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マルデ攻城戦 3

装備はいつもと変わらずだ。
大きめの、肉厚の刀身のナタに、組みついた時に使うナイフを二本ほど。あとは戦場で適当に拾った武器とか奪ったやつとかで充分まかなえる。

「そんな装備で大丈夫か?」と心配したラザトがわざわざ聞いてきた。けど大きなお世話だ。大丈夫だってば、問題ない。と。

親方は、荷物は増やしてから徐々に減らしてけっていうのも口癖だったなあ……結局は必要最低限でいいんだ。身を守るものだけで。

「なあなあラザト、マルデっていったいどういう場所なんだ?」
「あァ? お前は事前に行く場所の下調べとかやらねえのか? よくそんなんで生き延びてこられたな」

カネを取るか、命を取るか。

まず最初に選べって言われたら、命を取るのがほとんどだろう。だが中にはカネを最優先にするバカな奴が、今馬車に揺られている。
とはいえ、このカビ臭い馬車には俺とラザトだけしかいないが。
そのラザトも戦場を前にして、少々苛立ってるみたいだ。
「下調べ? そんなのやらねーよ。俺、字なんて読めないし」
「読み書きくらい勉強しろ、お店になった時に絶対役に立つから」
「親方はそんなもの必要ないって言ってたぞ」

ああ……この頃からだったよな。親方はメシのタネにならないモンなんて頭に入れたって無駄だって。だから俺もその教えをずっと守ってきたんだ。
なんでかって? あの頃は親方の言葉が全て、そして絶対だって信じ続けていたからな。

「仕方ねえな……つまりな、ざっくり言うと、この先にマルデ城って名前の小さなお城がある。そこがだいぶ前に敵に乗っ取られて以来、そこが奴らの拠点になってるワケだ。でもってそこを今回奪い返すって作戦なんだが、これはこれで意外と手こずっててな。しかもバリスタまで置いてあって近づくことさえできないみたいだし」
「バリスタ? なんだそれ」
「巨大な岩を遠くまで飛ばす……要はでっけえ飛び道具のことを言うんだ。まあ人によっては投石機とも言うがな」
「ラザトはバリスタは見たことあるの?」
「いや、俺もそいつは実際に見たことはな……がっ!」
突然、俺たちの後方から、ドンともズンともいえない大きな地響きがした。腹の底から突き上げられるような……座っていた俺とラザトが飛び上がってしまうほどの衝撃が。

「じ、地震……ンなワケねえか」急停止した馬車から慌てて飛び出した俺たちが見たもの。それは……
何かに潰され、地面に大きくめり込んだ後続の馬車だった。
大きく半円状に地面は窪み、その中心には一瞬のうちに潰されてしまった馬と馬車。中にいた仲間たちは……もう見なくてもわかる。即死だってことくらいは。
「うっわ、どうしちゃったんだよこれ、ぺっちゃんこだ!」
はしゃぐ俺とは裏腹に、ラザトだけはその惨状に目を置いていなかった。はるか先の……そこには大きな岩が転がっていた。
「ちょうどよかった。これがバリスタの威力だ」
俺の背丈よりもっと巨大な岩を遠くまで飛ばして、当たったが最後確実に死んでしまう。それが投石機=いわゆるバリスタだと言うことを俺は初めて目にしたんだ。
「すっげえ武器なんだな、けど面白いじゃねえか、もう一発くらい飛んで来ねえかな?」
恐怖なんてものは全く存在しなかった。どちらかと言えばワクワク胸躍らせていたほどだ……あの頃の俺はまだそんな気分で戦っていた。
そう、あの事件に直面するまでは。

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