハロルド、お待たせ」
「いえいえ。楽しそうだね」
「あーはは…ハロルドには独り言言ってるように見えるよね」
「まあね。けど、妖精がそこにいるのは知ってるから」

もしこれで知らなければただの変人扱いされるだけだが。
ハロルドが事情を知っていて良かったと思う。

「じゃあ、始めようか」
「はーい。ご指導よろしくお願いします!」

ハロルドの持ってきた、乗馬用のブーツやヘルメット等を身に着け、クッキー達の元へ2人(妖精達も)で向かう。
2頭は、主人達が近づいてきたのに気が付き、顔を上げた。

「クッキー、よろしくね」
「クッキー?」
「あ、うん。名前を欲しがってたから。他に名前あった?」
「あったけど、気に入らなかったのか覚えなかったのか、呼んでも反応しなかったから」
「そうなんだ。じゃあ、付けちゃって良かったんだね」
「気に入ってるなら、尚更」

ハロルドの指示を聞きながら、頭絡と呼ばれる乗馬用の道具を着ける。
鞍は鐙が付いていなかったので、ハロルドの馬を参考に、鐙を出す(鞍自体、馬車が変形したものなのでそこから)。ハロルドに驚かれた。

「じゃ、クッキーの左側に立って、手綱とたてがみを掴んで」
「えっ、痛くないの?」
「大丈夫だよ」

言われるがままたてがみを掴んで、それでも心配になってロズに聞いてみても、やはり痛くないようだ。
あとから知ったが、たてがみが生えているところは痛みを感じないようになっているらしい。

「そのまま左足を鐙に乗せて。右足で地面蹴り上げながら後橋つかんで」
「ええっと右足で蹴り上げる…わわっ」

片足立ちの状態では上手く行かず、バランスを崩す。
近くに立っていたハロルドが支えてくれて転ばずにすんだ。

「あ、ありがとう」
「ゆっくりでいいよ。すぐ乗れるようになんで、誰もできないから」
「うん」

けれど最初は危ないからと、ハロルドに支えられながら乗る練習をする。
同時に降りる練習もしたけれど、そちらは難なく出来た。
蹴り上げて乗るのが上手く行かないまま時間は過ぎる。

「今日はこれぐらいにしようか」
「ふー、なかなか難しいね」
「最初はそんなもんだよ」

大分体を動かした。冷蔵庫で冷えたプリンが楽しみだ。

「そうだ。ハロルドもプリン食べてかない?」
「え、いいの?妖精達の分でしょ?」
「多目に作ってあるから、大丈夫だよ。教えてくれたお礼に」
「それじゃあ、遠慮なく」

ハロルドをカウンター席に誘導し、冷蔵庫からプリンを1つ取り出す。
一緒になにか飲むかと聞いたら、そちらは遠慮された。

「アレ。ココロは食べないの?」
「先に片付けしないと。それに、後で妖精達と食べるから」

流石に、何も見えないのにプリンが減っていく光景はシュール過ぎるだろう。居ると分かってはいても、だ。
そう理由も述べれば、納得してくれた。

「手作りのプリンは初めて食べるなー。あんな作り方なんだ」
「ゼラチン使う場合はね。使わないで蒸し焼きにするのは、コツ掴まないとだから難しいよ」
「へぇー。ご馳走さま、美味しかったよ」

食べ終えたハロルドは、空になった器を持ってきてくれた。
置いたままで良いのにと思いつつも、有り難く受け取る。

「じゃあ、今日はこれで。あ、1人で乗る練習したら駄目だよ」
「あー釘刺された」

言われなければやっていたかもしれない。諦めて約束する。
また日を改めて練習する約束をして、ハロルドは帰っていった。

「じゃあ、私達もたべようか」
「はーい!」
「プリン、たべよう!」

妖精達とワイワイしながら、冷えて美味しいプリンを頂いた。

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