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マルデ攻城戦 10

次に目を覚ました時、俺は誰かの背中に背負われていた。

最後に……そう、空が真っ黒になったところまでは覚えている。あれは確か昼くらいだったろうか。今はもう陽が落ち始めて、地平線が真っ赤に照らされている。結構長い時間意識を失っていたんだな、って。

「よお、目ぇ覚ましたか?」
ラザトの声だ。ってことはあいつが俺を助けてくれたのか。

俺は応えよう……としたが、鼻の上、つまりこの伸びた鼻面がとにかく痛くてうまいことしゃべれないことに気付いた。
誰に斬られたんだこれ。全然記憶にない。おまけにこの傷、付けられてからそこそこ時間が経っているのか血が固まって、それが口元の毛にこびりついて余計痛むし。

「なんだぁ、ここ……」
「覚えてねえのか? まあしょうがねえか」かいつまんでラザトは話してくれた。結局あの後、残りのリオネング軍をかき集めた騎馬隊が城に特攻し、無事マルデ城を奪還したそうだ。
しかし国の内外から集まった腕利きの傭兵たちはほぼ全滅。恐らく十人も生き残ってないだろうって。
そして……
「お前も死んだとばっか思っていたんだけど、すごいよな、あの矢の雨の中一人だけ傷一つなく……いや、あったか」

奇跡的にも、俺に矢は一本も当たっていなかったそうだ。百人近くのカネに飢えた傭兵連中が城に突っ込んでいったそうだが、堀や死体の下に潜んでいた弓兵の一斉射撃でなすすべもなくやられていったんだとか。

さらに、俺の近くに聖母とかいう女が来ていたらしく、何人かそれを目撃したって話も。
「全然わからなかったのか? お前のそばにいたんだぜ、聖母ディナレさんが」
「ひらねえよひゃんなこと……いてて」まだうまくしゃべることができない。
「もしかしたらお前のことを救ってくれたんじゃないかなって。まあそんなワケねえか。霧が濃かったからそれの見間違いかもしれないしな」

結局、そのディナレ降臨事件は、霧の隙間から太陽の光が差し込んだものだとして片づけられたらしい。

「ところで、その傷一体誰につけられたんだ?」
そうだ、この傷だ。気が付いたらこんな場所に深々と。おまけにきれいに十字に刻まれているし。いくらなんでもご丁寧すぎる斬り方。
……そうだ、全然記憶にない。斬られたという記憶すら。

「でもいいんじゃねえか? そんな目立つ場所につけられるといい感じにカッコよくなるぜ」
「名誉の負傷ってやつ?」
そういうことだ。とラザトは喜んで答えてくれた。けど今の俺にはふざけるなバカ野郎としか言えなかった。とにかく痛くて仕方がない。っていうか治るのかよこの傷……まったく、誰が俺を斬ったんだ。

「くっそムカつく。ぜってー思い出してやる。こんなところに傷をつけやがって」
「見つけられたらどうする? 敵でも討つか?」

「あったりめーじゃん……ブッ殺してやる」
だがその前に、一つやることがあったんだ。

………………
…………
……

本部にようやく到着してあたりを見回すと……うん。確かにラザトの言ってたことは間違いなさそうだ。全ッ然人がいねえ。それに残っている連中もケガがひどい。無事帰れるかどうかって状態のやつも結構見受けられるし。

川の水で顔を洗うと、くっきり赤い十字の傷が俺の鼻面の上に刻み込まれていた。
ああ、ほんと腹が立つ、いつか絶対に探し出してブッ殺してやる。怒りと激痛とでこのイライラは当分収まらないんじゃないかって思えるくらい。

ってことで、その怒りをまずはラザトにぶつけた。
「よお、痛みは引いたか?」
俺はその言葉には答えず、そのニヤけた顔面に一発パンチを見舞った。
そうだ、城に行ってこいと俺の背中を蹴飛ばしたお返しだ。恐らくラザトのバカは気づいてないとは思うけどな。
案の定「なにすんだてめええええ!」って鼻血まみれになりながらうろたえてた。だから俺は言ってやったさ、俺一人だけ行かせたお返しだと。

「今度俺の背中を蹴ったらな……一発だけじゃ済まねえからな。覚悟しとけ」

そう、俺をちょっとでも裏切った罰だ。

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