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公園での出会い

明日から、念願? の高校生としての生活が始まる。
 フランソワは、この世界に来てからちゃんとこの世界の事を調べた。
 自分が居た世界や自分が巡って来た世界とは違って、魔法なるものは存在しない。魔法と言う便利なものは存在しないが、今まで巡って来たどの世界よりも科学は発展している様に感じる。
 魔法が存在してない以上、フランソワは必要最低限の事以外に魔法は使用していない。例えば、部屋を借りるとか学生生活を送る為以外には、魔法は使用していない。
 この世界に家族がいない以上は、必要なので、それ以外に魔法を使用するつもりもない。
 家事は嫌いじゃないし、使い魔を使役してもいいのだが、それはそれで使い魔を召喚すれば無駄な魔力を消費してしまう。魔力を消費すると言う事は、その分異界に行くのが遅れる事を意味する。
 この世界を最後にと考えてはいるが、念の為に魔力を溜めておく必要がある。
 この世界には、魔物や妖怪と言った類は殆ど存在していないので、一応幽霊と呼ばれる存在はいるらしいが、特に心配する事もないので、フランソワは余程の事がなければこの世界で魔法は使わないと決めている。
 
科学が発展しているのは素晴らしいし、その恩恵で生活が豊かなのも素晴らしいが、フランソワはそんな世界でも人間の心は醜くて、豊かじゃないんだなと感じてしまう。
 テレビから流れるニュースを観ても、ネットニュースを観ても、この世界の人間も誰かを貶めたり、誰かをディスったりと、今まで渡り歩いて来た世界の人間と変わらない。
 全ての人間が、そうじゃない事はフランソワにもわかってはいるが、それでもそんな人間を見る度に悲しい気持ちになってしまう。
 そんな自分に、もっとも人間らしくないのは自分なのにと、皮肉ってしまう。
 魔法を撃たれようが、ナイフで刺されようが、銃で撃たれようが傷一つつかないのだから、そんな自分はもう人間と呼べる存在じゃないと、わかっていても、それでもフランソワは自分は人間だと信じたかった。
 そうじゃないと、あまりにも自分が可愛そうだから、そんな事を考えていてもお腹は空くのだから不思議なものだなと思いながら、ご飯を買いに家を出る。

