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その頃レアムでは……

 注)ノーコン管轄外


「はあっはっは! 気分が良いぜぇ!」

「……それは良かったですね」

 辛気臭い表情のアルディモを覗き込んだヴェサリオが絡む。

「おいおいアルディモよぉ、あのクソバケモンの言った通りの結果に終わったのかぁ?」

「ええ、まぁ……」

「ちっ……んなもん覆せよ、つまんねぇ奴だな」

 ヴェサリオならからかいに来るだろうと思っていたアルディモは、予想外の反応に戸惑いを隠せない。

「っ……面目ない」

「でぇ? あんたはえらく上機嫌だけど、ちゃんと勇者を殺したんだろうなぁ?」

「そうよねぇ? 私なんて痛い目見ただけだったわぁ……ムカつくっ!」

 不機嫌そうな顔でヴェサリオに近づいてきたロドミナとハルロネが絡んでくる。仲が良いとは言えないレアムの将官達が、3人以上集まる事は普段あまりない。

「はっ! あのアホ女は知らねえ。俺様の成果は俺様の嫁を捕まえてきたって事だ!」

「「「は?」」」

 盛大に仕事なんか知ったこっちゃねえ! と言ったも同然の同僚を、何してんのこいつ? といった表情で見やる3人。作戦のメインであるはずの男の無責任な発言に、囮役だった女性陣が怒りのボルテージを上げつつあるのが感じられ、アルディモはそっと距離を取る。

「見ろこいつを! グレイスっつったか? 良い女だろう!」

 そんな様子をまるで感じず、ヴェサリオはこれが収穫だと言わんばかりに金属化して身動きの取れないグレイスを披露する。

「ああ!? この馬鹿! 捕縛用『兵器』まで使って女さらってきやがった!?」

「……ええぇ? 懲罰ものじゃないのぉこれぇ?」

「………………」

 湧き上がる怒りは何処へやら、怒りのベクトルが変わったロドミナに、怒りより困惑の勝ったハルロネ、そしてアルディモは同僚の行動が上役にどう映るか心配したのだった。

「テメエ等はアホか。あの勇者様が連れ去られた仲間を放っておくような、人でなしなわけねえだろうが! あっちに潜入するより有利なこちらで、丁重にお出迎えしてやりゃあ良いんだよ! ……ま、それまでにこの女は俺様のモノにしちまうがな!」

「うわ、流石のバカ様だな。ゲッス……」

「あははぁ! あんたクズねぇ」

「うるせえ! テメエも似たようなもんだろうが!」

「あ゛あ゛!? 下半身で物考えてるテメエと何処が似てるってんだ!? よく考えて喋らねえとただじゃ置かねえぞごるぁ!?」

 似たもの扱いされて別人の如く激昂するハルロネ。余りの剣幕に、ヴェサリオの勢いが掻き消える。

「おぉ? おっ、おぅ、なんか、悪ぃ」

「ったくよぅ。私のは純・愛、なんだからぁ〜」

「(おいアルディモ! 俺様がこんな奴と似てるってのか!?)」

 以前、ハイネリアがヴェサリオとハルロネを似た者だと言い、アルディモもそれに賛同した事があったが、ヴェサリオは激しく否定していた。

「(すみません。貴方があの時激怒した気持ちが今痛い程分かりました。これからは口にしません)」

「(おう……マジで頼むぜ)」

 今回の遣り取りで、アルディモはハルロネの中身を数段上に格上げするのだった。そんな遣り取りを見ていたロドミナは、ヴェサリオの手元をみて顔を顰める。

「んでよぉ? 楽しくキャッキャウフフしてる所悪ぃがよぉ、バカ様。これ解けんのか?」

「あ゛あ゛!? さっきからバカ様ってのは、もしかしなくても俺様の事か!? ぶっ殺すぞテメエ!」

「うっせえよ。とっとと解けよ。あんまはしゃいでっと去勢すんぞコラ? とっととやれや」

「ういっ!? (くっそ、この国の女共は何でこんなんばっかなんだ……)ほれ、解除。………………ぉぅ? 何で解けねえんだ?」

「はぁ……やっぱりか。この『兵器』は二段式だ。凍結させ、解凍するってな。しかし凍結させたら、凍結剤部分の上半分が消えるんだよ。テメエの『捕獲兵器』は奇麗にまるまんま残ってるだろうが?」

 予想していた結果に盛大に溜息を吐きつつ、ロドミナは『兵器』のシステムを説明する。

「おーおぅ? つまり……?」

「他に誰かこのお嬢様を凍結させた奴が居るってこった。話からすると勇者様しかいねえわけだが、先に凍結させられちまってたってこったな。一度こうなったら開放のキーを持つ勇者様にしか解けねえな。にしてもこんな使い方があったのかよ……」

