食堂のお姫様 3
散らかった食堂の片付けをしていても、ネネルのことが頭から離れない。
トガリは「すごいね、いつ姫様とお知り合いになれたの?」なんてしつこく聞いてくるもんだから、頭にきて一発殴って黙らせた。
「お前らしい突き離しかただな」今度はラザトが手持ちのぶっとい葉巻を燻らせながらそう言ってきた。
俺らしいやり方……か。いや、もうこれしか方法が無かったんだ。こうでもしないとあいつは何度でも危険を犯しながら俺のところに来るのは明らかなんだし。そうなってしまったらイーグにも負担がかかってしまう。
しかし、これでよかったはずなのに……なんなんだろう。今度は違うイラつきが胸と頭の中にチリチリと焦げ付きのような跡を残している。
「やっぱり気になるんだろ? あのおてんば姫のことが」
俺はつい、うるせえな! と持ってたバケツを投げつけたかった……が、胸にはチビを抱えている。抑えろ……ラザトに怒りをぶつけても意味ないぞ。と落ち着かせるために深呼吸ひとつ。
「なんでねねるおねえたん行っちゃったの?」
胸元に目をやると、チビが悲しそうな目で俺を見つめていた。
そういえば、チビって今まであいつの……ネネルの姿を見たことなかったんじゃ?
最初にお城であいつと会ったとき。
マシューネに行く時。
そして裏庭に現れたとき。
そこには、チビはいなかった。だから彼女が本来マシャンヴァルの名前、ネネルであることすら話してもないし、知ってるワケない。
俺の寝言? いや、まさかな……
「なんでその名前知ってるんだ?」
「ねねるはおねえたんだから」
「いや、だからなんでネネルの名前をだな!」
「やめなよラッシュ……チビちゃん怖がってる」
俺の裾をツンツンとトガリが止めてきた。
いけねえ……つい感情的になるところだった。
「ネネルって、あのお姫様のこと?」
そうだと答えておいた。もちろんマシャンヴァルのことには触れたくないし、その名前はあだ名だとも。
「すごいねラッシュ。姫様のことをあだ名で呼び合えるなんて」
「おうさ、いつかこのバカ犬も近衛兵になる日が来るかも知れねえぞ」
「えええ、そうしたら僕も専属コックになれるかな?」
ラザトとトガリで勝手に盛り上がり始めた。いいさ2人でバカやってろ。
しかし、ネネルの件にしてもそうだが、なんでラザトは王子や姫に対して面識あったんだ……?
おまけにこの前王子が来た時も、ラザトと呼んでたし。
コイツに関してもまだまだ隠された過去がありそうだな……そう、ネネルのように。
そしてこのチビにしてもだ。まさかこいつもマシャンヴァルの……ンなワケないか。
ちなみにエッザールはいまだに硬直したままだった。