コンビニに向かいながら、公園を抜けた方が近道なのを思い出す。この世界に来てから、それなりに探索して歩いたのだ。どの世界に行っても、最初にするのが、その世界を見て回る事である。
 その世界の構図を知らなければ、その世界に溶け込む事が出来ないと考えている。
 それが意外と楽しいのだ。元々知らない事を、知らない世界を知る事が好きだと言う事もあってか、探索する事は全く苦にはならない。
 そんな性格のお陰で、こうしてコンビニまでの近道も発見する事が出来た。以前居た世界では、魔法が主流だったから、魔法を使って目的地まで一瞬だったのだが、この世界には魔法は存在しない。
 この世界で魔法が存在するのは、書物の中かアニメと呼ばれる作り物の世界の中のみである。その事を理解しているので、迂闊に魔法は使えない。
 もし魔法を使用して、誰かに見られでもすれば面倒な事になるし、最悪その人物の記憶を抹消するか、存在自体を消さなくてはいけない。それは本末転倒である。
 自分を殺して欲しくて、沢山の世界を長い時間を掛けて旅してきたのに、そんな自分が誰かを殺すなんてありえないしあってはいけないのだ。
 そうは思っても、魔法が使えないのはこんなにも不便なのかと思ってしまう。そんな事を考えながら公園を通り抜けようとしたフランソワの目に、ベンチに座る一人の少女の姿が目に留まる。
 ベンチに座りながら、少女の営みと言う怪しげなタイトルの本を真剣に読んでいる少女は、黒髪ロングの眼鏡少女だった。怪しげなタイトルの本の内容も気にはなったのだが、それ以上にフランソワが気になったのは、その少女の美貌だった。
 フランソワが、この世界に来て読んだ本では、眼鏡を掛けた少女は眼鏡を外したら美少女的な展開であり、眼鏡を掛けている時は、普通か又は目立たない存在と明記されていたのに、その少女は眼鏡を掛けていても美人であり、フランソワじゃなくても、誰が見ても美少女と言える程に綺麗な顔をしていた。
 そんな少女に、フランソワは気付いたら声を掛けていた。
「その本面白い?」
 金髪碧眼の同い年位の少女に、いきなり声を掛けられて眼鏡少女は驚きから読んでいた本を、落としそうになってしまい慌てて本を抑える。
「ごめんね。驚かすつもりはなくて」
 少女は、怪訝そうに「なにか用事ですか?」と危険な人間を見る様に警戒している。
 そんなに警戒しなくてもと思いながら、フランソワは笑顔を向けながら自分が気になった事を少女に伝える。
「私が知ってると言うか、本で読んだ情報と違ったから」
 本では、眼鏡の少女はと自分が本で知った知識が間違っているのかが気になったからと、素直に目の前でいまだに警戒を解かない少女に話す。
「それは、あくまで物語上の設定ですから、それに私美少女じゃありませんし」
「そうかな? 充分美少女だと思うけどって、私シャルル・フランソワって言うの」
 目の前の金髪碧眼美少女に自己紹介をされてしまった以上は、自分も自己紹介するべきなんだろうとは思うのだが、目の前の少女がどんな人物かもわからないので、正直悩んでしまう。
「私、このせ、じゃなくて街に来たばかりなんだ」
「そうなんですね」
 この街に来たばかりなら、まだ知り合いはいないんだろうなと思いながら、少女の笑顔が可愛くて目が離せないでいると少女が、ここで会ったのも何かの縁だし良かったらお友達になってくれないかな? と言うので眼鏡少女は自分もまだこの街に友達がいないしと、自己紹介する事にする。
「私は、篠崎静流です。フランソワさんですよね、宜しくお願いします」
「静流だね。宜しく」
 いきなり呼び捨てなんだと思いながら、何故か嫌な気分にならないから不思議である。今までの自分なら、こんな事でもイライラしていたのにと、静流は思いながらフランソワの話に耳を傾ける。
 フランソワの話では、自分と同い年であり同じ高校に通うらしい。フランソワが同じ高校に通う事は、正直嬉しい。何故そう思うのかはわからないけれど、彼女がいてくれたら楽しい高校生活を送れそうな、そんな気がしたから、そして彼女から自分と同じ匂いがしたから、上手く言えないけれど彼女も自分と同じで他人には言えない秘密を持っていると、そう感じた。
「その本って面白い? 少女の営みって不思議なタイトルだけど、どんな本なの?」
「そ、それは……」
 い、言える筈なんてない。少女が年上のお姉さんに色々と教わりながら開発されるなんて、そんな内容の小説だなんて、口が裂けても言えない。
 目をランランと輝かせながら、本の内容に興味津々ですと言った瞳で見てくるフランソワの顔をまともに見れない。なんて説明すればいいのか?
「か、官能小説です」
 そう答えるのが精一杯だった。
 女の子同士の恋愛で、それもエッチな内容を含んでるなんて言えない。言ってしまえば、そういう趣味なんだと、そう言う人間なんだと思われてしまう。
 実際女の子が好きで、女の子同士の営みに興味があるのだから否定は出来ないのだが、今日初めて会ったばかりのフランソワにそんな人間なんだって、そんな汚らわしい女の子だって思われたくないし軽蔑されたくなくて、静流は彼女をまともに見る事が出来ない。
「そうなんだ。官能小説って面白い? 私読んだ事なくて」
「お、面白い……です」
「そっか、今度貸してね」
「うん」
 フランソワの笑顔が眩しくて断れなかった。
「それじゃ、私コンビニに行くから、また学校でね」
「うん」
 そう言うと彼女はベンチから腰を上げてコンビニへと歩き始めた。そんな彼女が去り際に言った言葉に静流は驚きを隠せなかった。
「女の子が好きでも、女の子とのエッチに興味があってもいいと思うよ。そんなんで、私は静流を軽蔑しないから安心してね」
「えっ?」
 本の内容も伝えていないし、ましてや自分が女の子が好きで女の子とのエッチに興味がある事なんて恥ずかしくて口が裂けても言えないから、フランソワには一言も伝えていないのに、どうして彼女が自分の恋愛対象に気がついたのか、静流にはどうしてもわからなかったけど「軽蔑しないから安心してね」その言葉が嬉しかった。

コンビニで買ってきたお弁当を食べながら、今日公園で出会った静流と言う少女の事を考えていた。
 彼女に声を掛けたのは、彼女が美人だったのもあるが自分でもわからないが、彼女に声を掛けて彼女と知り合いになりたいと思ってしまったのだ。
 こんな事は初めてだった。
 今まで多くの世界を巡ってきたが、一度もこんな気持ちになった事なんてなかったのに静流を一目見て、彼女と関わりを持ちたいと思ってしまった。
 そんな自分の感情に戸惑いはするが、嫌な気持ちにはならない。むしろ心が喜んでいると言うのが素直な気持ちである。
 この世界に来て、いや今まで生きてきてこんな気持ちになるのは初めてかもしれない。
 高校生活も、静流がいれば楽しくなるに違いない、そんな確信をもてた。

 

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