 ロドミナは思考を巡らせ、ゆっくりと考えるためかふらふらと歩いていく。一方、ヴェサリオは理解がまだ追いついていなかったらしく、分かるキーワードだけを拾って理解に努めている。

「……うん? あー……誰かが先に? 勇者? んで? 勇者にしか……って、はぁ!? なんだそりゃ!? 苦労して嫁を捕まえてきたってのに、何もできねえってのか!」

「うわぁ、下品ねぇ。何する気だったのよぉ」

「うるせえ! ナニに決まってんだろ! テメエは野郎とヤッてねえってのかよ!」

「あ゛あ゛!?」

 くすくす笑っていたハルロネが、先程以上の剣幕でヴェサリオを睨みつける。

「うえっ!? いやなんでもない、です(クソ! 俺様より弱いくせに何でこんなおっかねえんだ!)」

「私達の愛を下卑たあんたと一緒にしないでよね」

「いや、俺様は……」

「おやまぁ、騒々しい事……」「………………」

 声の主に気付いた将官達は慣れたというか身に染み付いた動作で跪く。そして先程の声の主の隣にはかなりの長身で痩躯な黒ずくめの男が立っていた。将官達の様子からは、声の主より更に恐れられているのが感じ取れる。

「ヴェサリオの勝手な行動には困ったものだと思うけど、今代の『勇者』の引きずり出しには効果的だと思うわ。敵の大規模な抵抗にあって勇者を殺せない可能性が高かったことを考えれば、成果はプラスマイナスで言えば少しばかりプラスだわね」

「っし! ……じゃなかった。有難き幸せ! ……ん? 殺せない可能性が高い? はぁ!? 俺様まで最初から失敗込みだったのかよ!? ふざけんじゃねえぞ! クソバケモンが!」

 ヴェサリオが思わず立ち上がって文句を言う。

「だとして何が問題かしら? もちろん次善の策は用意してたわよ?」

「うぐっ!? うっ……何も、ないです」

 目を細めて静かに「だから?」と問われ、相手を勝てない対象と見ているヴェサリオは渋々引き下がる。

「よろしい。それに他の子達は逃げ帰ったにしろ、ちゃんと囮の仕事はこなせてるから良いとしましょう。……ハイネリアが負けたのは意外でしたけど」

「……は?」「え?」「………………」

 ハイネリアの敗北を告げられた将官達に動揺が走る。中でも先程から立ち上がっていたヴェサリオは信じられないらしく、怒りの形相で詰め寄っていった。

「おい、どういうこったよクソババァ」

「ヴェサリオ! 落ち着け!」

「うるせえ! アレは俺様がこの国で唯一認める強者だ! テメエ等みたいに理屈の分からねえ強さじゃねえ! 作られたにしろアレは純粋な力だった!」

「………………」

「そいつが負けるだと!? 嘘も大概にしや……っ!?」

「黙りなさい」

「(パクパク)」

 何らかの『力』を行使されたのか、ヴェサリオの動きが止まる。息まで止められてるわけでは無いが、無理やり動きを止められ苦悶の表情を浮かべている。

「意外だと言ったでしょう? 大方向こうにも同じ様な能力のゴーレム、或いは対抗できる何かを備えた者が居たのでしょうね。オーバーロード状態のハイネリアを下せる程の者が居るとは思えませんでしたが……」

「それで……私達はどう動けば良いのでしょうか?」

 アルディモはヴェサリオを一瞥すると、早く話を終わらせようと話題の終息を早めるべく続きを促す。

「貴方のそういう賢い所は好ましいわね。今回の件を受けて、彼等の主力は全て前線に出てくるでしょう。いえ、出てこざるを得ないわね。ヴェサリオではありませんが、こちらに有利な条件であちらを叩き潰す良い機会と言えます。……これはヴェサリオの手柄ね。大人しくしてるなら動いて良いわよ」

「(コクコク)……ぶはぁあああっ! ………………」

 怒りの形相で真っ赤な顔をしながら息を整えると、先程と同じように跪くヴェサリオ。それを心配そうに見つめるアルディモであったが、もう切れる心配はないと判断したのか前を向き直す。

「あの国にはゆっくりと消えてもらうことにするわ。仕込みは上々。先代が出てこざるを得ない状況を作りましょう」

「先代……って1000年も前の話ですよねぇ〜? 生きてるのぉ? ……ですかぁ?」

「ええ、生きてるわよ。ええ、生きてるわ……ふふ……」「………………」

「「「(ゾッ)」」」

『勇者』の話をした途端、二人から漂う雰囲気が明らかに変わり、その異質さに恐怖を覚えて震え上がる将官達。今自分達が傅く相手は得体が知れていても理解の外の存在だと、改めてその認識を確かな物にするのだった。

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